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100 残酷な媚態

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 身を清め――ジャスル様の部屋に訪れた俺たちに、三人は寝そべることのできそうな寝台の上、全裸でふんぞり返っていたジャスル様は、…部屋の扉の前に立つ俺たちを見るなり、その目を鋭くしてムッとした。
 
「……随分遅かったのぉ…」
 
「…申し訳ありません、ジャスル様…――気を失っていた僕を、このソンジュが介抱してくれていたのです」
 
 俺が口を開く前にそう頭を下げたユンファ様は今、部屋に用意されていた初夜の衣装――また肩口までのえり、白に青い半衿、肌襦袢は薄桃に透けているもの、赤い帯留めの下、青い帯から下は両方に深い切れ込みが入り、袂が床につくほど長い着物――を着ている。
 部屋に待ち構えていた下女が、彼にそれを着せたのだ。…ちなみに、浴室での俺たちの、あの会話をその女に聞かれたということはないだろう。――風呂から上がってすぐ、その下女がユンファ様の部屋へと訪れたからだ。
 
 また薄化粧を施され、髪を念入りに梳かされて、再び生花の、薄桃の牡丹の髪飾りで髪を纏め――彼のうなじ辺りに咲く牡丹は、芳しい香りを放っている。
 
「…介抱、なあ……」
 
 全裸では勃起も丸出しに、なんならソレをまさぐってユンファ様を待っていたらしいジャスル様は、懐疑的にそう呟きながら寝台から下り――俺たちの元へ、ドスドスと歩いて来る。
 
「…ソンジュよ…、まさかとは思うが、お前もまたこのユンファの、にやられたか?」
 
「……まさか…」
 
 否定はしておくが。
 その実、今にも俺はこのジャスルを切り捨てて、ユンファ様の手を取り逃げたい衝動に駆られている。――しかし、俺の隣でユンファ様が、冷静な声を出すのだ。
 
「…あり得ません。このソンジュ…、僕の体を見ても、体に触れても…終始嫌そうに眉を顰めておりました。――それどころかこの淫売めと、呟かれたくらいでございます。」
 
「…んん…?」
 
 ユンファ様のその言葉に、ジャスル様がニヤリとして彼に振り返る。――目の前に立つその人の鋭い眼で見据えられても、ユンファ様は冷静な真顔を崩すことはなく、やけに落ち着き払っていた。
 
「…なんじゃ…随分とこのソンジュを庇うのだなぁ、ユンファよ……」
 
「…庇っているわけでは…あくまでも事実を申し上げたまででございます、ジャスル様……」
 
「…………」
 
 ユンファ様は、確実に俺を庇っている。
 しかし、それを悟られぬようにか、淡々とした声でそう。――ただわずか、その人の声は震えている。
 
 それでも訝しむジャスル様に――ユンファ様は、
 
「…どうも怪しいのぉ…、…んむっ」
 
 ユンファ様は、…疑わしげに俺へ目を転じたジャスル様の、その太いうなじに両腕を回して抱き着き、――ぐっとその赤い唇を、ジャスルその人の口に押し当てた。
 
「……、…、…」
 
 俺は喉元まで上り詰めてくる熱い嫉妬心に、息を止める。
 
 はむ、はむと積極的にジャスル様の唇を食むユンファ様、それどころか…ユンファ様の白い片手はするするとジャスル様の肥えた上体を撫で下げてゆき、…反り返り勃つモノに触れ、握り、ソレをゆるく扱きはじめ――唇を離しただけの距離で、ユンファ様はそっと。
 
「…どうでもよいではないですか…? あんな下男のことなど、どうでも…。…そんなことより、もう体が熱くてたまりませんジャスル様……早く、僕を抱いてくださいませ…。たくさん愛してくださると言われて――僕、とても楽しみにしておりました……」
 
 そう…微笑みかけ――かあっと頬を染めたユンファ様は、恥ずかしそうに俯きながらも…するりと自分から、その着物の衿を開けてゆく。
 
「…僕の子壺が、旦那様の子種を、…求め…疼いているのです……、まだ足りないと…まだまだ、貴方様の子種が欲しいと……」
 
「…ぐふふ…、ほお…? 可愛いことを言うじゃないか、ユンファ……」
 
 単純だが――するとジャスル様は、ユンファ様のその媚態に、すっかり機嫌を直した。
 そしてねっとりとユンファ様の顔を見下ろし、その人の尻を撫でては――また彼に口付ける。
 
「………、…」
 
 俺を庇うため――ユンファ様は、ジャスル様に接吻をした。…そうして身を呈してまで、俺を庇ったのだと、俺は理解している。
 現にユンファ様は今も、悲しげに眉を顰め、それでもその口吸いに懸命に応じているのだ――。
 
 
「……では、俺は外で見張りを…――。」
 
 頭を深く下げつつそう固い声で告げ、俺は踵を返した。
 もう二人の世界に入り込んでいるジャスル様からは、しかしなんの返答もなく――「さあおいでユンファ、たっぷり可愛がってやろう」と、ユンファ様に囁いているだけであった。
 
 
 
 俺のための媚態とはわかっていても――激しく湧き上がってくる殺意が、俺の体をざわめかせ、武者震いさせて、攻め立てる。
 
 
 
 
 
 
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