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115 秘めていた夢の宝物
しおりを挟む俺だけが、自由になれる方法…――。
「……そんなもの、ありませぬ。」
俺は我ながらムッとして、そう返答した。
俺のその厳しい答えに、ユンファ様は静かに息を呑んだ。――俺はユンファ様の、その悲しげな目を見つめる。
「…ユンファ様、誤解でございます。俺はいまだ、貴方様を心の底からお慕いしておりますが――しかし、以前俺のモノが反応しなかったのは、ジャスル様への憎悪がまさったというだけのこと……」
「……、…でも…」
「…でもじゃありませぬ。その勘違いは致し方ないことかと、しかし――俺は、貴方様をいまだ慕っているからこそ、せめて少しだけでもユンファ様に笑ってほしいと、花を摘んで帰っては、貴方様に贈っているのです。…あんなものでも、貴方様のささやかな幸せになればよいなと……」
俺はもうこれ以上はユンファ様に言わせず、むしろこれまでに思っていたことを彼に伝える。
「…それに…俺は先ほども、ユンファ様に見惚れておりました。お食事をしている姿さえも愛おしく、本当にユンファ様はお美しいと。…貴方様は、あわやもうご自分が穢れきったと思われているのだろうが、その実…ユンファ様は、全く穢れてなどおりませぬ。」
「………、…」
ユンファ様は俺の目から、その薄紫色の瞳を逸らすようなことはしなかった。――なぜか、少し怯えたような目をしていながらもなぜか、もう目を伏せたりはしない。
あるいはもはや、目を逸らすこともできないのかもしれぬ。…俺があまりにも真剣に、キッと目元に力を込めて、その人の双眼を見つめているから、か。
「…俺の目にはいつも、ユンファ様は、とても清らかで美しい胡蝶に見えております故。…あまたの男に抱かれているからといって、一体何なのです。――馬鹿にしないでくれ。狼である俺の愛は、そんなこと程度で揺らぐような、そんなちんけなものでは決してありませぬ。」
「…………」
ユンファ様は、その瞳をくらくらと小さく揺らして俺を見てくる。――かあっと薄桃に色付いた、その白い頬。…泣きそうな顔をしている彼は、その切れ長の白いまぶたをひくひくさせている。
「…何より、いまだ高潔であるからこそ、魂が清らかなままであるからこそユンファ様は、俺にはもう、とても触れてはもらえぬと考えられたのです。――貴方様はいまもなお、誰よりも無垢で純粋なお心をお持ちなのだ。しかし俺こそが、自分はもう取り返しのつかぬほど穢れたなどと貴方様に思われては、俺こそがとても悲しい……」
「………、…」
俺が悲しいと言えば、ユンファ様もまた悲しげに少しその端正な眉の根を寄せて、申し訳なさそうな目をする。
「…誰に、何人に、どのように抱かれようとも、ユンファ様のお体とて、決して穢れてなどおりませぬ。いつも、貴方様はいつも本当にお美しい。――叶うならば俺は、今すぐにでも貴方様を抱き締め、口付け、抱きたいくらいでございます。」
「……ソンジュ…、…」
俺の名をかすかな声で呼ぶユンファ様に、俺はかあっと三角の耳の先まで熱くして、…あまりにも、本気で。
「…俺だけが自由になる方法など、あるはずがない。――ユンファ様がお望みならば、俺は今すぐにだって、貴方様を攫って共に逃げましょう。……俺が自由になる方法は、必ず俺たち二人、共に在る方法しか、ありませぬ。」
「………、…」
ユンファ様は、するとじんわり潤ませた目元まで少し桃色を差して、それから腿の上に両手を重ねて置き、顔を伏せ――その伏せ気味な切れ長のまぶた、黒々としたまつ毛の先端に、柔らかな愛おしさを宿している。
「……どうしよう、…嬉しくて、泣きそうだ……」
「…ユンファ様、俺は本気です。」
「……うん…、ソンジュ、本当に…伝えておきたいことがあるんだ。…本当は僕…君がくれる、見たこともない花たちが、僕は本当に、可愛くて仕方がないんだ……」
はぁ…とそこでため息を吐き、ユンファ様はしみじみと薄桃色に染まったまぶたを閉ざした。――しかし半透明の口布の下、その唇は、笑みを浮かべている。
「…ソンジュがくれるからと思うと、あの小さな花たちが、君からの贈り物だと思うと…枯れた花も捨てられなくて、嬉しくて、仕方がなくて……――本当はね、全部取ってある…。本当はずっと…僕も、ソンジュのことを慕い続けていたんだ……」
「……、はは……」
いや、…ユンファ様…本当にこっそりと、俺にバレぬようにあの小花たちを机の引き出しに入れていたつもりだったのか。…なんと可愛らしい。――正直全部知っていたが、…好いた人にこう言われて、嬉しくないはずがない。
ふる、と小さく顔を横に振ったユンファ様は、目線を伏せたまま――儚げな美しい横顔で。
「…ソンジュはいつも、僕に幸せをくれる…、どうしたら僕は、君を幸せにできるのだろう…? いつもそう考えているけれど、…いつも…どうしたらいいか、わからない……」
「…………」
俺は、ユンファ様の腿の上で重ねられたその白く大きな手の甲に、片手のひらをそっと重ねた。
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