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愛する瞳
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しおりを挟むそれからソンジュさんは、こう低い声で続ける。
「…ケグリには、ユンファさんへの依存、執着に近しい愛情があるのかもしれません。――残念ながら…正直、美しさがアダになることもある…、ユンファさんが美しいために、というのが、確実にあるのですよ。」
「……、……」
何に対してなのかわからないが、…僕は顔を伏せたまま、ゆるく顔を横に振った。
「…いいえ、本当のことです。そういった歴史は、いくらでもありますから。…いつの世も美しいオメガ属は、男女など関係なく、男のいびつな支配欲の的となってしまうものなのですよ。――ましてやユンファさんは、アルファ属的な気高い美しさをお持ちだ。高嶺の花、本来ならばまず手が届かない…そうした、ユンファさんのように怜悧で美しい人をあえて酷く雑に扱うことによって、また、その美しい人が自分の言いなりになっている姿を見て、アイツらは優越感とともに支配欲、独占欲を満たそうというのです……」
「…………」
もう否定も何もしない僕は、何のリアクションもしなかった。――「しかし…それはアイツらが自分に自信がなく、劣等感の塊であるからこそ、なのですよ。」そう付け加えて、ソンジュさんは、さらに続ける。
「……それで、ユンファさん…、たとえば暴力を振るわれたり、無理やり犯されたり、それが怖くて…あるいは、もはやケグリたちに怒鳴られることが怖くて、アイツらが怒らないようにと、怯えながら意思決定をしたり…――そういったことは、ありませんでしたか」
「……はい…、ありました…」
というか、そんなの…日常的にそうだった。
僕はぼんやりとしながらも顔を伏せたまま、ゆっくりとまばたきをした。
「そう…俺が思うに、ユンファさんには専門的な治療が必要かもしれませんね。やはり、完全にマインドコントロールされているかと……もちろん、貴方がお望みならばそのように、俺ができることなら何でも手を尽くしますが…」
「…………」
そんなに僕、深刻な状態なんだ。
全然気が付かなかった…――マインドコントロールされているなんて、全然思ってもみなかった。
ソンジュさんは少し、強い調子を抑えて、さらに。
「…先ほど…例の契約書を読ませていただきましたが、あれは、マインドコントロールの方法として…まあある意味で、適切といえばそのような内容でしたよ。――ケグリたちははじめから、ユンファさんをマインドコントロールするつもりだったのでしょうね。…」
「………、…」
マインドコントロール…単語自体は聞いたことがあるが、まさか自分がそれに引っかかるなんて思ってもみなかった。――だが、ソンジュさんの言葉が、疑わしいとはまるで思わない。…むしろ…そうなのかもしれない、と、すっと腑に落ちるくらいなのだ。
「…まずあの契約書にもありますが、ユンファさんは、身体的なコントロールをされている。――睡眠や衣服、食事など…ユンファさんの生命や体に関わるもの、生活に関わるそのすべてが、あの契約書どおりケグリ氏をはじめとした三者に、厳密にコントロールされているのでしょう。つまり、ユンファさんの日常生活は、一年半も他人にコントロールされてきたわけです。…」
「…ええ…、…」
そのとおりだ。――あの契約書の内容どおり、僕の一日のスケジュールは、もうこの一年半ずっと、完全にノダガワ家の人々に管理されている。…あれ通りに。
「…ところで…睡眠時間は、平均でどれくらいですか」
「…ぇ…ぁ……えっと…、…」
朝七時に起き――裸にエプロンだけを着けて、まずは掃除と洗濯といった家事を終わらせ、それから、ノダガワ家の皆さんの朝食を作る。…朝食を作り終えたら一人一人を起こしに行く。フェラチオをして起こし、そのまま彼らの気分によって犯されることもあるが、…全員がご起床なさったら、給仕をしつつ彼らが朝食を食べる。
