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128 格好より気持ち
しおりを挟む早速麻袋の口をほどきつつ寝台に腰掛けて、中のものを取り出したユンファ様は、「あっ」と声をあげた。
そして出入り口の扉の前にいる俺へ振り返ると、ふふ、と照れくさそうに笑う。
「…こちらに来ておくれ、ソンジュ」
何か顔を綻ばせて俺を手招くユンファ様、俺は彼に歩み寄った。――そしてユンファ様の足下に跪き、片膝を立てて座る。…すると彼はやわい表情で俺を見下ろして、…今日はやけに言葉を交わしてくださる。
「ありがとう。棒針…頼むのを忘れていたのに。さすがソンジュだ」
「……はは、俺がというよりか…店の店主が、それも必要じゃないのかと。…編み物のことは全く明るくないものですから、俺はその者に、必要だといわれるまま買ってきたまでです」
「…そう…? しかし、助かったよ…? ありがとう」
首をゆるく傾げ、久しくあたたかく微笑むユンファ様は、「それに」と――自分の座る寝台の上、腿の隣に置いていた毛糸玉を手に取っては、それを大事そうに両手で包み持つ。
その姿は、あの夜――真っ赤な林檎を、そうして手にしていたユンファ様の姿と、いやに重なる。
「…この毛糸、本当にとても美しい色だね…。なんて色…?」
「…あぁ…いわく、孔雀青…というそうです」
「へえ、孔雀青か…、ソンジュの目の色に、そっくりだ……」
ふわりと、そのやや緑がかった青の毛糸玉を見下ろして微笑むユンファ様に――俺は、ぽうっと見惚れている。
いや、別に俺は、己の瞳の色の毛糸を選んできたつもりはなかった。…ただユンファ様の言い付け通り、手芸店に入って一番初めに目に付いた、この青い毛糸を買ってきた俺だが。――その実、俺が一番美しく見えた色の毛糸を、とも言われていたために俺は、ユンファ様の目の色によく似た薄紫色とも悩んだのだ。
しかし――もし本当に、ジャスル様へ贈るつもりだというのなら、彼の目の色に似た色の首巻きをその人が受け取る…というのがどうも、俺は癪であったのだ。
そうして俺は、この孔雀青という珍しい色の毛糸を買って帰った――。
「…なんて綺麗な色なんだろう…、本当に、とても美しい青色だ……」
「…お気に召していただけたようならば、何よりでございます」
ユンファ様は、その毛糸玉をうっとりと見下ろしたままに再度「ありがとう」と口の中で言うが、…はたと俺を見下ろしてくるその薄紫色の瞳は、どこか不安げである。
「……しかし…何分初めて挑戦するものだから、…これほど綺麗な毛糸でも、編みが拙かったら、意味がないね…」
「…はは…いえ、そう心配なさらずとも、ユンファ様ならばきっと、上等な首巻きができますよ。…それに、手作りのものは格好よりも気持ちだと、よくいうものです。――ユンファ様が一生懸命に作った首巻きなら、…贈られた者はきっと、大喜びなさるに違いない。」
ジャスル様、とはいよいよ言えず、俺が安心させようとそう言えば、ユンファ様は随分久しく――ぱっと目を明るく輝かせ、頬を少し桃色に染めて、熱っぽく見てくるその薄紫色の瞳は、俺に問う。
「…本当…? 頑張って作れば、どんな不格好なものでも、本当に喜んでくれるだろうか……」
「……ええ、必ず。」
するとにこっと笑ったユンファ様は、手に持つ毛糸玉を見下ろし――本当に久しく、人の顔で微笑む。
「…そう、なら…僕、頑張ってみるね……」
「…はい。陰ながら、応援しております」
そう笑うユンファ様が――本当に愛おしい。
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