17 / 606
月下美人はおかしな夢を見る
16
しおりを挟むサングラスをかけているその目元はやはりよく見えないが、その輝くようなホワイトブロンドを、上品にもオールバックにセットしたこの男性は今――何か、そのふっくらと艶のある唇を妖しい笑みの形にして、とても楽しそうだ。
「さて…――誰ですか…?」
こんなに上品そうな紳士が、悪魔的な優しい微笑みを浮かべ、またそのような猫なで声で、僕にそう聞いてきた。
「…………」
しかし誰と聞かれても、僕は自分を庇うように、その誰かを庇って、真実をこの男性へと告げることはできなかった。――それでも彼は、遠慮なく追求を続ける。
「誰が。ユンファさんのナカにあるバイブのリモコンを、持っているのですか。」
「……、…」
僕は直感している。
彼はもうすでに、僕のナカにあるバイブの持ち主が誰なのかをわかっている上で、このような質問をしているのだ。
もはや僕が返答する意義などないだろう。
きっと彼にとっては、それが重要なのではない。――ただこの人は、人の罪を暴いて楽しんでいるだけなのだ。
その見えない目で――僕の青ざめた顔に浮かぶ真実を、舐めるように見て楽しんでいるだけなのだろう。
「……ねえ、ユンファさん…? 誰ですか…?」
「…………」
僕は何も言わなかった。
顔にしろ体にしろ冷え切って、凍り付いたように固くなり、もう感覚がない。
しかし男性は、わざとねっとりとした猫なで声でゆっくりと、更なる追求をこう続けた。
「教えてください。いったい誰なんでしょうか…、どなたです…? ねえユンファさん…、貴方の――ご主人様は。」
「………、…」
その実僕は今も、僕の背中に向けられている鋭い視線を感じて気になってはいるが、それでも怖くて振り返ることはできなかった。
この男性が何も見えていないのはわかっているのだが、それ以上に、普通に視力のある人よりもずっと彼はなにもかもが見えているような人だ。
ならば、その行動はあわやそれが誰なのかの答え合わせにもなり得るという、また布ずれの音や、気配なんかでこの人はどうせすべてがわかってしまうのではという、僕にはそうした妙な警戒心があるのだ。――しかし、いや、そもそももう彼は、おそらくもうわかってはいるのだろうが。
「…………」
僕は自分を守るために――振り返らない。
もう貴方はわかっているのだろう。――もう僕の口から真実を告げようが、あるいは嘘を告げようが、彼には何が真実で、何が嘘なのか、そのすべてをわかっているのではないか。――事実これまでがそうであったように、わざわざ僕の口から、その真実を聞く必要などないだろうに。
たとえ貴方の目に視力はなかったとしても――貴方の目は、孔雀の羽根に付いたあまたの神の目のように、何もかも、この世のすべてが見えているのだろう。
「もう、わかっていらっしゃるんじゃ、ないですか」
神の目を持つ貴方には――もう真実が見えているはずだ。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説







塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる