上 下
143 / 594
愛する瞳

1

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 僕たちが乗った赤いスポーツカーは、運転席に座ったモグスさんの運転によって、動き始めた。――驚いたことに、僕が知っている車の中よりもうんと静かなこの車内は、ときおりガタン、と何かしらをタイヤが踏んで揺れるその音だとか、あとは外ですれ違う車のシューンとした音くらいで、ほとんど音がない。
 それこそラジオなんかもついていないために、車内はかなり静かである。

 
「…………」
 
「…………」
 
 いや、だからこそ気まずいのだが。――後部座席のカーテンが四方締め切られたうす暗い中、隣り合って座る僕とソンジュさんは各々、お互いの顔を見ない。…僕はほとんどうつむき、ソンジュさんはぼーーっと前の、前部座席と後部座席を仕切る黒いカーテンを見ている。…というか、運転席に座るモグスさんを睨んでいるのかもしれない。
 
「…………」
 
「…………」
 
 ゴクリと僕は唾を飲み込んだ。――会話がない。
 というか、何を話しかけてよいものなのかも僕にはまるでわからない。
 
 というのも僕は先ほど、ソンジュさんが僕と交わしたい契約というのが、まさかの“一週間ソンジュさんの恋人になる”――なんて内容の、つまり“恋人契約”であることを聞かされたばかりだ。
 僕はソンジュさんに、「私と契約をしてください」と言われたために、ソンジュさんてっきりケグリ氏と同様、僕と“性奴隷契約”を結びたいのかと思っていた。
 
 しかし…そうではなかった。
 性奴隷契約ではなく――(一週間、あるいは数日間)自分の恋人になってくれ、…という“契約”だそうである。
 
「………、…」
 
 正直いうが、まさかそんな内容だとは思わなかった。
 まったく予想外なことである。――それこそ一ミリもそんな予想はできていなかった僕だが、…思えばそうなら、何かと腑に落ちる点はあr……、
 
「…………」
 
「……、…ソンジュさん…」
 
 僕はかなり抑えた吐息のような小声で、隣のソンジュさんに呼びかけた。――何をしているんですか、と。…僕の片方の膝頭をするり、チノパンの上から片手で包み込むように撫で、そこから内ももをすーっと…中央へ向けて撫でてくる彼の手に。…貴方は何をしようと、と。
 
「…………」
 
「……ッ、…ソンジュさん…」
 
 鼠径部を指先でつうと撫でられてぴく、としてしまった僕は、…いよいよソンジュさんの手首を掴んで、隣に振り向いた。――カーテン向こうにはモグスさんがいるのに、何を。
 しかしソンジュさんは前を向いたまま、僕を横目にも見ないで…ただ、その艶のある唇の端をニヤリと上げた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...