その間僕は、日ごと順ぐりに決められた人の男性器をひたすらフェラチオする。…そうして精液を飲まされたあと、口をゆすぐことは許されないままだが、やっと僕は朝食を食べることができる。彼らの残飯だ。――ただその前に、テーブルの上に座って脚を開き、全員に見られつつ「淫乱でごめんなさい、僕のオナニーを見てください、ユンファは変態マゾです」というようなセリフを延々言わされつつ自慰をさせられ、絶頂に膣が濡れたところでケグリ氏に今日のバイブを挿れていただいて、その快感にもてあそばれながら…乳首をつねられたり、ぐちゃぐちゃに咀嚼された朝食を口移しされたり、…朝食に精液をかけられたりすることもあるが、…少なくとも朝は椅子に座り、食器は使わせてもらえる。
「…、……、…、…っ」
そうしてさんざんもてあそばれたあと、九時には出勤し……あの恥ずかしい格好をさせられ、ケグリ氏にもてあそばれながら僕は、開店準備を始め…――『KAWA's』が閉店したら先に家に帰り、ノダガワ家の皆さんの夕飯を作る(『AWAit』がある日はそのまま居る、モウラとズテジ氏の夕飯は朝に作り置きしておく)。
ケグリ氏はまだ事務作業をしていたりするし、モウラも『Cheese』の閉店作業をしているため、このときに僕を犯すのはズテジ氏くらいだ。――そのあと帰ってきたお二人を土下座で迎え…三人が夕飯を召し上がられているとき、僕はケグリ氏のものだ。
「………ッは、……っは…、…っ」
つまり…裸か、エプロンだけか、ああしたブラジャーにパンツ、スケスケのキャミソールみたいな服を纏って彼の膝の上にまたがり、ケグリ氏のお食事を手伝う。――あーんと食べさせたり、口移ししたり、口の周りを舐めとったり、…僕の胸にわざと料理をのせられ、舐めとられたりもする。もちろんお尻を揉まれたり、膣をいじられたり、好きに体を触られながらだ。…下手したらケグリ氏の男性器を、挿入されたままそれをやらされる。
「……、…、…は、…は…、は……」
そうして夕飯が終わったら後片付け、それぞれをお風呂に入れる。自分の体で彼らを丁寧に洗う。…男性器は口の中で舐めるか、膣で…そのあとは「奴隷の汚いマン汁で汚してごめんなさい」と手で丁寧に…――そして『DONKEY』出勤前まではさんざん三人に犯され、…良いときはさっと夕飯を食べて出勤できるが、悪いときは床に皿を置かれて犬食いをさせられる。…そのまま犯されながら食べさせられることもあるし、変態オメガの餌として皿に精液だけを与えられることもある。
「……ぁ…ぁぁ、…ぁ……、…っ」
そうして…『DONKEY』に出勤して…、……零時から四時まで働いて、家に帰って、寝て…三時間ほど寝て、八時に起きて…いや、オメガ排卵期の二、三日目以外夜は休みだから、そのときに寝溜めしているから、…週末は三時まで『AWAit』で、そのあとご奉仕して、…えっと…思えば、僕は…――。
体が、勝手に、ガタガタ震える。――ボロボロ涙が勝手に目から落ちて、…泣いているわけじゃないのに、勝手に涙が落ちてゆく。
僕は重たいうなじに、うつむいた。
「……は、…た、多分…三時間か四時間、…オメガ排卵期のときは夜が休みなので、もう少し眠っているかと、……」
僕…思えば、一年半もずっとそんな生活を、毎日毎日何の疑問も抱かず、繰り返していた。…もちろん最初は違っただろうが、このところは、さも当たり前のように…――おかしいなんて、少しも思わなくなっていた。
「………、ユンファさん…、ごめんね……」
ソンジュさんは、僕のことをぎゅっと抱き締めた。
そして震えている僕の背中を、優しく、大きくさすってくれる。
「…辛い記憶が、フラッシュバックしちゃったね…」
「…はぁ……はぁ、……は、……」
僕…――辛かった、のか……?
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