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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン
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しおりを挟む――そうして僕の脚に、子供が親に泣いて縋るようにしがみついてきたズテジ氏の顔を、
「ッグガ、…」
…ガッと革靴の底で踏み付けたソンジュさんは、ドタリと床に倒れ落ちたズテジ氏の、その太い二段になった茶色いうなじを、グッと踏む。
「…汚ぇ手で触るなよオス豚が、気持ち悪ぃ……」
「………、…」
そう床に伏せたズテジ氏を踏みつけ、見下ろしながらせせら笑ったソンジュさんだった――が、さっとかなり素早く切り替えて、彼はふっと爽やかな笑みをケグリ氏に戻し。
「…あぁところでこのハンカチ、どうぞ。――ケグリさんに差し上げます。」
ズテジ氏を見下ろして、怯えてガタガタ震えていたケグリ氏の、その焦げたクリームパンのような手に黒いハンカチを無理やり握らせたソンジュさんは、背の低いケグリ氏を見下ろしてニコッと微笑む。
「…汚いガマ油がついてしまいましたから、おぞましくてとても、自分のコートにしまう気が起きません。…どうぞ、一応質は確かですよ。――貴方なんかじゃ、到底買えないようなハンカチです。…ふふ…」
「……はぁ、は…は、…」
呆然としてソンジュさんをただ見ているケグリ氏に、ソンジュさんは冷ややかに微笑んで、その小さな顔をくいと傾ける。
「おい…ありがとうございます…だろ、ケグリ…?」
「あっあぁあ、ありがとうございます…っ!」
「…………」
僕はあまりのことに、ぼんやりと立ちすくんだまま、彼らを眺めている。――が…そこでソンジュさんがふっと、隣の僕に優しげな目を向けてきた。…それが逆に怖い、…ここまでの彼のサディスト全開な振る舞いを見ていたために、僕はそれだけでついギョッとしてしまったが。
「…さあ、前座はこれくらいにしましょうか。――ではユンファさん、早速荷造りをお願いいたします。」
「…ぁ、は、はい…」
僕の返事は、かなり小さく掠れて震え、怯え全開なものであった。――するとソンジュさんは、ふふ、と柔らかくその切れ長の目を細め、僕には優しく微笑みかけてくる。
「そう怯えずとも…私は、ユンファさんにはこのようなこといたしません。…」
「…ぁ、はぁ…」
本当、だろうか?
でも、僕、これから一週間、このドSの性奴隷になるんだろ、…ソンジュさんのそれがどうも信じられない僕のほうが、どうかしているのか?
いや、とにかく、と僕は、後ろへとよた、よたと後ずさり、この店の出入り口へと向かう――あんまりグズグズして、ソンジュさんの逆鱗に触れるほうがよっぽど怖い目にあうと。
するとソンジュさんはそんな背後の僕にふっと振り返り、神妙な顔をして。
「…あぁユンファさん…――ただ、衣類や歯ブラシなどの日常品は、持ってこなくて結構です。新品の用意がございますので、貴重品のみで。…」
「…は…? はい、わ、わかりました…、…」
やっぱり――やけに準備がよくないか?
まるで、はじめからソンジュさんの目的が、僕であったとしか思えない。
「……、…じゃ、じゃあ、えっと、…すぐ、…」
いや…まあ正直、僕はこの急な展開に動揺こそしていても、今更怖いものなどない。
――今更だからだ。
性奴隷扱いも、またそれにともなう性的な奉仕にしても、苛烈な汚辱に関しても、仮に僕がこれから一週間、このソンジュさんに酷い調教をされるとしても…――あるいは家政夫扱いを受けようが、もうすでにそれらは履修済みとでもいうか、それら全てもうとっくに僕は、ノダガワ家の人々にやらされているわけだ。
ある意味で何も怖くない、無敵状態とも言える。
いや、状況把握も追い付いてきた。――つまりご主人様であるケグリ氏から、ソンジュさんが性奴隷の僕を借り、そして僕は彼の家に一週間行って…ソンジュさんと僕は“性奴隷契約”を交わす。
つまり一週間程度――一時的に、僕のご主人様がソンジュさんに代わるだけ、ということか。
「すぐ準備してきます、ちょっと、待っててください、…」
「ええ。私はその間に会計を済ませておきます。――そのあとは、外でユンファさんをお待ちしておりますので」
「はい、じゃあ…一旦失礼いたします…」
呆然として魂が抜けたようなケグリ氏とズテジ氏、ムッとしたモウラ――そして何よりも、怖いほどにこやかなソンジュさんに背を向け、僕はこのカフェの出入り口へと向かいながら考える。
「……、…、…――。」
痛いこととか、本当は絶対嫌だけどな。
何をされてしまうんだろう、僕、ソンジュさんに。
いや、もう別にピアスやタトゥーが増えるくらいなら今更だ。
ただ、でも本当に、殺されなきゃ、いいんだが…――。
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