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134 褒美
しおりを挟むそうして帰ってすぐに俺は、ジャスルに呼び出された。
まずは戦果を報告しろというのだろう。
疲れはあったものの、それに関してはいつものこと。
俺は馬小屋に愛馬を収めた足でそのまままっすぐ、その人の部屋へと向かい――扉を叩いて「ソンジュでございます」と言えば、「入れ」――そしてその部屋に入った俺の姿を認めるなり、ジャスルはニヤリと思惑ありげな笑みを浮かべた。
俺はその人へ頭を下げ、すぐにジャスルの元へと歩み寄った。…そのまま俺は、椅子にどっかりと腰掛けたその人の足下で跪き、片膝を立て、頭を垂れ――するとジャスルは、何かやけに上機嫌そうな声で。
「…此度の戦、ご苦労であったなぁソンジュ」
「はっ…恐縮でございます、ジャスル様。」
ジャスルはうんうんと何か、やけに甘い鼻声を出した。…俺は疲れもあってか、ぼんやりとした視界でただジャスルが履いている、ゴテゴテと金飾りの施された履き物を眺めている。
「…聞くところによればお前、随分活躍したそうではないか…? ワシもお前の主人として鼻が高いよぉソンジュ…お前、あの戦での功績はほとんどお前が上げたと、お前が一人で鎮圧したようなものだと? ――まぁったく、よくやりおるわい。お前の主人として、滅法鼻が高いことじゃ」
「……恐悦至極に存じまする。…」
俺は、はぁ…と荒立ちそうな呼吸をひそかに口から逃がす。早いところ、今日はもう休みたいが――それにしても何か、何かやけに胸騒ぎがするのだ。…嫌な予感がする、というか。
「…国王様も大層お喜びでなぁ…、明日の夜、早速宮殿で祝勝パーティーを執り行われるとのことだぞ。」
「…はあ…、それはそれは……」
呑気なものよ。
そんな祝杯をあげるくらいならば、さっさとあの農民たちとの問題を解決するに注力するべきだろうに。
そのときジャスルが、「しかしなぁ…」と含みのある声でねっとりと言い――俺の顎を掴んではぐうっと上げ、あくどい笑みでその人は、俺のことをじっと見下ろしてくる。
「…ソンジュよ…、この度はお前、その祝杯パーティーなんぞには出なくてもよいんじゃ。…」
「………は…」
俺は瞠目した。
いや、いつもならば俺はジャスルのお飾り――すなわち、そういった祝杯の宴には必ずといってよいほど連れ回され、見せびらかされ、俺の存在を誇る…否、そういった華々しい戦果をあげられる狼の俺の、主人であることを他人に誇るジャスルが、――この度は、その祝杯の宴に出席しなくてもよい、と。
これは確実に――ジャスルには何かしらの、思惑がある。
「…お前には、褒美をやらねばならんからのぉ…」
「……いえ、いえ褒美など……」
俺は嫌な予感に、ゾワゾワと全身が粟立つのを感じた。
しかしジャスルは、「いやいや」とニヤけたまま俺のそれを制して。
「…そう謙遜するでないわ。――お前が喉から手が出るほど欲しかった褒美を、この度やろうというんじゃぞ…? ここは四の五の言わずに、主人からの心ばかりのその褒美を享受しておけ、なあソンジュよ……」
「………、…」
俺はゴクリと喉を鳴らし――息を止めた。
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