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ぼくはぼくの目をふさぎたい※モブユン
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しおりを挟む「…んンッ…失礼いたしました。――正直…耐え切れないほど、ケグリさんの顔が醜くて……」
「…………」
「…………」
勝手にカウンターの中のシンクで吐き、念入りにうがいまでして、手も洗い――ソンジュさんは、僕が借りたものとはまた別の黒いハンカチで手を拭くと(ちなみに借りたハンカチは今、テーブルの上の僕側にある)、…そのハンカチで口元を押さえつつ。
トレンチコートの懐から取り出したサングラスをまたかけて、――なんとも言えない気まずい雰囲気となった、僕たちのもとへとスタスタ戻って来たソンジュさん。
しかも、歩いて来ながら吐いた理由(「耐えきれないで吐くほどケグリさんの顔が醜くて」)を遠慮なくケグリ氏にはっきり言うとは、彼、さすがにナチュラル・ド失礼である――。
「いえ、失礼。…きっと、先ほど無理して飲んだ、あのガマの油コーヒーも要因の一つかと。――いやはや…思い返せば要因は、ほかにもいくつかありますが……まあ何しても、これで汚染された私の胃が浄化されたようなものですから、…良しとしましょうか」
「…………」
「…………」
勝手に良しとしている、…もうやめてあげてくれ、いや…――僕がお仕置きされるからとかいう以前に、さすがにだんだん、ケグリ氏へシンプルな同情心が湧いてきてしまう。さすがに居たたまれなくなるというか。
「…さて…それはともかく、ケグリさん。――少々、私のほうからご相談がありまして。」
「……、は、はあ…」
仕切り直そうとしているソンジュさんはやや顔を伏せ、少しばかり乱れたホワイトブロンドの、オールバックの髪を整えるよう、片手で後ろへと撫で付けつつ。
「…これから一週間ほど、ユンファさんをお借りいたします。構いませんね」
澄ましている背の高いソンジュさんは、なかばショックそうな、もうなかばは怒っているような顔をして自分を見ている(当然だとは思うが)、彼より二十センチほど背の低いケグリ氏に、脅すような低い声でそう言った。
「…っは、はい? いえ困りますよ、いきなり何をおっしゃるんですか、まったく…」
案の定当惑したケグリ氏だが、ソンジュさんは何も億せず澄ました様子で、口元に宛てがっていた黒いハンカチを懐へとしまいつつ――さらにこう続ける。
「…一週間分の、彼の労働により発生する利益は、もちろん私がお支払いいたします。――いえ、彼をお借りするのですから、その分はしっかりと」
「いやっ金とかじゃなくてですね、私どももギリギリの労働力でやってますから、…」
「…ふっ…では、ユンファさんに代わる性奴隷でも派遣いたしましょうか?――幸い、何人かアテがございますので」
ひどく淡々と――その高い鼻先からもれ聞こえた笑みにしてもどこか形式張っていて、今のソンジュさんはまるで感情のない人のようだ。
それにしても性奴隷にアテがあるとは、本当にソンジュさんは何者なんだ。――いや、アルファである彼ならばそういう…あるいは彼もまた、ケグリ氏のような趣味を持っている人なのかもしれないか。…僕と“性奴隷契約”を交わしたいくらいであるし、すなわち…僕をその性奴隷の一人に迎えたい、という目的なわけか。
なるほど、と僕が思っている間にも、彼らは立ったままで口論じみた交渉を続けている。
「…そういうことじゃなくてですねえ、…っそもそも、ユンファは此処に…」
「借金があり、ケグリさんと千日間の“性奴隷契約”を交わしたのでしたね。――いいでしょう。残額は? その分も私がお支払いいたします。」
「…いや、私はユンファの両親から、この子を預かっている身で…」
「あぁそうですか。それはそれは。――ではユンファさんのご両親は、自分たちの大切なご子息が、友人である貴方の性奴隷になっている…ということは、もちろんご存知なんでしょうね。」
「……っ」
ケグリ氏は歯噛みし、その真横に伸びた厚い唇を閉ざした。
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