胡蝶の夢に耽溺す【完結】

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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24 お伽噺を紐解けば

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 狼族と、蝶族の文化はよく似ている――。
 それがなぜなのか、というのは、つまり――以前は共に暮らしていた狼族と蝶族であるからこそ、俺たち両種族の文化は、よく似ているのだろう。
 
 そもそも狼の里にも、狼族と蝶族が共に暮らしていた、という文献が残っていた。――まあとはいえそれは、かなり大昔のことではあるらしいのだが。…それこそあの狼の里を、狼族が築き上げるよりもずっと前の話だそうだ。
 
 しかし、その両種族が共に暮らしていた頃よりの文化は、いまだ狼の里にも残っている。…同性同士の婚姻が可能であることなんかもそうだが、何よりも、そう…あのお伽噺の存在――。
 
 俺は小さなころから、もう耳にタコというほどあのお伽噺を聞かされた。――するともうすっかり、今やあの物語の内容を丸暗記しているくらいだ。…しかし、大人になって思い返してみればあのお伽噺も、どこか歴史を物語調にして記した内容のようにも思えるのだが。
 
 今のこの暇な時間に暇潰し、ちょっとばかり紐解いてみようか――。
 
 あのお伽噺――『秋の満月喜んで』、『月が微笑む』等、月に感情表情を用いている部分がある。
 この月を仮に、その時代の権力者だとすると――その権力者に寵愛されていた美しい蝶族たちは、中秋の名月の祝宴か何かに招かれて、その人の前、華麗な舞いを踊った。…するとその権力者は、彼らの舞いをいたく気に入り、喜んだ。
 
 が、しかしそれがいよいよ引き金となり、もともと蝶族への迫害意識の強かった他種族に、強く嫉妬され――その結果迫害され、蝶族たちは、住んでいた場所をその者たちに追われた。
 そうして追われ、逃げている中――満月の夜に、人狼となっていた狼族(たち?)と出会い、狼族は、蝶族を攻撃している他種族を追い払ってやった。
 
 そして、それをきっかけにして、両種族は共に暮らすようになった。――協力しあい、お互いの長所短所を埋め合わせ寄り添いながら、仲睦まじく暮らすようになったのだ。
 
 付け加えれば、寵愛されて権力者の元にいた蝶族たち、つまりその時代の王都的な場所にいた彼らは、その時代最先端の生活の知恵があったか。――しかし狼は『寂しく』とあるので、その場所から離れた未開の地に暮らしており、いわば蝶族たちが来る前の狼族は、時代遅れな生活でもしていたか。
 そんな狼たちに、蝶たちはさまざまな生活の知恵を授けた、のかもしれない。
 
 また、共に暮らしていたころの両種族は、それこそ狼は蝶としかつがわず、また蝶も狼としかつがわない関係性であった、とも読み取れる内容がある。――『それきり狼、男も女も、どちらも持った蝶々とだけつがうそうだ。――蝶々もまたそれっきり、強くて優しい狼のそばでしか、可愛い卵を生まぬそうだ。』――蝶々…すなわち両性具有である蝶族たちと、狼族の男女がつがえば、どちらにせよ子を成すことができた。
 
 しかしなぜ両種族が、お互いしか求め合わなかったのか、というところまでは、これじゃわからないが――まあおそらく、肉体がどうこうという以前に、狼は蝶を、蝶は狼を強く求めて然るべき、狼と蝶がつがい合うことこそがいわば当然、それこそが自然の摂理だ、神がそう仕組んだのだから、というような風習が、共に暮らしてゆくうち、両種族間に生まれていったのやもしれない。
 
 そして、元の場所では疎ましがられていた蝶族たちは、卵…つまり子を生みだすにしても、気が気じゃない環境であったが――狼族と共に暮らすようになってからは、力の強い狼に守られている状態に安心して、短命ながらもたくさんの子孫を生み出せるようになった。――『たくさん卵を生むけれど、蝶は長くは生きられぬ。』
 またちなみに、とあるために蝶族ばかりが妊娠し、出産しているように思えなくもないが――しかしおそらくは単純に、産む、ではなく、生む。…すなわちあの表現は単に、世に子どもを生み出す、という意味合いだと思われる。…でなければその前の文章に、、とはつけないはずだ。
 
 これを簡単にいえばおそらく、男にしろ女にしろ自分を守ってくれる狼族としか、蝶族は子作りをしなかった――ということなんじゃないだろうか。
 
 そうしてお互いの利害が一致し、いや…それどころか出逢う前より、よっぽど豊かに暮らせるようになった狼族と蝶族は、確かに――出逢うべくして出逢った、…いわば、神が出逢わせた種族たちだったのかもしれない。
 
 
 
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