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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン
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しおりを挟むそれでも黙り込んでいるズテジ氏に、ソンジュさんはニヤニヤしながら、…今度はズテジ氏の前に立ち――上から、脅すような低い声を、ゆったりとした優しい口調にして。
「…おい、ズテジ…? 父さんと弟にだけ謝らせて、お前は謝らないつもりなのか…? おいおい、それで終わりなわけがない…、働きもしないでのんべんだらりと過ごしているお前は知らないかもしれないが、…世の中はそんなに、甘くないのです…――お前も言うんだ…、お前も。ユンファさんに。謝るんだよ…」
「……っ、…っ、…っ!」
しかし土下座の姿勢のまま、ブルブル震えているだけのズテジ氏に、ソンジュさんは――はぁぁ、と怯えているその人にわざわざそれを聞かせたような、威圧的なため息を吐き。
「…ごめんなさいもできないとは、呆れたものだ…いや躾が疑われますよ、ケグリ。ごめんなさい、ごめんなさいとユンファさんには謝らせておいてね…――自分が肉便器だと見下している彼以下であるというご自覚、…あります…?」
彼がそう言うと、ズテジ氏の隣で土下座したままのケグリ氏が慌てて「ズテジ、早く言え、言わんとどうなるかわからんぞ、…」と早口に言って――それでやっとズテジ氏は、獣が唸るようなぐうぐうとした響きのある声ながらも。
「…申し訳、ございませ…」
と、謝りかけたが、ソンジュさんはその人の後ろ頭をグッと踏み付け、僕さえも恐ろしいほど冷ややかな低い声で、ゆっくり…と。
「おい。兄弟揃って不出来なものですね…――ユンファ様。この度は身のほどもわきまえず、貴方に大変なご無礼を働いて。…誠に、申し訳ございませんでした。…俺に何度言わせるつもりだ…? もう次はないからな…」
「……っ! ゆっユンファ様、身のほどもわきまえないでご無礼を働いて、…も、申し訳ございませんでした、誠に、…」
するとズテジ氏は、泣きそうになりながらも早口に、ソンジュさんのその言葉をたどたどしく繰り返した。
僕はただ何がなにやら――まだどうしてこうなっているのかもわからないで、馬鹿みたいにぼーっとその場に突っ立っているだけだ。
はぁ…と大きなため息を吐き、ソンジュさんは茶色い革靴の底でズテジ氏の頭をグッと強く踏みつけた。
「というか…、そもそも…土下座ってのは、こうやって。――床に。額を。こすりつけて、…するものだろ…?」
「…グッふぅぅ…っ」
ソンジュさんはズテジ氏の頭を踏みつけたまま、胸の下あたりで腕を組み、「お前らだよ、ケグリ、モウラ…」とズテジ氏の右に並ぶ二人を一瞥もせずに低い声で脅す。――するとビクッとしたその二人も自ら額を下げ、ステージの床に額をゴッと着けた。
「どいつもこいつもロクでもない…ドブガワ…いや、ノダガワ家には馬鹿しかいないようです。――可哀想にね、皆さん生きにくいでしょう…? こんなに頭が悪いと…」
「…………」
僕はぼんやりと、床に這いつくばっている三人の姿を見下ろしいる。――なんとも言えない。…ただ、胸を梳いたような思い、とも、思えていない。
そしてソンジュさんは、ズテジ氏の後ろ頭に足を置いたまま――加虐的な妖しい笑みを、その妖しく光る鋭い目を、隣のケグリ氏へと注ぐ。
「…ほらお前ら…俺がもっと教えてあげるから、繰り返して言えよ…――ユンファ様のお美しい唇に、私の気持ち悪い唇でキスをしてしまい、ごめんなさい。…」
「…ユンファ様の唇に、き、気持ち悪い、唇で、キスをしてしまい…」と、何か自暴自棄か、諦めたようなケグリ氏とモウラ、ズテジ氏がバラバラ揃わない声で繰り返す。――が、ソンジュさんは途中に「もっと大きな声で」と低く言って、さらに言葉を継ぐ。
「…私の汚い手で、お美しいユンファ様のお体に触れてしまい、その結果、貴方様を私たちの穢れた手垢で汚してしまいました。大変、申し訳ございません。…」
「……っ私の、汚い手で、……ぉ、お美しいユンファ様の、体に、触れて、汚してしまい、…」――と、やはりバラバラと繰り返す三人、また最後まで言わせず、ソンジュさんは「おい聞こえなかったのか…? 声を大きくしろ」と命令する。――その地を這うような低い声は、僕の頬を小刻みに振動させるようだ。
「私の大変粗末なちんぽを、身の程もわきまえず、ユンファ様のお体に差し込んで申し訳ございません。…」
「っ私の粗末なちんぽを! 身の程知らずにも、っユンファ様のお綺麗なお体に、差し込んでしまい!」――と、ケグリ氏は声を張る。…ほかの二人はまだボソボソと繰り返しているだけだ。
「…おい、この店の外まで響くほど声を出せと言っているのだ。…そうしないなら…」
「っお前たちぃ! こ、声を出さんか声を!」
「……ク…ッ」
「………、…」
ケグリ氏は怯えて裏返った声でズテジ氏とモウラを叱り、すると――ソンジュさんは、「さあ、大声でどうぞ」と。
「…私のように惨めで愚かな男が、あまつさえ、ユンファ様のような高貴な方を妊娠させようと猿のように盛り、犯して、大変申し訳ございませんでした。…」
「…っ私のようなみじめで愚かな男がぁ! ゆ、ユンファ様を、妊娠させようとして、…猿のように盛り、…犯し、大変、大変申し訳ございませんでしたぁ゛…っ!!」――驚いたことに、三人は揃わないながらも全員、僕の耳がキーンとするほどの大声で、そう叫んだ。
「………、…」
僕はその大声に、眉をひそめる。
これまでにさんざん好き勝手僕をおとしめ、見下し、僕に恥辱を味わわせてきたあの三人が、三人とも――あっけなくソンジュさんに従い、僕に土下座して、そう汚辱の謝罪の言葉をいま叫んだのだ。
今朝までは、僕がこのケグリ氏の足下に泣きながら這いつくばって土下座し、彼の靴を舐めていたのだ。…今朝まで僕は、モウラとズテジ氏にむしろこうして謝罪させられていたのだ。
――それが今や、信じられないことに…おおよそ真逆なのである。
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