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133 約束通りの帰還
しおりを挟むそういえば――あの日に聞いた。
俺はユンファ様に、土産を持って帰ります、何がよろしいですかと聞いたろう。――しかしユンファ様は、俺の身が無事であることのほかには、何もいらぬと。
無事に自分の元に帰ってきてくれさえすれば、それが何よりもの土産であると――俺はその人の優しく深い愛に浸り、だからこそと考えた。
しかし、戦は三日ほどであったが。
…思いのほか、その土産を用意するのに時間がかかってしまった。…ちなみに二つほど用意したのだが――いや、もうユンファ様への土産を何にするかはとうに決まっていたのだが、少々それを用意するための時間が必要だったのだ。
きっとこの土産たち、ユンファ様は喜んでくださるに違いない。――きっとまた、あの薄紫色の美しい瞳を無垢にキラキラ輝かせて、笑ってくださることだろう。
とはいえその実、ジャスルの元から徴兵されたのは、この俺のみ。
であるからして、そう周りに合わせての帰還をする必要もなかったのだ。…ジャスルには、少々その土地でゆっくりと疲れを癒やしてから帰る、六日程度で帰ります故、と報せておいたため、それによって咎められることもなかったのだが――戦地に赴くまでに半日かかり、三日ほど戦地に立って、その土産を用意するのにほぼ丸一日。
それから、ここから帰る道のりに半日、帰りはゆっくりで、結局一日かかったか――そうして、およそ報せ通りの六日ほどをかけて俺は、ユンファ様への土産を片手に意気揚々、ジャスル邸へ…――否、ユンファ様の元へと六日越し、無事に帰還した。
――よく晴れた、黄金色の朝であった。
俺が自分の馬に跨がったまま、ポクポクと屋敷の中、その前庭に立ち入れば――出迎えに来ていた下男たち数人が、やけに興奮気味に俺を見上げてくる。
「…お疲れソンジュ、今回もお前の独壇場だったんだってえ?」
「…おいおいさすがだな、…それでいて誰も殺さなかったんだろ? どうやったんだ、魔法でも使ったのか?」
そう興奮気味に俺を見上げてくる男たちを見下ろしつつ、俺はひょいと肩を竦めた。
「…いや。…いや…まあ、ある意味では魔法かもしれんが……」
そりゃあ他種族にしてみれば、満月の夜にめきめきと人狼と化すのは、魔法というに相応しいことやもわからん。
戦場では幾たび人狼となって戦いはしたが、それを知っているのはせいぜい軍人たちばかり――この屋敷の者のほとんどは、俺のあの姿を知らないのだ。…戦場でもなければ、人狼と化した俺は、いつも自室に引き篭もっているからして。
そうぼんやり考えつつ、俺はここで馬から下りた。
…そして手綱を掴み、俺の元へと群がる男たち幾人かを見渡す。――何人か下女もいるが、その女たちはどこか控えめに、俺のことをやや遠巻きに眺めている。
「…すっげえよなぁお前、やっぱり、あの人の護衛にしとくのはもったいないよ。それこそ軍人に志願したらさぁソンジュ、お前なら役職だって、すぐにつくんじゃ……」
「…それはどうかな。俺は別に、戦が好きなわけではないのだ。ましてや役職なぞ、そんな大層なものはいらぬ。……」
俺がそうきっぱりと言えど、相変わらずやいのやいのと「もったいない」だ、「どうしてそう謙遜するんだ」だ騒ぎ立てている者たちの輪の中――俺はつい、ふと見上げた。
その視線の先、屋敷の二階――あのバルコニーに、ユンファ様が居た。
俺が帰るという報せを聞いたのだろうか。…彼はそのバルコニーの柵の前、片手でそれを掴み――前庭にいる俺、それを出迎えて歓声をあげる者たちを、そこからただ眺めていたようだ。
「……っ! はは……」
「………、…」
しかし遠くから俺と視線がかち合うなり、ユンファ様はハッとした顔をして、にこっと笑うと俺へ、その白い片手を横に振った。
「……はは…、…」
俺はそんな彼へ、笑いながら軽く頭を下げて見せたのだ――約束通り、こうして無事無傷で帰還いたしましたと、誇らしく。
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