ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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月下美人はおかしな夢を見る

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「…………」
 
 ――僕の左耳にぶら下がった、銀の十字架のピアスが今は、やけに重たく感じる。
 こうして自らの罪悪を神に暴かれて、それでも素直に懺悔するようなことはできず、むしろ居直っているような僕じゃ――いや、もうその前の時点でわかっていた――僕は、地獄行きだ。
 
 わかっていても、僕は祈っていた。
 いつも救いを求めて神に祈っていたのだが…――神が下した審判は、決して僕を救うものではなく、やはりこうして、僕をより深い地獄へと堕とすものであったらしい。
 
 僕の体内に入ったバイブ――それはたしかに、今は動かず震えることもなく、じっとしている。
 何か、とても優しげな声で指摘されたに、僕はゆっくりとぬらり…顔を上げた。
 
 ぼんやりとしか見えないが…目の前の彼は、ふふ、ともらしたその笑いにしても、不気味なほど柔らかいものであった。――続いた言葉にしても、まるで小さな子どもに父が語りかけるような、穏やかな声色であった。
 
「…私がこの店に来たときには、たしかにユンファさんの体内からモーター音が聞こえていました。…」
 
「…………」
 
「しかも、ローターといった震えるだけの類ではなく、わりと大きな…それこそオメガ男性である貴方の、子宮口まで届くようなバイブでしょうか。…」
 
「……、…」
 
 うつむいた僕は思わず意識してしまい、ナカをきゅっと締めてしまった。――そうして締まると、ソコに咥え込んでいるの細長い形が僕の肉壁全体に伝わって、また一つ罪を覚える。
 
「それも…ピストン機能付き、先端は回転もする…震えるばかりではなく、多様な動きをするバイブだ。…ふ、――私が来てすぐ、慌ててがスイッチを切ったようだが…、その直前まで、貴方のナカで動いていましたね」
 
「…………」
 
 この男性は、少し楽しげだ。
 その声にハリがある。――人の罪を暴き、自分の推理を披露することが、いやに楽しいらしいのだ。…本当に探偵なのか、あるいは本当に、人の形をした神様なのかもしれない。
 
「…ユンファさんは、そのバイブにを突かれ、かと思えばまるく子宮口を執拗になでられ、肉壁を掻き回され…体内でブルブル震えていたソレに――私が来る直前までは、呼吸を乱していた…」
 
「…………」
 
 僕の体内にある…――このバイブの存在を見抜かれ、僕はまるで自分の体内の奥の奥までこの人に見られてしまったような気がした。
 この盲目であるはずの男性に、僕の容姿のみならず、また心のみならず、体の奥の奥まで見られているようだった。――うつむいた僕はぼんやりと、もう全てを諦めて彼の快活な言葉を、なんとなし耳に入れている状態だった。
 
 僕は今、自分の罪を裁かれるのを待つ――その罪の判決が、この美しい唇から優しげに告げられるのを、神の御前でうなだれて待つ、罪人の気分だ。
 
「…隠していたおつもりでしょうが…貴方が“いらっしゃいませ”と私を迎えてくださったときの声は震え、また吐息混じりでやや上擦り、…ええ、どこか色っぽい声でした。――失礼。セクハラめいたことを申しましたが、ご容赦願います」
 
「……、いえ、もう…いいんです…」
 
 そうだ。――それがである。
 僕たちオメガ…女性はもちろんだが、オメガは男性であってもがある。…そして膣内を奥に進めば子宮口、子宮まであるのだ。――ちなみに膣口は、ベータやアルファの男性でいうところの、ちょうど会陰あたりにある。
 ただ、もちろん男性として男性器も睾丸もあるために、脚を開いて見せなければ、ほかの男性同様の体のつくりに見える。…そうした僕らオメガ男性の体だが――脚を開けば睾丸の下に開いている、小さな膣口が見えるような体なのである。
 
 そして僕のソコには事実、ピストン機能付き、先端がグネグネと回る、ショッキングピンクのバイブが入っていた。…今は身を潜め、動きを止めているソレだがたしかに、この男性がこのカフェ『KAWA's』に一番客として来るまでそのバイブは、僕のナカで激しく動いていたのだ。
 
「…自分の…ナカ…いえ…――自分のおまんこにバイブを挿れているのも、僕の勝手な、いやらしい趣味です」
 
 たしかに僕は、彼がこのカフェ『KAWA's』にやってくる直前までこのバイブに、ぐちゃぐちゃとナカを掻き回され、子宮口をトントン突かれて、かと思えば、不規則に回るバイブの先端にソコを、ぐりぐり丸く撫でられていた。
 そして僕は、浅ましくもそれに感じていた。――であればいくら、彼の言う通り隠そうとしていたところで、僕の息は乱れていたことだろう。…直前まで身悶えていた僕の体は熱く、たしかに声も上擦っていたことだろう。
 
「…感じていました。おまんこをぐちゃぐちゃに濡らして、バイブで感じていました」
 
 惨めだ。
 だが、そんなのはもう今更だ。

「…お客様にご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありません。…」
 
 この人に見えていないとはいえ、僕は土下座のつもりでテーブルに両手を着き、彼へと深く頭を下げた。
 それこそ、この店の“スペシャルメニュー”を目的として来ているわけでもないこの男性に、ある意味では無関係なこの清らかそうな彼に、僕のに付き合わせてしまったのだ。――本当に申し訳ないと思っている。

「…変態なんです…、僕は最低な、変態なんです…――ごめんなさい…、本当にごめんなさい…」
 
「…いえ、私は何も迷惑とは思っていません。いいんじゃないですか、そういうのもまた。…別に謝られなくて結構ですが、しかし…ユンファさん、――、ですか?」
 
「……、…?」
 
 僕はこの人が聞いてきた意味がわからず、許されたといえばそうかと判断して――ただやはり恐る恐る、彼の顔を窺いながら、そっと頭を上げた。
 彼は、無表情であった。――ただ、その声には少しだけ、不快そうな低さがあった。

「…思うにそれは、です。――なかなか大人の男性では、そのように“ごめんなさい”とは咄嗟に出てこないものでしょう。私とてとてもじゃないが…」
 
「……?」
 
 そう…なのか。いや、そうだったかもしれない。
 正直僕は、この“ごめんなさい”というワードをいつの間にかしまったせいでもはや身に染み付いており、自然とそう謝ったが。――そう不自然なら、申し訳ありませんで終えておくべきだったのかもしれない。
 
 まあ…もう、全部今更だ。
 もう過去は取り戻せないのだ。
 
「まあそれはいいでしょう。――ところで」
 
「…、……」
 
 目の前の男性はうつむいているのか…あるいは見えていないながらも、もう湯気も立たない冷えたコーヒーのことを見ているのか――その顔を少し伏せ気味に、やはり声色は落ち着いて、淡々とこう言う。
 
 
「…思うに…ならばユンファさんは、、そのをお楽しみなのですね。…」
 
 
 
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