上 下
154 / 163

154 籠の中に満ちる殺気

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 ガチャリ――扉のほう、外側からかけられた鍵が開けられた音に俺はハッとし、即座に立ち上がった。
 念のため俺は、寝台に立て掛けておいた愛刀を鞘ごと掴み、じっとこの暗い部屋の中で、扉のほうを凝視する。
 
「……、…」
 
「…………」
 
 ガチャリ――開いた扉。
 …そこから入って来た者は――。
 
「……よおソンジュ、ユンファ…、楽しんでおるか?」
 
「……、ジャスル様……」
 
 ジャスル・ヌン・モンス…――その人であった。
 宮殿で行われていた祝宴から抜け出してきたのだろう、ごてごてと宝石まみれに着飾っているジャスルは、その扉から威風堂々何も億せずこの部屋の中へと歩き、ズカズカと入ってくる。
 
「…何じゃ、もう始めているかと思いきや、まぁだヤっとらんのかお前たち? ぐふふ、まあわ……」
 
「…………」
 
 一人、か…?
 いや…おそらくこのジャスル、ユンファ様がいまだ婚礼の白い衣装を着ているばかりにそうしたようだが、……?
 俺は警戒しながら、その人のニヤケ顔を凝視しているが、ジャスルはこの部屋の寝台まで来ると、――どかり。
 
「………、…」
 
 なぜかその寝台に勢いよくその巨体を乗せ、横向きに寝そべっては、立てた肘の先――頭を乗っけて、怪訝そうに自分へ振り返っているユンファ様へと、ニヤけながら。
 
「…さあおいでユンファ…、ワシが孕ませてやる……」
 
「……、…ぇ…?」
 
 何を言っているのか、と当惑しているユンファ様の腕をがしっと掴んだジャスルは、そのまま強く彼を自分のほうへと引き寄せた。――「おいで、おいでユンファ、ほら、ワシのところへおいでな、…」そう甘ったるい声で繰り返し、ユンファ様をグイグイと引くジャスルに、彼は顔を顰めて抵抗している。
 
「…っ嫌だ、…いや、おやめくださ、…」
 
「よかったよぉ、…――お前、もうたっぷりとさんざん、あの犬っころソンジュと蜜月の時を過ごしたのだろう…? そうしたらお前、なあユンファ……」
 
「………、…」
 
 ジャスルはにんまりと――その顔を欲望にまみれさせ、醜く笑った。…するとユンファ様は瞠目し、あまりのことに絶句して固まる。
 
「…もうさすがに、ろう、なあ…? お前の子壺には今、たんとワシの子を孕むための卵があるはずじゃ…なあ、だから旦那様の子種を、今からそこにたっぷりと……」
 
「……っ!」
 
 そう言いかけたジャスルに、ユンファ様は――バッとその腕を振り払うと、険しい顔をして立ち上がり。
 じり、じりと後ずさりながら、寝台の上に寝そべったままで驚いた顔をしたジャスルを、キッと睨み付けては…自分の下腹部に、片手を置いた。
 
「…残念ながらジャスル様…僕のには、もう…――ソンジュの子がおります」
 
「……、な、何だとっ?」
 
 すると途端に険しい顔をしたジャスルは、寝台の上、バッと手を着いて身を起こしたが――俺は刀を持ったままユンファ様の側へと寄り、彼の腰を抱いて並び立った。
 
「…さようでございます、ジャスル様…」
 
 いい気味だと、歯の根が笑いそうに震える。
 そしてユンファ様は毅然とした態度で、憎々しげに俺たちを睨みつけるジャスルを冷ややかに見下ろし。
 
「…僕たちはメオトとして、もうすでに何度も何度も愛し合ったあと――貴方様の子など、僕は孕みません。…いえ、元より孕みたかったわけではない…、…っ」
 
 そしてユンファ様は、みるみると険しくなってゆくジャスルの顔を、キッと睨み付けると――大声で、怒鳴った。
 
「…っ誰が貴様の子なぞ孕むものか! この際言ってやるが、貴様ことなど尊敬も何もしていない、むしろ貴様のことなど殺したいほど憎いのだ、…だから貴様の子など孕まなかったのだ、ジャスル!!」
 
「……、…、…」
 
「………、…」
 
 ジャスルも目を瞠って固まっているが――俺も驚いた。
 …あのしとやかで楚々とした態度ばかり――いや、元来そういった性格であるユンファ様が、ジャスルのことを憎々しげに睨み付けながら、…大声でがなるほど怒鳴ったのだ。
 するとジャスルは呆然としていた。――これまでか弱く儚い、言いなりの蝶だと思っていたユンファ様に、怒鳴られたからだろう。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...