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「やっと見つけた」
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しおりを挟むまた黒いスタイリッシュなタバコを咥え、その先にオイルライターで火をつけていたソンジュさんは、ふう…とやや横へ顔を背けて紫煙を吐き出し――その角度、ちょうどその高い鼻が美しいラインを見せ、シャープな顎のラインが見えるやや斜のその角度のまま、また慎重そうな抑えた声量で。
「……では、アルファ属に対してはユンファさん、どう思われますか。――ちなみに、私はアルファ男性です。…」
「……あぁ…、はい……」
それは…――『クジョウ・ヲク・ソンジュ』の文字を今しがた見た僕には正直、今更な情報である。
というかそもそも、それ以前にうすうすそうだと勘付いていた僕には、でしょうね…という以上の感情が湧いてこない。
そもそもとして、あの長いものには巻かれろなケグリ氏が、こんな、自分より少なくとも半分は若い男性に対してすっかり巻かれていた時点で…――いや、それもまあ、今となっては理解できる。
ソンジュさんは、アルファもただのアルファ属ではなく――彼、あの九条ヲク家の人なのだから。
「…えーと…、…」
とは…いえ。
とはいえ、だ。――正直いうが、…僕は、アルファ属に対しても特に、何とも思っていない。
いや、まあ凄い人たちだな、とは思う。漠然と凄い人たちだなぁとは思うのだ。――が。
「……正直何とも…いえ、…」
口を滑らせかけた。――我ながら素直すぎる。
そもそも僕は、嘘をつくのが苦手な人なのだ。――一人っ子、両親や年上には可愛がられるほうだったので、おべっかを使うのは正直訳ないことなんだが…あるいは、逆に素直すぎて子供扱いを受けていただけなのかもしれない(僕を狙っていたケグリ氏以外)。
「ふふ…、どうぞ、お考えください」
「…ありがとうございます…、…」
案の定子供扱いというか、年上のソンジュさんに笑われてしまった。
「…………」
さて…世界人口のなか、ベータの次に多いのが――多いとはいえ、世界人口の約2パーセントほど――、ソンジュさんの属性、“アルファ”だ。
ちなみに、僕が初めて会ったアルファの人は、このソンジュさんである。――それくらい絶対数が少ないというのもあるが、どちらかというと彼らアルファは、ベータやオメガの社会にはあまり馴染みのない人たちなのだ。
なぜなら彼らアルファ属は、まずほとんどが上流階級に属している人々であり――ベータや、僕らオメガが通っている学校や会社なんかには、まずアルファの人はいないからである(ただ極まれに、隔世遺伝で生まれたアルファがいる学校もあるそうだ)。
つまりあまりにも彼らは上級国民すぎて、庶民の僕らがアルファの人に会う機会なんか、まずないのだ。
とはいえ、まあ会うというんじゃないが、アルファを見たことがある人は多い。――というのも、テレビに映っている政治家や、芸能人を見て、という意味でだ。
そうしてアルファ属の人々は、ある意味では狼が群れを作るように、アルファはアルファで固まって暮らしている――というイメージがある。
また、アルファは“劣性遺伝”で――劣性とはいえ、それは子孫に引き継がれる遺伝子の強弱の話であり、彼らは他種族より秀でて“優秀な種族”だ――先にも思ったとおり、アルファ属がベータ属と子供を作れば、高確率でベータ属が生まれる。
ただ、アルファ同士の男女であれば、ほぼ確実にアルファ属の子供が生まれるとされている。
また、“超劣性遺伝”であるオメガ属とアルファ属で子供を作ると、かなりの高確率でアルファ属が生まれるそうだ。
しかも生物学上では、同種族の男女同等にアルファ属とオメガ属の相性は良いとされている。…その組み合わせで生まれた子供は、健康なアルファ属の子供として生まれてくる確率が非常に高いらしいのだ。
そのため昔のヤマトでは、王族であったアルファの夜伽相手に、オメガが抜擢されていたわけである。
アルファ同士でばかり子孫を残そうとすれば、結果的に近親婚ばかりになってしまう。――だからその時代のヤマトでは、オメガとして生まれた者があれば全員アルファ王家の夜伽相手として宛てがわれ、そして、オメガがアルファ相手の夜伽を務めることにより、次代のアルファを生み出していた、という歴史があるのだ。
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