ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
160 / 606
愛する瞳

18

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 ソンジュさんの家は、この高そうなマンションの地上二十階らしいのだ。
 地下駐車場から入った先の小さな空間にあった、そのやけに華やかな匂いがふんわりとするエレベーターに乗り込むなり、ソンジュさんは階数のボタン上にある液晶パネルに片手をかざした。――おそらくそれは生体認証であり、すると勝手に階数のボタンの最上階、…『20』の文字がピッとオレンジに灯ったのだ。
 二十階建ての高層マンション――もはや僕からしてみれば、そんなところに住んでいるだけでもめまいがするほど凄いのだが、…更に、その高層マンションの、最上階。…ソンジュさんは、地上二十階に、住んでいる。らしい(マンションに住んでいた友人の家に遊びに行ったことこそあるが、…二十階にまでのぼったことは、マンションと言わずどんなビルでも経験がない僕だ)。
 
 そうして地上二十階へと向かい――急上昇するエレベーターのなかで、ぐうーっと頭から空気に抑えつけられるような、そうしたもぞもぞする重力を感じつつ僕たちは、お互い気まずい無言で出入り口の、そのエレベーターの天井付近にある階数がひとつひとつ灯ってゆく様を、ぼんやり眺めていたのだ。
 
 ただ、さすがに地下一階から二十階までの道のりでは途中でエレベーターが止まり、そして、もちろん人が入ってきた。――するとソンジュさんは、僕のボロボロの格好を、やはり気に掛けてくださったのだろう。
 
 ただ――ち、近い。
 
「……、…」
 
「…すみません、セクハラにならないといいんだが…」
 
「…ッ、ぃ、いえ、それは…大丈夫です…」
 
 ソンジュさんはやけにセクハラだとか、そういうことを気にする人のようだ。
 いま小声でそう僕に謝ってきたソンジュさんは今、エレベーターの壁に背を預けている僕の体を隠すように、僕の頭あたりに肘を着き――いわゆる壁ドン、という状況に近い形を取ってくれた。…のだが、いくらソンジュさんのほうが背が高いとはいえ、およそ十センチ違うか違わないかの僕と彼がそうして重なるように向き合うと、…真剣な彼の美しい顔が、非常に近い。――彼が話しかけてくると、その生暖かい息が僕の頬を湿らせて擽ってくるのだ。
 
 すると、正直…僕の腰が擽ったく反応してしまう。
 
 ただ、僕も一応さりげないふりをして腕で隠していたんだが――そのせいで肩にかけていたトレンチコートを落としそうになってしまったために、ソンジュさんは気を使ってこんな体勢に…いや、よっぽど怪しい二人組に思われなくもないような、そんな気もする。
 
 な僕だけならばともかく――アルファで九条ヲク家に生まれたソンジュさんは、世間体もあるだろう。
 
「…ソンジュさん、すみません…お気遣いはとても有り難いのですが…――正直僕は別に、どこを見られても大丈夫です、慣れてますから…」
 
「いえ、そういうわけにはいかない。」
 
「…、…あの…あのいえ、本当に大丈夫です、ですから一旦……」
 
 そうじゃなくて、僕は――とりあえず退いてほしい。
 本当に申し訳ない、申し訳ないから、もうお仕置きだなんだとかではなく、僕はせめてトレンチコートに袖を通して、前のボタンを閉めたいのだ。――が、ソンジュさんの腕に囲われ、近い前方に居る彼の体に阻まれて、腕を動かすことができないのである。
 早くそうするべきだったんだが、もはやその間にどこをどう見られたって構わない。――ソンジュさんをはじめとして、他の人に迷惑さえかけなければ僕はいいのだ。
 
「…一旦退いてくださらないと、その…トレンチコートが、着られませんから……」
 
「…別に、これで隠れているのだから、いいじゃないですか。」
 
「……、…?」
 
 は…? 何を言うんだよ。
 やけに真剣な顔をしてそう断言するソンジュさんに、僕は小首を傾げる。――いやてか、な、なんて綺麗な顔だ、それにやっぱり良い匂いがする、ソンジュさんの吐息が、顔にかかる、何だ、吐息までなにかうっすら甘い匂いがするような…――彼の顔を見てしまうと、とたんにそうぐちゃぐちゃ断続的に考えてしまうので、僕は気まずさに顔をやや斜めへ背けた。
 
「…よ、よくないかと、正直、全然……」
 
 こんな…レイプされました、みたいなワイシャツを着て、首輪までつけている僕を――腕で、体で囲い込むソンジュさん。…変な目で見られるどころの話じゃない。
 それもソンジュさんは、あの九条ヲク家の人である。…そんな名家に、僕なんかのせいであらぬ噂が立ち上った日には、それこそどうなることやらわからない。
 
「…それはなぜです」
 
「…な、なぜって…僕とこんな体勢になっているソンジュさんは、正直、恥ずかしくないですか……」
 
 ――もちろん意図こそ違えど――僕のことを壁際に追いやって押し付け、まるで人目をはばからず、僕にキスでもしようとしている人…のようになっているソンジュさんこそ、妙な目で見られかねないかと思うのだが。――しかも今の僕の服装的にも、いろいろ完全にアウトである。
 
「…いいえ。俺は恥ずかしくも何ともありません。」
 
「…そうですか…でも、これじゃ変なうわs…ぁ、♡」
 
 ソンジュさんの顔が、やや斜めへ背けた僕の顔…片耳に近寄ってきて、――すん、とそのあたりを嗅がれたような気がする、僕の勘違いかもしれないが。
 
「ごっごめんなさ、…変な声出して……」
 
 けっこう擽ったかった。
 いや…正直に白状すると、僕は耳が性感帯なのである。
 それでひくっと跳ねつつ、小さくも思わず声が出てしまったのだ…――僕は慌てて小声でソンジュさんに謝り、片手の人差し指と中指の腹で、さりげなく自分の口を押さえて塞いだ。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...