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愛する瞳
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しおりを挟む僕たちが乗った赤いスポーツカーは、運転席に座ったモグスさんの運転によって、動き始めた。――驚いたことに、僕が知っている車の中よりもうんと静かなこの車内は、ときおりガタン、と何かしらをタイヤが踏んで揺れるその音だとか、あとは外ですれ違う車のシューンとした音くらいで、ほとんど音がない。
それこそラジオなんかもついていないために、車内はかなり静かである。
「…………」
「…………」
いや、だからこそ気まずいのだが。――後部座席のカーテンが四方締め切られたうす暗い中、隣り合って座る僕とソンジュさんは各々、お互いの顔を見ない。…僕はほとんどうつむき、ソンジュさんはぼーーっと前の、前部座席と後部座席を仕切る黒いカーテンを見ている。…というか、運転席に座るモグスさんを睨んでいるのかもしれない。
「…………」
「…………」
ゴクリと僕は唾を飲み込んだ。――会話がない。
というか、何を話しかけてよいものなのかも僕にはまるでわからない。
というのも僕は先ほど、ソンジュさんが僕と交わしたい契約というのが、まさかの“一週間ソンジュさんの恋人になる”――なんて内容の、つまり“恋人契約”であることを聞かされたばかりだ。
僕はソンジュさんに、「私とも契約をしてください」と言われたために、ソンジュさんもてっきりケグリ氏と同様、僕と“性奴隷契約”を結びたいのかと思っていた。
しかし…そうではなかった。
性奴隷契約ではなく――(一週間、あるいは数日間)自分の恋人になってくれ、…という“契約”だそうである。
「………、…」
正直いうが、まさかそんな内容だとは思わなかった。
まったく予想外なことである。――それこそ一ミリもそんな予想はできていなかった僕だが、…思えばそうなら、何かと腑に落ちる点はあr……、
「…………」
「……、…ソンジュさん…」
僕はかなり抑えた吐息のような小声で、隣のソンジュさんに呼びかけた。――何をしているんですか、と。…僕の片方の膝頭をするり、チノパンの上から片手で包み込むように撫で、そこから内ももをすーっと…中央へ向けて撫でてくる彼の手に。…貴方は何をしようと、と。
「…………」
「……ッ、…ソンジュさん…」
鼠径部を指先でつうと撫でられてぴく、としてしまった僕は、…いよいよソンジュさんの手首を掴んで、隣に振り向いた。――カーテン向こうにはモグスさんがいるのに、何を。
しかしソンジュさんは前を向いたまま、僕を横目にも見ないで…ただ、その艶のある唇の端をニヤリと上げた。
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