ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン

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「…ふふ、驚かれましたか? たしかに、見た目からしても個性的な方々ですよね。――しかし、お二人ともとても優しく、誠実な方々なのですよ。…」
 
「……、……」
 
 そう少し可笑しそうに笑うソンジュさんに、僕はうんうんと頷いて相槌を打つ。――そして彼は、その濃茶の凛々しい眉をひょいと上げ。
 
「…正直そうは見えないかもしれませんが、彼らは本当に、ハウスキーピングを個人事業主の形でやってくださっている方々です。――どちらもベータ属の、片方は男性、片方は女性。…男性のほうはサガワ・クリスさん……アンドロジナスといって、彼は身も心も男性ですが、女性らしいフェミニンな格好がお好きなのですよ。まあ、たまにご自身を女と形容はしますが…」
 
「……なるほど…」
 
 シンプルにお綺麗だよな、と思う。
 そもそも僕なんかは男性として生まれ、またメイクなんか正直そうそうしたこともないのだが、…女性はみんなメイクしたり、あるいはそれを世間から求められたり、そうして何かと努力を求められ、気を遣う場面も多いように思うのだ。――とはいえ、こうして男性でもメイクをするのが好きな人がいるなら、女性が…というべきではなく、メイクをする人々が、というべきだろう。
 そのメイクをする、という行為はすなわち、僕が想像もつかないような努力なのである。――となればこの男性もきっと、かなり努力をしてこのメイクの技術を身に着けたのだと思うと、もはやその努力の仕方すら僕には想像がつかないが、…とにかく凄い、とシンプルに感心する。
 
「…ふふ…表向き男好きなのがたまにキズですが、そのわりに彼は、本気で私たちに色目を使ってくることはありません。これで恋人に一途な方で、とても可愛らしい人ですよ。――まあ、酒をたしなむとキス魔ですけどね。…」
 
「……はは…」
 
 このワインレッドの唇で迫られたら、僕は怯んでしまうかもしれない。――たしかにお綺麗な方だとは思うが、その個性の強さに圧倒されてしまいそうだ。
 
「でも、かなり気遣いのできる、お優しい方です。――それから、クリスさんのお隣にいるのが…ジョウハラ・ユジョンさんです。…彼女にも旦那さんがいて、いまやお孫さんも成人なさっていますが……」
 
 ソンジュさんは気持ち、僕に見せてくれているそのスマホの画面を覗き込みつつ。
 
「…彼女…この見た目通り、下手な男性よりも力があるんです。――かなりの努力家で…なんでも、五十歳を過ぎてから筋トレを始められたとか。」
 
「……へえ、凄いな…女性なのに…」
 
 もちろん差別的な意味で言ったつもりはないのだが――とはいえ女性(及び普遍的なオメガ属)は、やはりどうしても男性より筋肉がつきにくいという性差がある。…男性は性ホルモンのおかげで筋肉がつきやすいものの、逆に女性はその性ホルモンのせいで脂肪のほうがつきやすく、筋肉はつきにくいものじゃないか。……のみならず、これは男女ともにそういったものであるが、やはり年を取れば取るほど筋肉量は落ち、また筋肉そのものもつきにくくなっていく。
 
 それでいてこの彼女――ユジョンさんは、性別や年齢をモノともせず、こんな…六つに割れた腹筋に太い腕、ボッコリと膨らんだ力こぶを手に入れている。
 
 ソンジュさんはふっと笑うと、翳していたスマートフォンを引いて手元に――腿の上に置くが、僕からも見えるような角度でそうしてくれている。…そして彼は、それをしみじみと見下ろしながら。
 
「…ユジョンさんは、そうです。――ふふ、お孫さんが生まれ、おばあちゃんになったからこそ、筋トレに励んでらっしゃるそうですよ。格好良い人です…」
 
「………、…」
 
 もはやリスペクトの気持ちしかない。――どれほど大変な思いをなさっただろうか。
 ただそれは、スマホの画面を見下ろして微笑んでいるソンジュさんもまた、同じ気持ちのようだ。
 
「…いやぁ…私が言うのもなんですが、彼女、死ぬほどの負けず嫌いなんです。これからはもう力が衰えてゆくだけ、あとは老けてゆき、腰の曲がったおばあちゃんとなるだけ…そして老後は、誰かの手を借りなければ生活ができない…――お孫さんが生まれ、自分にもそんな老後の未来が見えたとき、それを悔しく思ったユジョンさんは、こうして努力し…この筋肉を手に入れた。」
 
「……うわ凄いな…いや、もう正直凄いとしか言えません。…お二人とも、かなりの努力家なんでしょうね」
 
「…ふふ、そうなのです。…」
 
 ソンジュさんの微笑んだ横顔は、とても嬉しそうな、優しいものである。――そのスマホの画面へと伏せられた切れ長のまぶたも、美しい。
 
「…私が思うに…こんなに面白い方たちが、その面白い部分を隠して生きてゆく必要はありません。――ですから私は、あえて彼らにこのまま、お好きな格好をしていただいて、ハウスキーピングを頼んでいるのですよ。…」
 
 ソンジュさんはふっと優しげに笑い、「お二人とも筋トレがご趣味なので、それを兼ねられるハウスキーピングは天職だとおっしゃっています。…仕事ぶりも完璧ですよ」と付け加え。――るのだが。
 
「……なるほど…、…」
 
 それは…いいんだが。
 つまり、このお二人を――ケグリ氏たちのもとに、派遣する、という話なんだろう。…そこではた、と僕に振り返るソンジュさん。

「…あ、そう。…彼ら、ケグリさんたちのところと兼ねて、我が家にも三日に一度交代で来ますから。――それで私は、今ユンファさんにこのお二人を見せたんです。紹介、という意味で」
 
「…あぁ、そうだったんですね。でも…大丈夫ですか」
 
 確かにお二人とも、力があって強そうだ。
 とはいえ…ケグリ氏は、僕の代わりの性奴隷が来るものと思っていることだろう。――そうしたらあるいは、彼らが何か酷いことをされかねないのではないだろうか。
 それこそノダガワの人たちは……ブスだ、なんだ、男で萎える、男が喘ぐな、声を出すな気持ち悪い、と言い捨てるような僕を、さんざん犯せる人々だ。――つまり、それこそ見た目も性別も何も関係ない。酷い言い方をすれば彼ら、があったら何でもいいのだ。
 
 となると、いくら力があるとはいってもユジョンさんは女性であるし、このクリスさんのほうも男性とはいえ、あるいは可能性があるように思う。…メイクもよく似合ってお綺麗だし、僕を犯せるなら――彼だって、きっと。
 ましてや狡猾な彼らなら、この人たちさえも利用しようと考えるかもしれない。
 
 しかし、僕の懸念を笑うソンジュさん。
 
「はははっ…まあ、ケグリさんたちが彼らを性愛対象として見る可能性がない、とは言い切れませんがね。――私はその目では見られませんが、人によればかなり、でも魅力的な方々ですから。…ただ、彼らを犯そうとでもしたら…」
 
「……ええ…?」
 
 ソンジュさんはふふ、と笑うと、僕をニヤニヤと見ながらひょいと肩をすくめ。
 
「それこそ…あっさり、返り討ちに合うんじゃないですか。…」――と。
 
 
 
 
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