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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン
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しおりを挟む僕がその人たちのもとへと行くと自然、ソンジュさんと彼女たちの会話が聞こえてくる。
「…あたし、アルファの人になんか初めて会いましたぁ」
「やっぱりアルファって格好良いよね~、お兄さん、ほんとにイケメンだもんね」
「…………」
ソンジュさんはそう言った彼女たちの言葉に、何も返さなかった。――僕はその女性たちの後ろに立ちすくみ、タトゥーも乳首のピアスも見せてこいとは命令されたが、さすがに女性には「見てください」なんて声をかける勇気はなかった。
そして黒髪の彼女は、何か手帳のようなものを取り出したようだ。――それに何かを書いている。
のちほどソンジュさんと会う予定(デートだとか)でも取り付け、それを書いているのだろうか。
「……どっちでもいいんで、あとで連絡してください。てか、どっちにも連絡くれていいですよ~」
「キャハハ、やだヨミコ、まだアンタとの友情は失いたくないんだが!」
「えー。友情なんかねえし。…はいお兄さん」
ビリリ、と手帳の紙を破いて、黒髪の女性はそれをソンジュさんに差し出した。――予定を書いていたわけではないらしい。…二人の?連絡先を書いていたようだ。
「はあ」
ソンジュさんは、それを受け取った。
どうやら知り合いというわけではなく、彼女たちにナンパされていたらしい彼だが、それはちゃっかり受け取るらしい。――と、僕が思ったのもつかの間である。
ソンジュさんはいくらか短くなった黒いタバコを口に咥えると、片手に持っていた何かをポケットにしまい、…そしてその紙を、――ビリリ、と真っ二つに割いて破った。
それどころかビリビリと小さく千切って――ふぁ、とそれを、空中に撒いた。
「…………」
「…………」
「…………」
僕、女性二人――その三人が呆然としている。
ソンジュさんはその白い紙吹雪のなか、唇に挟んでいたタバコを人差し指と親指でつまんで離すと、下のほうへふーっと紫煙を吐き出す。
「…資源の無駄です。一枚0.何円とはいえ、限りある資源はもっと大切になさったほうがよろしいかと。」
ソンジュさんはそこでまたポケットから取り出した何か――それはどうやら、手のひらサイズのバッグ型の携帯灰皿である。…彼はそれの中に黒いタバコを押し込み、それの火を消しては、スポーツカーの艷やかな赤い扉を拳で、コンコン、と叩く。
一方その間も彼女たちは言葉を失い、呆然として顔を見合わせている――とその二人の間に割り込んで、ソンジュさんは「失礼します」と二人を押し退け。
僕のもとへと迷わず、まっすぐにスタスタやって来ると、…――彼は僕のことをぎゅうっと、抱きしめてきた。
「……、……」
「ずいぶん待ちましたよ、遅かったですね」
「……、…ぁ、ご、ごめんなさいお待たせ、して…ずいぶん……」
僕は正直、かなり当惑している。
ソンジュさんを振り返る女性二人、一人はソンジュさんの背中を睨み付けているが、…黒髪のほうの女性は、僕を睨み付けている。――亜麻色の髪の長いほうの女性は、今彼にされた仕打ちへのシンプルな怒りの眼差しであるが、…黒髪のほうの(僕にギッと向けられた)彼女の眼差しは、嫉妬めいている。
「…チッ…ホモかよ。キッショ…」
「…つかそこまですることなくね? さすがにやりすぎでしょ」
「………、…」
ソンジュさんはかなり平気そうだが、…僕こそかなり、気まずいのだが。
いや、一応ムカついてはいるらしいソンジュさんは、僕の耳元で低くこっそり「チッ…うるせえ女どもだな、このアバズレが」と、…獣が唸るように言うので、とにかくその言葉が、怒り心頭な彼女たちの耳に届いていないことを祈るばかりの僕である。
「もう行こ、ヨミコ」
「うん、あーもう、最悪。ムカつくわ~…」
「…もともとロクでもない男だったんだって、むしろこうなってラッキーじゃね。ホモだし。」
「たしかにね~」
そう愚痴を口にしながら、彼女たちはそろそろと歩き出し、その場を去ってゆくのだった。
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