ボディシェア 美貌のすべては金になる世界で醜く生まれた私はイケメンと三角関係！？

第一部 エピローグ 離別を選んだ夫婦と新しい門出

過酷を極めた撮影が終わり、帰国して間もなく海翔さんと志鶴は離婚届を提出した。それも二人で。マスコミには完全に隠された結婚だったからか、離婚する時もひどく静かなものだった。

「志鶴、俺達の家の鍵は持ってるな？」

「持ってますよ。もう他人になるのに複雑です」

「いいんだよ。もう一度友達から始めるって決めたんだから」

役所からの帰り道、迎えに来た俺の前で元夫婦が仲良くしているのは非常に嫉妬心が疼く。だけど、本当にこれでよかったのか？と思わなくもない。それでも俺は志鶴が欲しくてならなくて、恋焦がれたのも事実だ。

その罪は永劫に俺が背負う。志鶴は分かち合いたいと言ったけれど、きっかけを作ったのは俺だ。それなら、俺がその罪を背負う。

「通訳の仕事、頼むぞ。俺の方で英会話の訓練はしておくけど、記者会見となるとまだまだお手上げだからな」

そんなことを言いながら見せつけるように髪を梳いて唇を寄せる。…おいおい。それはどうよ？　そう思ったけれどイライラするのもくやしくて、どうしたらいいのか悩ましい。

「スケジュールに変更なしなら連れて帰りたいんだけどなあ。海翔さん」

「これから同じ所に行くんだから、もう少しいいだろう」

そう言いながら見せつけるように額へ触れるか否かキスをする。イライラするのも悔しいのは海翔さんに悪意がないことと、志鶴が全く気にしていないことだ。

「知ってる！　志鶴、俺の通訳も頼んだよ」

そっちがそうならと、俺も志鶴の腰に腕を回して言う。海翔さんが見せつけていたことは全く気付いていなかったんだろう。あっさり頷く。海翔さんもどう思っているんだろう。別に悔しがるでもない。

「そうそう、その調子で頑張ってくれよ～。新人のアランくん」

なんて、俺をからかう余裕まである。…大人だなあ！　俺はどうやってこの人から妻を奪ったのか。今では不思議になるくらいだ。いつも必死になっていた気はするのに。

「お迎えに参りました。そろそろ時間ですよ～。アランさん」

マネージャーの乗ってきワゴン車の後ろに並んで座ると、キスを交わす。志鶴は俺を選んでくれた。奪われることも罪だと言って。だけど、きっかけを作ったのは俺だ。間違いなく。

そんな罪深い俺に、海翔さんは隙を作った俺が一番悪いんだと笑った。志鶴はどこまでも優しく穏やかで、海翔さんはやはり器の大きな大人の男で…　俺はそんな二人を引き裂いてでも奪いたがるクソガキでしかなかった。

…海翔さんの言うとおり、いつか俺と志鶴の関係も限界が来るかもしれない。その日までに俺は成長していたい。その自信もあるから。

「部屋の鍵が必要ないってことを、俺は証明し続けないとなあ！」

「はい。使わせないことを信じていますよ。アラン」

「まずは婚約会見できるように稼ぎまくるよ。だけど、デートもする。結婚式もしたいしさ」

二人で他愛ないことを語り合う。今日食うメシのこととか、家事の分担にデートで着ていく服のことまで…

「そうだ！　あなたのことを監督が気に入ったんだ。田舎町で撮ったやつの続編やるって言うし。また行こう。今度はホテルだけどさ」

「十分ですよ。アラン、あなたとの別荘暮らしも素敵でしたけど、私はどこでだって構いません」

寛いだ顔で志鶴が笑う。

俺達はこれでいい。こんな風に笑うあえる人がほしかった。ずっと孤独を分かち合える誰かが欲しかった。いつか限界というやつが来るとしても、奪ったものの報いが来るとしても…

それでも、その日までに成長している自信はあるから。きっとそれでいいんだ。いろんなものは変わっていく。俺も変わっていくし、志鶴も変わる。そうやって互いの変化を認め合えたら、きっと今よりもっと違う関係が築けるはずだ。

その時までに超えたい人ができた。…必ず海翔さんを超えてみせると、俺は心に誓っていた。


その後の記者会見に包丁を持った亜理紗さんが乱入し、俺を殺そうとしたことを付け加える。ひどく酔っぱらっていたことでまともに動けず、俺を狙う前に警備員によってあっさり捕まった。

その後、あれだけ好き勝手しても黙認していた夫から離婚を言い渡されたこととアルコール依存症であることが報道され、事実上の芸能界追放ということで終わった。

あの人はこのまま落ちぶれていくんだろう。もうこれまで通りに指先一つで何もかも動かせる生活が送れなくなるんだ。…牢屋の中で何を思っているんだろうと考えたけど、どうでもいいことだった。