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愛する瞳
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しおりを挟む「…………」
「…………」
あれから僕らの間には、また沈黙が訪れた。
ただ、ソンジュさんは僕の片手をやわく包み込むように握っている。…それでいて彼は、ぼーっと前の方を向いているが。
「…………」
「………、…」
今のキスって、つまり――…羞恥プレイ、だったんだろう。……僕はふっとそう思い、顔を伏せた。
たとえばソンジュさんが本当の恋人であったら、また僕が本当に彼の恋人であったら――恋人の僕が駄目、嫌だ、と示したらまず、…強引に、キスなんかしてこないものなんじゃないだろうか。
でも、ソンジュさんは僕の意思を尊重することなく――ああして勝手にキスをしてすみません、と謝ってきたわりに――、ほとんど強行的にキスをしてきた。
「…………」
つまりこの“恋人契約”は――僕が、そうして意思のない言いなりの性奴隷であることがまず、もう大前提にある“契約”ということなんだろう。……結局、恋人プレイをさせられている性奴隷が、僕ということだ。
そう思うとやっと、何かと腑に落ちてくる。
どうりで彼(というかモグスさんを含めて彼ら)僕に優しくし、やけにVIP待遇をしてくるわけだ。
なるほど…――つまりエゴイストだから僕を救い、優しくする、というのはこういうことだったのか。
僕とその“恋人契約”を交わすということを前提にソンジュさんは、僕をあたかも救ったように、優しくしてくださっていたのだ。――だから…僕に、まるで本当の愛を囁いているようなことばかり言っていたのだ。
はじめから、僕とその“恋人契約”を結びたいがために、彼は僕を口説いていただけだったのだろう。
つまり――僕は一週間、この王子様のようなソンジュさんの、…契約上の恋人として彼の家に招かれ、そして、その期間ばかりはそのような扱いを受ける。
ということか。――いや、だからか。…だから、先ほどからソンジュさんは僕に不自然なほど優しく接し、大げさなくらい僕なんかを甘く褒めそやしていたのか。
「………、…」
僕は、…カナイさん、…――なぜ、こんな“恋人契約”を、なんの目的があって、…と。確かめたくなり…恐る恐るながら、顔を伏せたまま。
「……そ、ソンジュさん…ところで…なぜ僕なんですか…? それになぜ、“恋人契約”なんて、そんなこと…」
もしソンジュさんが、本当にカナイさんだったら――この“恋人契約”のためだけに、…僕を優しく抱いた…それだけの、ことだったら。
聞かないほうが、きっと僕は馬鹿になれる。
馬鹿でいるほうが、幸せなのだと――僕は最近、学んだのだが。…オメガ属らしい馬鹿でいたほうが、よっぽど楽なんだと。
とはいえ――僕の頭の中には次々と“なぜ、なぜ”が湧いて出てきて、もうソンジュさんの口から確かなことを聞くまでそれらは、どうしても消えてくれそうもない。
納得できない、といったらそのようだが、それよりももっと僕は、不思議で仕方がない。
するとソンジュさんはややあってから、少し恐れながらのように、ボソボソとした小声で。
「……それは…つまり、俺は…俺は今、オメガ属の性奴隷の恋人が欲しいのですよ。――自分の作品の、…ためにね」
「……、……」
あ…そっか、――そういえばソンジュさんは小説家で、たしか性奴隷のオメガの作品を描きたいと構想を練っているから、僕の話が聞きたいと…そう言っていたか。
「…その点、ユンファさんはピッタリですから…――美しい容姿を持ち、それでいて人にもてあそばれる悲しい性奴隷…内面的にも憂鬱な魅力を持っている…、だから、…貴方なんです…」
「………、…――。」
僕は、自分の気持ちが落胆したのを、じわりと潤んだ目で感じた。
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