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161 蜜入り林檎は盃となり
しおりを挟むユンファ様はちゃぷちゃぷと、泉の中で足を動かして遊びながら、それを見下ろしながら。
「……ソンジュ、ねえ、これからどこへゆくの…?」
「…うーん…、どこへ参りましょうか……宛もなく、逃げて来てしまいましたもので……」
正直いって、宛てがあるでもなく――なんの考えもなく、飛び出してきてしまった。
しかし幸いなことに、俺たちは蝶と狼だ。――つまり、俺は狩りをすれば肉にありつける。…ユンファ様にしても、森やらにいれば果物や花の蜜など、そういったものを食わせてやれる。
とはいえ、これからのことが未知数であることには違いない。
するとユンファ様は、肩を竦め、くすりと笑って。
「…まあいいんだ、どこでも。」
「…ええ、俺もユンファが側にいてくださるのなら、どこでだって生きてゆけまする。」
「うん。僕も」
ニコニコとして、透き通る水に浸った俺たちの足を眺めていたユンファ様は、その立てた膝を抱え、月を見上げた。
濃い群青色の夜空に浮かぶ、青くも欠けた月だ。
俺はひと足先に泉から引き上げ、隣のユンファ様に体を向けてあぐらをかいた。――そして側に置いていた麻袋の中から、真っ赤な林檎を一つ取り出す。
「……ユンファ」
「……、…ん…?」
俺が名を呼べば、ユンファ様はにこっとして振り返る。
…俺は、その薄紫色の瞳を見つめる。
「…酒でもなく、盃でもありませぬが…――この林檎で、“婚礼の儀”を交わしませぬか。」
「……、…うん、ソンジュ」
すると、は…と小さく息を呑んだユンファ様は、次にふわりと笑い、泉から足を引き上げ、その場に正座した。――俺はあぐらをかいたまま背を正し、お互いの間にその林檎をかざして、まっすぐにユンファ様を見据える。
「…我らは、たとえこれから何があろうとも決して離れぬ、永久なるつがい…――俺は胡蝶ユンファを、永久なる夫として支え、この身が滅びたあとも御身に寄り添い続けることを、この林檎に誓いまする。」
するとユンファ様は、お互いの間にかざされたその真っ赤な林檎を、白く大きな両手でそっと包み込み――俺の目をじっと見据えながら、頷いた。
「…その永恋の誓い、謹んでお受けいたします。――我らはたとえ、これよりどのような苦難の目に合おうとも、決して永久に離れぬ永恋のつがい…。僕は大神ソンジュを、永久なる自分の夫として支え、たとえこの身が滅びようとも、永久に御身に寄り添い続けることを、この林檎に誓います。」
俺たちは真剣な目をして、おもむろに一度頷きあった。
…そしてユンファ様は、その林檎を俺へと差し出す。
俺は謹んで、その赤い林檎を一口かじった。
その甘酸っぱい果実を口の中で噛み砕き、俺はユンファ様のそのキラキラと美しい薄紫色の瞳を見つめながら、慎重にゴクリと飲み下す。――そしてその後、その様子をただじっと眺めていたユンファ様に、俺はその林檎をおもむろに差し出した。
「…さあ、我が永久なるつがいとなれ、ユンファ……」
「…はい、ソンジュ……、…」
ユンファ様はふ…と淡く微笑み、俺が差し出した林檎を両手で受け取ると――俺がかじり、見えている林檎の白い身、そこに口付けては、ちゅう…と軽く蜜だけを吸い。
俺の目を幸福そうに潤んだ瞳で見つめながら――にっこりと微笑み、コクリとそれを、飲み下した。
俺の、ユンファ様の、二人の周りに、ふわふわと黄色い小さな光が舞い踊って――この婚姻を祝福している。
「……これで我らは、永恋なるつがい。」
俺は、ユンファ様の林檎を握ったままの両手を、そっと両手で包み込んでは、誰よりも美しい薄紫色のその瞳を見つめた。――ユンファ様の首元には、同じ輝きを放つ首飾りがある。
「…永恋のつがいは、魂でつがい合う」
「これできっと、次にも…お前の瞳を見られたら、僕はお前とわかるだろう…――。」
これは、俺たちがいつもなぞり、口ずさんだお伽噺だ。
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