146 / 589
愛する瞳
4
しおりを挟む僕がキスを許すと、ソンジュさんは僕の片頬に手のひらをそっと添え、すっと素早く――顔を傾け、僕の唇をはむり、と食んでは、はむり、はむり、と緩慢に唇を動かしてくる。……僕は応じようかどうしようか迷っているために、今のところは目を固く瞑って横――ソンジュさんのほう――を向いたまま、固まっている。
「……ッ、…」
もう好きにしていいから、せめてできるだけ、音を立てないでほしい。と、内心ハラハラしている僕である。…幸い、あまり水っぽい音はまだそう立っていないが。
それこそ僕はモグスさんにバレるのが怖くて、息を止めている。――もちろんキスのときの息継ぎなんか、別に初めてキスをするわけでもない僕にとっては容易い。
しかし、ふ…ともれるキスの吐息は、あからさまなものである。それはただの呼吸音ではない。――キスの際の呼吸は、それこそキス特有の湿り気がある。…経験のある人ならば、聞いただけでキスをしているとわかるものである上、まさか、あの脂の乗ったダンディで柔和な魅力のあるモグスさんが、キスの経験がない人とはとても思えない。
はぷ、とソンジュさんの唇に、口端から含まれる僕の唇。斜めった彼の顔、なめらかに僕の唇全体を揉むよう動く、その人の湿った唇。
は、と僕の口を離しはしたものの、話せば触れるようなその距離で、ソンジュさんは静かにこう。
「…息を止めたら苦しいでしょう…?」
「……、は…、…」
僕は軽く息を口から吐き、それから唇を閉ざしてふぅ、ふぅと鼻で息をする。――いや、なぜ僕が息を止めていたのか、ソンジュさんはわかっていないのか。
僕は薄く目を開けて、かなり至近距離にいるソンジュさんを見ないように伏し目がちなまま「バレちゃいますから…」と、小さな声で彼にその理由を言った。
それであわよくば、やめてくれたり、という期待もその実僕にはあったのだが、――ソンジュさんはふっと小さく笑うと、むしろ色っぽく。
「……ふふ、そそられるなぁ…、いや別に、バレたっていいじゃないですか…? 後部座席に、若い恋人同士の二人が居ることくらい、モグスさんだって重々わかっていることなのですから……」
「……、…」
だからなんなんだ。――(契約上ということを差し引いても)若い恋人同士の二人が側にいるから、多少の馬鹿な行為は仕方がない。…確かに中年男性の、大人なモグスさんならばそれくらいの余裕ある構え方で見逃してくれそうな気はするものの、それとこれとは若干話が違う。
僕がソンジュさんと同様に、他人にキスを見せ付けて気持ちよくなれるタイプの人ならばともかく――そもそもとして、僕は自分が性奴隷だろうが彼の恋人だろうが、…そういう行為を見せ付けて楽しくなれるタイプではない。
むしろ臆病なほうなので、他人の目が気になるのだ。
キスだとかそういう特有の行為は、せめて二人っきりの状況でしてほしい。
「さ、そんなことよりユンファさん、…お口を開けて…――アイツの汚いものは、俺が全部舐め取ってあげる……」
「……、…」
そんなこと、って。おいおいという感じだ。
とはいえ、ソンジュさんのそれはどこか僕に命じるようであり、…僕はまた目を瞑って――恐る恐る、唇に隙間を開けた。…するとソンジュさんはサッと、僕に噛み付くようにパッと僕の唇を塞いできた。
その荒々しさに、んふ、と僕の鼻から小さな声が抜けた。眉をひそめている僕の口の中に、ソンジュさんの舌がぬるりと入り込んでくる。
「…ッ! …~~ッ」
僕の舌を激しく絡めとってくるソンジュさんの舌。
ぬるりと唾液にぬめり、ややざらついているその舌は、人よりも長い。――それこそ僕の舌の根ほども入り込んで、文字通り根こそぎぬるりぬるりと絡めとられてしまう。
彼の舌は、僕の舌の裏から上顎、歯の裏までくまなく舐めて――ケグリ氏の体液やらを舐め取って――くるので、僕は応じようもない。
しかもソンジュさん、――僕がバレてしまうから、と言ったことを煽るように、わざとか何なのか、グチュグチュ音を立ててくる。
「…ふゥ、♡ ん…ッ♡」
瞬間、…あ、もう駄目だ、と思った。
僕の鼻から上ずった声がもれた。――グチュグチュ音が立っている。…ふぅふぅと特有の呼吸音があからさまに鳴っている。
これでもう確実に――モグスさんにはもう、全部バレてしまったはずだ。…僕らが後部座席で、ディープキスをしていることが、もうすっかりバレてしまったに違いない。
そうした諦めにも似た認識をすると、僕の頬は、耳は、カアッと羞恥に熱くなる。…幸いモグスさんは、カーテン向こうで何かしらのリアクションはしなかったのだが、…気を遣ってくださっているだけなんだろうな…。
1
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる