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20 帰れぬ故郷を思い煩う
しおりを挟む人生を売り渡したかのような、好きでもない女との、婚姻。――しかし、もうどうでもよい。それでもあの妻、一応は俺の役に立っている。
「………、…」
もう帰れぬのだ…、だから、どうでもよい。
俺の生まれ故郷――狼の里は、ユンファ殿ご出身の五蝶の国同様、閉鎖的な部落であった。…国ではないが、ノージェスでもなく…どこかしらの国にも属さず。
あたりは一面雪原、雪山に囲まれ、夏にも雪は溶け切らず、しかし狼族は…であるからこそ、他種族にとっては過酷たる大雪と山に守られ、豊かな一族を築きあげた。
雪ばかりの里ではあるが、暖房技術が発達し、建物の中は汗をかくほどにあたたかいのだ。…それに、雪ばかりの極寒の地ではあるが、その極寒に適応した動物も多くおり、むしろノージェスにいる動物たちよりも体が大きく屈強で、食えるところも多く、毛皮も豊かであたたかい。…まず飯にも困らず、何より――石油など、資源にも恵まれた地域であった。
「………、…」
しかし懐かしむにも、俺には苦しい思いがある。
およそ三年前…――その狼の里の資源を漁りに、軍隊を率いたジャスル・ヌン・モンスによって、侵略されるまでは。
俺も、…そこで、その狼の里で、暮らしていたのだ。
そうだ。
ユンファ殿と俺は、奇しくも境遇がよく似ている。
しかし、五蝶の国とは大きく違う点が一つある。――俺たち狼族は、その侵略行為に抗い、戦った。
結果…ノージェスの軍隊は、慣れぬ極寒の入り組んだ地、そして俺たち狼族の、人間よりもよほど優れた身体能力、何よりも強固な結束力によって、あっさり打ち負かされ――ノージェスの軍は負け犬のごとく撤退してゆき、俺たちは勝利を収めた。
かのように思っていた、矢先のことであった。
その戦を終えた数日後――寝静まった里の家々に、不意に火を付けられた。
極寒の地、むしろ無ければ死ぬ、という理由から暖房器具が多い狼の里の民家には、家の中にも外にも油や、あるいは着火剤となるものがしこたまにあり、ましてや木造の家々は雪の中でもよく燃え、悪ければ家ごと爆発した。
さらに、まだ中に人がいる建物を、爆弾で壊され――慌てて家の外に逃げ出してきた狼たちは、寝間着姿のまま銃で撃たれて、…あんなに白かった雪は、またたく間に赤黒く汚れていった。
――里中が、阿鼻叫喚の有り様であった。
そんな中、狼の長の家へと訪れたジャスルに――。
“「もうやめてくれ。貴方の要求は呑みまする。何とぞ」”
最後まで戦おうとする狼たちを尻目に、狼の長はそう頭を下げ、ニヤつくジャスルに降伏を告げたのだ――。
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