66 / 606
神の目は見ている※モブユン
13
しおりを挟む「…グゥゥゥゥ゛……」
「……、…っ?」
僕はうつむいて、すっかり自暴自棄になっていたが――その調子の話を、僕の隣で黙って聞いていたソンジュさんが、…いきなり唸った。
いや、人間が唸ったというより(いやいや、彼はたしかに人間なんだが)、…本当に、威嚇する狼の唸り声そのものだったのだ。
それに驚いてハッと振り返れば、その朱色の唇の端をヒクヒクとさせ、尖った白い犬歯をチラチラ覗かせながら――ソンジュさんは、本当に…威嚇している狼のような、険しい顔をしていた。
ただ、…僕と目が合うなりソンジュさんはハッとした顔をした。――そして「んんッ」と気まずそうに咳払いをし、片肘をテーブルに掛けながら、ふっと横へ顔を向けた。…ソファ上の絵――赤いボディコン金髪美女――を見ているふうだが、どうも僕には、今の唸り声をごまかしているようにしか見えない。
正直、僕はアルファ属の人に初めて会ったのだ。
確かに彼らアルファ属は、一時的に狼になれるとは聞くが――こうして人間の姿のときにもその、狼の要素が垣間見えてしまうものなのだろうか?
と…いうか。
「…、ソンジュさん…今、怒ってらしたんですか…」
狼ということを基準に考えると――そう考えてよいものかもわからないが――今、何かしらに威嚇していたというか、…怒っていた、というか。
僕が怒らせてしまったのか、と恐る恐る聞くと、――ソンジュさんはパッと焦ったような、やや裏返った声で。
「…あ、いえっ? いいえ怒っ…ては、いや、――まあ…、そう…、グッ…ゥゥゥ゛…」
「…………」
しどもどと、やけにうろたえている。で、また顔を険しくし、短くもまた唸っている。
そして、ソンジュさんはやや恥ずかしそうな、気まずそうな顔をして、はぁ、と目線を伏せつつため息をもらし、少しほつれた前髪を後ろへと撫で付け――るが、そのホワイトブロンドの髪に迎合することのない、その短い前髪は、またぴょろん、と彼のなめらかな象牙の額に落ちた。
「……、ふふ…」
ソンジュさんはかなり美麗な紳士なのだが、その姿に似つかわしくないコミカルな状況に、僕は思わず、少し笑ってしまった。
するとソンジュさんは、ハッと僕に振り返り――僕の顔を、じいっと見つめてくる。
「……、…」
「……?」
「………、…」
ソンジュさんは僕を見て、少し切ない顔をしている。
そんな顔をして、僕の顔を見つめてくるのだ。――僕が笑ったからだろうか。
「…、ごめんなさい、笑ってしまって…思えば、失礼でした」
「…えっ? あ、あぁいえ、…そうでは…」
「そうではなく、」と目を泳がせるソンジュさんは、僕の手を掴むようにして握り、――目線を伏せたまま。
「き、綺麗だ、なと…思いまして…、ユンファさんは、笑っていても、本当に…――今は正直、見惚れてしまったのです…」
「……、そうですか…、…」
僕は、またソンジュさんから顔を背けて、俯いた。――もう騙されたくはない。
いや、それは大丈夫だろう。――僕はあのときのように、今ソンジュさんに褒められても別に、少しも嬉しいとは思わなかったのだから。
「…………」
「…………」
ソンジュさんは、僕の横顔を見つめているようだ。
――どうして、そんなに見てくるんだろうか。…どうしてそんなに、優しくしてくださるのだろうか。
僕は、やんわりと握られたままのソンジュさんのぬくもりに、いぶかしい気持ちしかない。――素直になれたらいいのに、本当に卑屈で面倒な奴だ。…可愛げもない。本当、最低だ。
どうしてそんな僕なんかを、ソンジュさんは――。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…





塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる