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第二部 プロローグ アランと志鶴の日常
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海翔さんと離婚が成立した日、俺と志鶴は同棲することにした。というより海翔さんと同居していたので同棲しないと住む家がないという現実的な事情もあってのことだ。
「では、先に行きますので。朝ご飯は残さず食べてくださいね」
ローヒールの靴に足を入れながら、志鶴が心配そうな顔で言う。そんな彼女の額にキスすると、まだ剃っていないヒゲが当たってしまう。志鶴はそんなのを気にするでもなく、荷物の確認をしている。
「作ったの俺だけどね。そっちこそ男どもが時々やらしい目で見てる時あるから、気を付けて」
「え? そうなんですか? そんな気はしませんけど」
嘘は言っていない。志鶴は俺と付き合うようになってから一層華やかになった気がする。海翔さんと暮らしている時は意識して地味にしていたのかもしれない。日陰に隠れていないといけないと自分で自分を抑え込んだり…
その違いに気づいた目ざとい男子学生がヤりたそうな目で見ているのを、俺は何度か防いでいる。視線でさえ俺の大事な志鶴が汚されるようでいやだったから。
「電車に遅れるから急いで」
「あ! 大変です。おひげはきれいにした方が良いですよ。イメージもあることですし。それじゃ行ってきますね」
そんなことを言って俺を引き寄せ、頬に触れるだけのキスをすると、志鶴はローヒールの音も高らかに鳴らして出ていく。
「随分と積極的になったよなあ」
そんな成長まで嬉しくて。朝から顔が緩んで仕方ない。少し面倒だけど、言われたとおりにヒゲをきれいに剃ってから、少し冷えた朝飯を食う。
和食は志鶴担当で、俺は洋食担当。で、今日は洋食の日ということで朝から俺は志鶴の為に朝飯を作ったというわけで。
チーズトーストにハムエッグとほうれん草のソテー、カフェオレとコンソメスープとオーソドックスなカフェメニューだけど、志鶴は気に入ってくれた。俺は物足りないからクロックマダムにしたい所だけど、志鶴が食べきれない。
「半分にすればいけなくもないか…?」
まだ眠気の残る頭でそんなことを呟いて、明後日あたりに俺の当番が来るからやってみようと考える。
志鶴は食が細く、大学の仕事に俺と海翔さんの通訳の仕事までしているので忙しい。あっという間に昼食をカロリーメイトで終わらせたりしてしまう。食べるのが嫌いというより、食べること以上に今の仕事が楽しいらしい。
「俺はいつ辞めてくれてもいいと思ってるけど、楽しいならそれはそれで応援しないといけないよな」
少し複雑な気分で言い聞かせる。専業主婦になってくれてもいいけれど、それをやるには俺自身も忙しくなりすぎた。ハリウッドデビュー以降、大学でもすっかり有名人になってしまったからだ。
こんな調子では二人の時間が欲しければ、いつぞやのように仕事に同行してもらう方が効率がいい。大学へ行く時も時間をずらして別々に行った方がいい。まあ、俺はあと何か月かで卒業してしまうけれど。
その後は本格的に俳優業に専念というわけで。意識してプライベートの時間を持たないとすれ違い生活になってしまいそうだ。
「志鶴にも言っておくかな。俺のスケジュールは把握してくれてるから大丈夫とは思うけれど」
食べ終わった食器二人分を食器洗浄機に突っ込みながら、そんなことをこぼす。これからは少しずつ忙しさを極めていく。意識して互いのスケジュールのすり合わせをしなければいけない。
…多分、海翔さんの一番の失敗はそこだと思うから。そして、海翔さんは今もあきらめていないんだ。志鶴との復縁を。あの家の鍵はいつ帰ってきてもいいというサインだ。志鶴もそれを分かっている。
「よし! 今日も俺は負けないってことを示しに行くか!」
気合を入れなおして、私服を選ぶ。パーカーにジーンズが基本だけど、今日はジャケットでキメてしまおうかな。志鶴は普段通りに地味な格好で来ると思ってるだろうし、こういう小さな驚きは必要だ。
「では、先に行きますので。朝ご飯は残さず食べてくださいね」
ローヒールの靴に足を入れながら、志鶴が心配そうな顔で言う。そんな彼女の額にキスすると、まだ剃っていないヒゲが当たってしまう。志鶴はそんなのを気にするでもなく、荷物の確認をしている。
「作ったの俺だけどね。そっちこそ男どもが時々やらしい目で見てる時あるから、気を付けて」
「え? そうなんですか? そんな気はしませんけど」
嘘は言っていない。志鶴は俺と付き合うようになってから一層華やかになった気がする。海翔さんと暮らしている時は意識して地味にしていたのかもしれない。日陰に隠れていないといけないと自分で自分を抑え込んだり…
その違いに気づいた目ざとい男子学生がヤりたそうな目で見ているのを、俺は何度か防いでいる。視線でさえ俺の大事な志鶴が汚されるようでいやだったから。
「電車に遅れるから急いで」
「あ! 大変です。おひげはきれいにした方が良いですよ。イメージもあることですし。それじゃ行ってきますね」
そんなことを言って俺を引き寄せ、頬に触れるだけのキスをすると、志鶴はローヒールの音も高らかに鳴らして出ていく。
「随分と積極的になったよなあ」
そんな成長まで嬉しくて。朝から顔が緩んで仕方ない。少し面倒だけど、言われたとおりにヒゲをきれいに剃ってから、少し冷えた朝飯を食う。
和食は志鶴担当で、俺は洋食担当。で、今日は洋食の日ということで朝から俺は志鶴の為に朝飯を作ったというわけで。
チーズトーストにハムエッグとほうれん草のソテー、カフェオレとコンソメスープとオーソドックスなカフェメニューだけど、志鶴は気に入ってくれた。俺は物足りないからクロックマダムにしたい所だけど、志鶴が食べきれない。
「半分にすればいけなくもないか…?」
まだ眠気の残る頭でそんなことを呟いて、明後日あたりに俺の当番が来るからやってみようと考える。
志鶴は食が細く、大学の仕事に俺と海翔さんの通訳の仕事までしているので忙しい。あっという間に昼食をカロリーメイトで終わらせたりしてしまう。食べるのが嫌いというより、食べること以上に今の仕事が楽しいらしい。
「俺はいつ辞めてくれてもいいと思ってるけど、楽しいならそれはそれで応援しないといけないよな」
少し複雑な気分で言い聞かせる。専業主婦になってくれてもいいけれど、それをやるには俺自身も忙しくなりすぎた。ハリウッドデビュー以降、大学でもすっかり有名人になってしまったからだ。
こんな調子では二人の時間が欲しければ、いつぞやのように仕事に同行してもらう方が効率がいい。大学へ行く時も時間をずらして別々に行った方がいい。まあ、俺はあと何か月かで卒業してしまうけれど。
その後は本格的に俳優業に専念というわけで。意識してプライベートの時間を持たないとすれ違い生活になってしまいそうだ。
「志鶴にも言っておくかな。俺のスケジュールは把握してくれてるから大丈夫とは思うけれど」
食べ終わった食器二人分を食器洗浄機に突っ込みながら、そんなことをこぼす。これからは少しずつ忙しさを極めていく。意識して互いのスケジュールのすり合わせをしなければいけない。
…多分、海翔さんの一番の失敗はそこだと思うから。そして、海翔さんは今もあきらめていないんだ。志鶴との復縁を。あの家の鍵はいつ帰ってきてもいいというサインだ。志鶴もそれを分かっている。
「よし! 今日も俺は負けないってことを示しに行くか!」
気合を入れなおして、私服を選ぶ。パーカーにジーンズが基本だけど、今日はジャケットでキメてしまおうかな。志鶴は普段通りに地味な格好で来ると思ってるだろうし、こういう小さな驚きは必要だ。
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