ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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月下美人はおかしな夢を見る

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「――どうでしょう…?」
 
 ニヤリと深く引き上がってやや割れた、この男性のふくよかで血色の良い唇の間に、綺麗に揃った白い前歯がチラリと見え、そして、その両端に白く鋭利な犬歯が覗いた。
 
 かわしたつもりであった。――ここで僕が嘘を言っても、彼が追い求めているなどどうせ、本当はもう彼のあるのだ。
 そうならば、僕は自分を守ったって構わないだろうと、僕は濁したつもりであったのだ。
 
「…では、もう少し話を続けましょうか、ユンファさん…?」
 
「…………」
 
 しかしどうしても、僕の口からを聞きたいらしいこの人は、柔らかな声で続ける。
 
「…ユンファさんを普通のカフェの店員とするには、正直、何かおかしいことばかりではないでしょうか。」
 
「…そうでしょうか…」
 
 そうは答えたものの、そんなことは自分でもよくわかっている。なんなら僕本人が、一番よくわかっていることでもある。――事実僕は、このカフェ『KAWA's』の、のだから。
 
 彼は、静かな低い声ながらも弁舌が良いまま、低くも聞き取りやすい言葉をするすると紡ぐ。
 
「…それはそうでしょう。――男性器への奉仕に慣れ、いや、むしろそれによって酷使されたような貴方の手…それがたとえ、いわゆるダブルワークによる要因だとしても、私が思うに…」
 
「…………」
 
 ニヤリ、また彼のふくよかな唇が艶を放ちながら妖しい笑みの形になる。
 
「…別段カフェに勤務してらっしゃる時間に、わざわざ首輪を着けている必要もないわけですしね…ニップルピアスに関してもそうですが、わざわざ乳首や、ニップルピアスが透けるような制服を着る必要はないはずです。と、いいますか…」
 
「…………」
 
「なぜ…ユンファさん個人のご趣味を、この店のマスターがお許しになられているのです…――ふっ…常識的に考えれば、まず今のユンファさんの状態は、風紀を乱すと判断されるようなものではないでしょうか」
 
 ひくり、四角い黒茶のサングラスの上で、彼の形の良い眉がしたりと上がった。
 
「そもそも、貴方が今身に着けている制服は、マスターがこの店で雇用している、店員のユンファさんに支給しているものなのではないですか。」
 
「…………」
 
「…なぜカフェの勤務時間に、遠隔バイブなんて膣内に挿入して働いてらっしゃるのです。…変態行為とのことですが、では、なぜマスターはそれをお許しに? ――私個人の感覚かもしれませんが、そもそもというのはたいがい、お一人でお楽しみになられる道具とは、私にはとても思えません。」
 
 ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべたまま、いやに優雅に傾いたその小さな顔、サングラスの奥にあるそのまぶたは、すっと閉ざされているというのに――僕は、彼の追求する視線を感じるようですらある。
 
 それでも僕は、こう答えるしかないのだ――それが此処で僕に課せられた、義務なのだから。
 
「…全部、僕の趣味です…、僕は淫乱で、変態のマゾヒストなもので…――マスターは嫌々ですが、彼にお情けをいただいて、彼は僕のいやらしい趣味にお付き合いくださっているんです…」
 
 もうどうでもいい。
 たしかその通りだ。僕のは、…――何だっけ。
 
 いや、みんなわかっていることだ。
 この美しい男性も、マスターも、此処に訪れるお客様も、僕も、全員が――そのことがなのだとよくわかっている。
 
 僕は今、嘘は言って、いない…――?
 
 
 



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