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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン
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しおりを挟む「これ、どうぞ。…」
「……、え」
にっこりと優しく笑ったソンジュさんは、両手で挟み持っている白い箱を、僕に差し出してきた。――僕は何の箱やらわからないが、どうぞ、と言われたそれをおずおずと受け取った。
なんだろう、と不思議に思いつつ、僕はその白い箱を自分の太ももの上にのせて見ている。――その白いフタに、銀で有名なスポーツブランドのロゴが書いてある。
「……新しいお靴です。…サイズは合っているかと思うのですが、何よりも、ユンファさんがそれをお気に召してくださるかどうかはわかりませんので」
「………、…」
靴。――僕はその箱を見下ろして、ぼんやりしている。
たしかに僕は、今靴を履いていない。――もともと履いていた革靴を先ほど脱がされて、そのままモグスさんに持って行かれてしまったからだ。……新しい、靴。
「…どうぞ、開けてご覧になってください」
「……ぁ、…ありがとうございます…」
「いえ。…先ほど、あの害獣どもに靴を舐められたでしょう? まさか、あんなやつらの唾液で穢れた靴を、そのままユンファさんに履かせるわけにはいかないと思いましてね。…」
「…………」
舐めさせたのは彼である。
僕の隣で、やけに明るくそう言ったソンジュさんに、やっと靴を脱げと言われた理由を知る僕だ。――彼はその調子のまま、「ただ、急ぎでモグスさんに買ってきてもらったものですから、オーダーメイドというわけにはいかなかったので」と、…なんか、更にとんでもないことを言っている。
「……多少のサイズ違いは、ご容赦ください。」
「……ぁ、はい…」
ていうか…なんでしれっと彼、というかモグスさんも、僕の靴のサイズを知っているんだ?
まあ、ともかくと僕は、その靴の箱を開けた。…それは箱にフタが被せられて別々になっている形のもので、パカリと開けると――白い紙が現れた。
その紙に靴が包み込まれているらしかった。――僕はその紙をガサガサとめくり、…現れた白に赤いラインの入ったスニーカーを見て、……これ、フタのロゴマークにも違わず、正真正銘有名なブランドのスニーカーじゃないかと、しかも汚れやすい、まばゆいほどの白。新品。
「…………」
「…お気に召していただけました? もし気に入らないようならそれは返品して、家に行く前にまず店に寄りま…」
「っい、いえ、…いえ…とても、…とても素敵なスニーカーです、…格好良い……」
なんてこと言うんだよ、…――これ、何万円レベルのスニーカーじゃないか。…僕は体を動かすことは好きなほうだったが、オメガ属特有の肌の弱さで陸上部なんかのスカウトは断っていたのだ(紫外線に弱いため、まさか日焼け止めをベタベタ塗って外で何時間も走るわけにはいかなかった)。そのために必要ないからと諦めていたが――とはいえ、このブランドのスニーカーには、正直前から憧れていたくらいだ。
ソンジュさんは「そうですか?」とキョトンとした声で言うと、更に。
「…では、足をこちらどうぞ。私の太ももにのせて。――履かせて差し上げ…」
「いっいいえ…、自分で履けますから……」
怖い。いっそ怖い。――なぜそこまで僕を大切に扱うんだ? 僕が性奴隷だとか、ソンジュさんが九条ヲク家の人だとか、もはやそれは関係ないレベルで怖い温情だ。
僕は何か妙な焦りの気持ちのまま、憧れていたような格好良いスニーカーの、それのかかとの内側を指に引っ掛けて持ち上げ、見た…底面にある――『9』と浮き出た文字に、思わずすうっと目を瞑り、…息を止めて固まる。
「…………」
「どうかなさいました? あぁ、靴底のデザインがお気に召しませんでs…」
「いいえ……」
――この『9』というサイズを示した数字は、まさしく僕の靴のサイズぴったりのそれである。
僕の足のサイズは約27センチほど。――以前にしばしば靴を買うときに見ていた、この『9』の文字は、海外基準の靴のサイズを示すものなのだ。……マジで、サイズが合っている。それも歩ける程度にはなんとなく合っているどころの話じゃない、……ぴったりだ。
「…いえ、どうか遠慮はなさらず。お気に召していただけなかったのなら、それは返品し……」
「いいえ。これで大丈夫…いや、というかこれがいいです、気に入りました、本当に…、はは…実は、憧れていたブランドだったので……」
な、なんで…――僕の足のサイズを、…靴のサイズを、こんなに正確に知っているんだ…?
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