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「やっと見つけた」
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しおりを挟む僕はふ、とうつむき――それにしても、と。
「…“狼化”…――可愛いのかな…」
それにしても――狼って、かなり犬のようではないか。
正直、一般的に考えてもまず、犬はどんな犬種においても可愛いじゃないか。――なら、もちろん見たことはないがもしや、…案外狼化しているアルファ属の人々は、かなり…その内面的な凶暴性は差し置いても、とりあえず見た目はだいぶ、…可愛いんじゃないか?
「…、どうでしょう。その自信は正直、ありませんが」
「あっいえ、…すみません、今のはひとり言なんですが…」
僕のひとりごちた言葉はかなりボソボソと小さかったはずだが、やはり狼並みに耳の良いソンジュさんには聞き取れてしまったらしく、慌てる僕だ。
するとソンジュさんは、少し困ったように微笑む。
「ふ…まあ見た目は狼ですので、人それぞれ、可愛いと思う方もある程度はいるでしょうが…――しかし、少なくともオメガ属の方にとって狼化したアルファは、可愛くはないでしょうね」
「……、そう、ですね…、はっきりとは、何とも言えませんが。…僕は狼化したアルファの方に、お会いしたことがないので…、…」
とはいえ――普遍的に考えれば、ソンジュさんの言う“オメガにとっては可愛くない”というのが、まずその通りである。…可愛くないどころか、オメガ属にとってはおよそ脅威ともいえてしまうか。
僕が国会で、ベータ属の政治家たちが真剣に議論している――“狼化期間”の、外出禁止法を緩和する、あるいは撤廃するという内容のそれに、オメガ属のことを考えていない、と憤りに近く思っているのは、なぜなのか。
それは――僕らオメガ属とアルファ属には、“つがい”というシステムが存在しているためである。
これは、アルファ属とオメガ属にのみ存在している関係性だ。――これを簡単に言うと、アルファがオメガを“自分だけのもの”にするシステム、だろうか。…あるいは、“お互いの体に、お互いが伴侶であると刻みこむシステム”、ともいえるかもしれない。
ではなぜ僕が先ほど、その議論は、僕らオメガ属のことを視野に入れていない、と思ったかというと…――その実、“つがい”になる方法に問題があるのだ。
その方法とは――“狼化”したアルファが、“オメガ排卵期”中のオメガのうなじに噛み付くこと。そして噛み付いたあと、オメガの膣内へとアルファが射精をすること。
それによって、アルファ属とオメガ属の、“つがい”という関係性が成立するのである。
これをもっと言えばつまり、狼化したアルファを野放しにされてしまった場合――僕らオメガ属が、たまたま出会ったアルファ属に襲われて、強制的に“つがい”にされてしまう可能性がある、ということなのだ。
しかも、それでなくとも本能に抗えない状態になっているという狼化したアルファは、いよいよ非力な僕らオメガにとっては脅威そのものだ。――そのうえ、自分がオメガ排卵期を迎えている状態で狼化したアルファと出会ったら、と思うと、恐ろしく感じるオメガは僕だけではないはずである。
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