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愛する瞳

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 僕がキスを許すと、ソンジュさんは僕の片頬に手のひらをそっと添え、すっと素早く――顔を傾け、僕の唇をはむり、と食んでは、はむり、はむり、と緩慢に唇を動かしてくる。……僕は応じようかどうしようか迷っているために、今のところは目を固く瞑って横――ソンジュさんのほう――を向いたまま、固まっている。
 
「……ッ、…」
 
 もう好きにしていいから、せめてできるだけ、音を立てないでほしい。と、内心ハラハラしている僕である。…幸い、あまり水っぽい音はまだそう立っていないが。
 それこそ僕はモグスさんにバレるのが怖くて、息を止めている。――もちろんキスのときの息継ぎなんか、別に初めてキスをするわけでもない僕にとっては容易い。
 しかし、ふ…ともれるキスの吐息は、あからさまなものである。それはただの呼吸音ではない。――キスの際の呼吸は、それこそキス特有の湿り気がある。…経験のある人ならば、聞いただけでキスをしているとわかるものである上、まさか、あの脂の乗ったダンディで柔和な魅力のあるモグスさんが、キスの経験がない人とはとても思えない。
 
 はぷ、とソンジュさんの唇に、口端から含まれる僕の唇。斜めった彼の顔、なめらかに僕の唇全体を揉むよう動く、その人の湿った唇。
 は、と僕の口を離しはしたものの、話せば触れるようなその距離で、ソンジュさんは静かにこう。
 
「…息を止めたら苦しいでしょう…?」
 
「……、は…、…」
 
 僕は軽く息を口から吐き、それから唇を閉ざしてふぅ、ふぅと鼻で息をする。――いや、なぜ僕が息を止めていたのか、ソンジュさんはわかっていないのか。
 僕は薄く目を開けて、かなり至近距離にいるソンジュさんを見ないように伏し目がちなまま「バレちゃいますから…」と、小さな声で彼にその理由を言った。
 それであわよくば、やめてくれたり、という期待もその実僕にはあったのだが、――ソンジュさんはふっと小さく笑うと、むしろ色っぽく。
 
「……ふふ、そそられるなぁ…、いや別に、バレたっていいじゃないですか…? 後部座席に、若い恋人同士の二人が居ることくらい、モグスさんだって重々わかっていることなのですから……」
 
「……、…」
 
 だからなんなんだ。――(ということを差し引いても)若い恋人同士の二人が側にいるから、多少の馬鹿な行為は仕方がない。…確かに中年男性の、大人なモグスさんならばそれくらいの余裕ある構え方で見逃してくれそうな気はするものの、それとこれとは若干話が違う。
 僕がソンジュさんと同様に、他人にキスを見せ付けて気持ちよくなれるタイプの人ならばともかく――そもそもとして、僕は自分が性奴隷だろうが彼の恋人だろうが、…そういう行為を見せ付けて楽しくなれるタイプではない。
 むしろ臆病なほうなので、他人の目が気になるのだ。
 キスだとかそういう特有の行為は、せめて二人っきりの状況でしてほしい。
 
「さ、ユンファさん、…お口を開けて…――は、俺が全部舐め取ってあげる……」
 
「……、…」
 
 、って。おいおいという感じだ。
 とはいえ、ソンジュさんのそれはどこか僕に命じるようであり、…僕はまた目を瞑って――恐る恐る、唇に隙間を開けた。…するとソンジュさんはサッと、僕に噛み付くようにパッと僕の唇を塞いできた。
 その荒々しさに、んふ、と僕の鼻から小さな声が抜けた。眉をひそめている僕の口の中に、ソンジュさんの舌がぬるりと入り込んでくる。
 
「…ッ! …~~ッ」
 
 僕の舌を激しく絡めとってくるソンジュさんの舌。
 ぬるりと唾液にぬめり、ややざらついているその舌は、人よりも長い。――それこそ僕の舌の根ほども入り込んで、文字通り根こそぎぬるりぬるりと絡めとられてしまう。
 彼の舌は、僕の舌の裏から上顎、歯の裏までくまなく舐めて――ケグリ氏の体液やらを舐め取って――くるので、僕は応じようもない。
 
 しかもソンジュさん、――僕がバレてしまうから、と言ったことを煽るように、わざとか何なのか、グチュグチュ音を立ててくる。
 
「…ふゥ、♡ ん…ッ♡」
 
 瞬間、…あ、もう駄目だ、と思った。
 僕の鼻から上ずった声がもれた。――グチュグチュ音が立っている。…ふぅふぅと特有の呼吸音があからさまに鳴っている。
 
 
 これでもう確実に――モグスさんにはもう、全部バレてしまったはずだ。…僕らが後部座席で、ディープキスをしていることが、もうすっかりバレてしまったに違いない。
 そうした諦めにも似た認識をすると、僕の頬は、耳は、カアッと羞恥に熱くなる。…幸いモグスさんは、カーテン向こうで何かしらのリアクションはしなかったのだが、…気を遣ってくださっているだけなんだろうな…。
 
 
 
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