94 / 163
94 涎を垂らした獣ども
しおりを挟むジャスル様が席を立つと、一気にこの宴会場の空気が変わった――。
あわよくばユンファ様に触れようと、いや…――ユンファ様を犯そうとにじり寄る男どもは、まるで腹を空かせて涎を垂らしている獣だ。
俺はすかさずその人へ歩み寄り、せめて、彼が身に纏っていた白い着物をその体へ掛けてやった。――そして上体を抱き起こせば、ユンファ様はやっと、俺を見た。
「……、…、…」
涙に濡れたその薄紫色の瞳が、ぼやけながらもじっと俺を見上げている。――しかし俺には、その絶望した瞳を見続けられるほどの強い精神がなかった。
つい目線を伏せて逸らし、俯くように――ユンファ様の硬い膝裏をさらって抱き上げ、すぐさま立ち上がる。
すると…――。
「…なあソンジュよ……」
「……、…なんだ。」
俺の側に寄ってきた下男の一人が、ニヤつきながら俺に声をかけてくる。――こう反問せずとも、その要件こそ俺は、察しているが。
「その人を風呂に入れるのは、もうちっとあとじゃダメかい…」
「ほんのちょっと触れたいんだよ、いいだろう、なあ…」
「…何なら俺が風呂係を代わってやろう、どうだ…、面倒だろう? こんな淫売、この淫乱めと嫌がっていたじゃないか、お前。触れたくもないのが、正直なところなんじゃないのか…?」
「……っ」
キッと俺がその男たちを睨むよう一瞥すれば、その男どもは一瞬怯んだが――結果あまり効力もなく――「独り占めか」「お前だけ御相伴に預かろうってんだろ」と俺は、ぶーぶー責め立てられる。
「…俺はお前らのように低俗ではない。狼であればこそ、主人の命を破るようなことは絶対にしないのだ。この痴れ者どもめ……」
なんてな、と俺はその実、心の中で舌を出している。
「たとえ指一本でもこの人に触れてみろ、たちまちその指、切り落としてくれよう。」
俺はそう低く言い切ってから、さっさと此処を去ろうと歩き出す。
すると後ろから「狼でなく犬ではないか」「これだから堅物は、頭が固いなぁ」「お前の妻に言いつけてやろうか」などとざわざわ、俺への悔しげな揶揄が聞こえていたが――俺はもちろん無視をして、歩みを止めない。
口先だけなら何とでも言える。
どうせ俺に力で敵うものなど此処にはいない。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

BL短編まとめ(甘い話多め)
白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。
主に10000文字前後のお話が多いです。
性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。
性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。
(※性的描写のないものは各話上部に書いています)
もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。
その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。
【不定期更新】
※性的描写を含む話には「※」がついています。
※投稿日時が前後する場合もあります。
※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
■追記
R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます)
誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。





ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる