胡蝶の夢に耽溺す【完結】

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
140 / 163

140 約束の瞳

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 昼ともなる前に、俺はユンファ様と寝台に上って、見つめ合った。
 …もう夜まで待てぬ。――夢というのは、夜にだけ見るものではないのだろう。
 
 まぶたを閉ざせば、太陽の光のもとでも見られる――それが夢。
 
 俺と見つめ合うユンファ様はうっとりと微笑み、太陽光に透けて淡くなった薄紫色の瞳を、キラキラと輝かせて――本当に、美しかった。
 窓から差し込む太陽の光――明るみになる、俺たちの想い。…それでよい。もうそれがよい。
 
 
 もう隠せはしない――隠すつもりもない。
 
 
「…ユンファ…、とても綺麗だ……」
 
「……ソンジュ…、…ん……」
 
 手の指を絡めて繋ぎ、そっと優しい接吻をすれば、彼は相変わらず初心な声を「んん…」と鼻からもらした。
 はむ、はむとゆったり、その柔らかく瑞々しい唇を食む。――肉厚なために、こうしているだけで胸がドクドクと早鐘を打つが、一方俺の意識はとろりと蕩けるほどに、うっとりと緩んでいく。
 返ってくるユンファ様の唇…俺の唇の表皮に吸い付いてくるその唇を越えて、舌をすべり込ませる。
 
「……ん…っ」
 
 いささか驚いたような反応、しかし甘い桃の果汁に浸ったユンファ様の熱い舌は、ややざらりとしながらもにゅるり、にゅるにゅると俺の舌に絡み付いてくる。――甘美な水菓子、そのような柔らかい舌の味と感触に酔い、…はぁ、と唇を離せば。
 
 はぁ…と湿った吐息が、俺の唇にもかかる。
 
「……媚薬を…飲まされたのですか…?」
 
 至近距離でそう尋ねてみれば、…ユンファ様はえ…? ととろりとした切れ長でも、やや不思議そうな顔をする。
 ややあってユンファ様は、くすりと笑った。――もぞりと動いた繋ぐ手が、ほどかれる。
 
「……ふふ、媚薬…? これのことかい…?」
 
 そしてユンファ様は、その白い手を伸ばした――寝台横の、机の上に。
 …そこにあった小さな、飾り彫りのあるガラス瓶を手にしたユンファ様は、何かしたりと笑みながらそれの蓋を開けた。
 
「……、ユンファ様、まさか…いえ、ならば、…」
 
 事実その媚薬を、渡されてはいたらしい。
 …わざわざ飲む必要はない、と俺は静止しようとしたが、しかし――今、ユンファ様はそれを、――その媚薬の小瓶の口に唇を押し当て、目を瞑り、顔を真上に上げて煽り――ごく、ごくりと白い喉仏を上下させながら、その媚薬を、いま飲み干した。
 
「……っはぁ…――。」
 
「………、…」
 
 どこか恍惚と薄目を開け、ため息を天井のほうへ吐き出したユンファ様は、おもむろに顔を伏せ――それからゆっくり、俺のほうへと振り返る。
 頬をぽっと赤らめ、彼はにこっと微笑むと、俺の目をうっとりと細めた切れ長の目で見つめてくる。
 
「…先は、ある意味で媚薬を飲んだようだった…――僕は、それくらい浮き足立っていたんだ。…」
 
「…………」
 
 ユンファ様は、その媚薬の入っていた小瓶をコトリと、また寝台横の机の上に置いた。――そして寝台に座ったまま、俺に向けられているそのやや伏せ気味の横顔は、陶然とした艶めかしいものである。
 
「…三日ばかりでも、ソンジュとメオトになれる…。ましてや、久しぶりに元気な君に会えると思ったらね…、頭がぽーっとして、君が欲しくて欲しくてたまらなくて……難しいことは、本当に何も考えられないほどだった……」
 
「………、…」
 
 そこでおもむろにまた、俺へ振り向くユンファ様の顔は、少しばかり自嘲した微笑みを浮かべている。
 
「…つまり…ソンジュへの恋心という、何よりも僕に効く媚薬が、僕のことをぽうっとさせていたんだよ」
 
「……ユンファ…、…」
 
 俺はユンファ様の片頬をするりと撫でて、手のひらにおさめた。――しっとりと濡れて熱く、すり…と顔を傾けて擦り寄ってくるその頬は、今もなお紅潮している。
 
「…………」
 
「…………」
 
 俺たちは、愛おしさに見つめあう――。
 …叶うのならば、叶うのならば――。
 
「…ユンファ…、どうか叶うのならば…――来世でもどうか、その淡い紫色の瞳で俺を、見つめてはくれませぬか……」
 
「……、……」
 
 俺がそう言えばユンファ様は、目を細めてただ微笑んだ。――俺は吸い寄せられるよう彼の唇に、ふに…と唇を押し付け、わずかに離れた距離で囁く。
 
「…俺は、ユンファのその瞳の色が、本当に大好きなのです…。とても美しく、何よりも神秘的で…唯一無二のその瞳、貴石にも優る美を感じ…――貴方様の瞳を見つめると、この全身が総毛立つほど…。…来世でもその瞳を見られれば、俺はきっとユンファだとわかることでしょう……」
 
「……ふふ…、わかった、天上の神に頼んでみようか…。しかし、ソンジュ……」
 
 美しい薄紫色の瞳でじっと、俺を愛おしげに見つめてくるユンファ様は、片手のひらで俺の頬を、ふんわりと包み込む。――そうして相互に、反対の頬を包み合うようになっては彼、甘い声で。
 
「…僕も、君の瞳の色が大好きだ…。だからどうか、ソンジュもその、青い瞳のまま…また僕に、何度でも僕に、その青い瞳のままで、出逢っておくれ……」
 
「……もちろん。もちろんでございます、ユンファ……」
 
 俺たちはくすりとこの約束に笑い合い、そして自然――吸い寄せ合うように、自然と顔を緩やかに傾けて、…唇を合わせた。
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...