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117 淡い月明かりの下でだけ
しおりを挟む見事に真ん丸くなり、青みを帯びた光を放つその満月が、星々輝く暗い群青色の夜空、その空の真上に登っても――いまだ誰も、この部屋に訪れることはなかった。…ジャスル様も、このくらいの時間となればおそらく、他の誰かしらを抱いているに違いない。
「…月が綺麗だ……」
「ええ。本当に」
俺とユンファ様は、大きな窓のほう――寝台に腰掛けて並び、ただその丸く、うっすらと青い月を見上げていた。
――この甘い時間は、あの月が白んで消えるそのころに、ふわりとまた、たち消えてしまうものなのだろうか。
「…………」
「…………」
しかし、いざとなるとどうも、何を話したらよいのやら……ユンファ様と、あれほど話したい、目を見つめたいと願っていた俺だが――いざとなると言葉がなく、また、その人の目を見つめることもしていない。
いや、もちろんいまだそのようにしたいとは思っているのだが、にわかにそれらをしたところで、どうも思い通りの展開とはいえぬのだ。
まあ…今は、そうだな…――。
ある意味では蜜月の時、俺は――さりげなく隣の、ユンファ様の腰を抱いてみる。
「………、…」
すると彼は、わずかにく、と喉を鳴らして、しゃんと真っ直ぐに伸ばしているその背、体を強張らせた。――ユンファ様の腰をするりと撫でる。…もちろん俺は、その行為に淫らな意図を含めたつもりはないが、…すり。
見ればユンファ様はそれだけで、一度薄水色の布の下、膝を擦り合わせ――口布を外したその人の横顔は、目線を伏せているが、その頬がうっすらと色付いている。
「…………」
「……、…」
なんと可愛らしい…――。
ついムクリともたげる俺の下心は、するする…ユンファ様の腰から、あばらのほうへと上る手に示される。
は…と短く淡い息を吐き、ぴくんとした彼は、…きゅっと目を瞑り。
とす…――と、俺の肩に、その頭を預けてきた。
「……、…、…」
「……、…、…」
ドキドキ、ドキドキと胸が逸る。
顔をうす赤くしたユンファ様の、その思い切ったらしい切ない表情。――耳の奥でドクドクと血管が、俺の心臓につられて速く脈打っている――あわやユンファ様にも、俺の心臓の音が聞こえてしまっていやしないか。
俺のふわふわとした手は、…俺の肩にもたれてきたユンファ様の、その頭をそっと撫でる。――ふわ…ふわ…と、優しく撫でてやると、彼はすり、と俺の肩に頭を擦り付け、…はぁ……とため息を吐く。
「……君が…好き……」
あまりにも小さな声であった。
泣きそうな声にも聞こえた。
「……俺も、好きです…ユンファ様……」
俺の声も、あまりにも小さかった。
俺も少し、泣きそうであった。
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