27 / 27
魔王の始まり
しおりを挟む3人は冒険者ギルドを出てシーヴァルを回収しつつ、宿屋に向かい以前の憲兵にした演技をかまし…それを食らった宿屋の店主は豪快に号泣しつつ
「大変だったなぁー、いい!好きなだけいろ!なに?宿代なんてあれだあれ、いつか支払ってくれりゃいいんだよ!子供なんだから大人に甘えとけ、な?」
ヒスイは店主をガン見して
だまされるなおっちゃん!そいつは魔王様以外は雑草としか思ってない吸血鬼だっ!!(※雑草どころか道端の石ころだと思ってます)
と、必死で訴えていたが…その視界はコハクによって遮られ失敗に終わる。
明らかにギルドでのことを根に持っているのだろう…。
「いえ、そんな悪いです…せめて今あるぶんだけでも払わせていただかないと。」
「しっかりもののにーちゃんじゃねーかよぉ…いいっていってるだろー」
と、言うように店主は純粋な好意からネメシス達はパフォーマンスとしてこの押し問答をしばらく繰り返し…結果店主の手伝いをするということで落ち着いた。
子供はもう寝る時間だと言われるまでネメシス達は店主の手伝いをすると、男三人部屋に集まり…
「なぁ魔王様、これからどうするんだ?」
「冒険者をしつつ魔王城を目指すんじゃないの?」
兄弟のそんな疑問に彼女は爆弾を投下する。
「明日、魔王城へ向けて徒歩以外の手段で行く。」
「馬車にでも乗るのか?」
「魔王様、僕…なんか嫌な予感がするだけど…気のせいだよね?」
うまく言えないけどなんかすごく嫌な予感がするとばかりにジト目を魔王に向けるが、彼女はもともとほとんど表情が変わらないので変化があまりわからない。
憲兵と店主には名演技だったことから表情を表に出せないわけではない。
ギルドではよく見ればわかる程度には雰囲気が出ていたが、今は特になんの表情も雰囲気もないので何を思っているのかわからない。
「馬車ではない…乗り心地は保証しないが安全は保証しよう。」
つまり安全以外は保証しないと…コハクはものすごく嫌な予感がする。
具体的に何が?と問われるとコハクにもわからないが…
「安全なら大丈夫だな!」
脳天気な兄に大丈夫なわけあるか!と言いたいが言ったところで無駄なため、思わず遠い目をしてしまうコハク…。
「それに…冒険者ごっこは面白そうだがめん…時間がかかるからな。」
((この人、明らかにめんどくさいって言おうとしたな。))
「では、私は使い魔をアグニールの元へ向かわせて知らせておきましょう。」
そう言ったシーヴァルは影から出てきたコウモリを窓から飛ばす。
多くのものが寝静まった深夜…宿屋の2階の窓からふわりと飛び立った人影は、屋根の上で星空を眺めていた。
そしてその人物の後ろには、いつの間にかもう一人…
「なぁ、シーヴァル…これから私は、多くの人間やそれ以外の尊厳や命そのものを立場も歳も関係なく奪っていく。」
後ろを振り向かずに、星を眺めながら語る彼女…
「えぇ…あの神のオーダーでもあり貴方様が望んでいたことでもあるのでしょう。」
表情があまり出ない彼女にしては珍しく、少し苦笑いがもれる。
自分の眷属はどうやら主のことをよく理解しているようだ。
「ふっ…そうだな、望んでいなければここにいないな。」
シーヴァルには彼女が気落ちしているように感じられた。
その理由はわからないが、彼女が言わないのならば聞かれたくないことなのだろう。
ネメシスは迷っているわけではない…正確には他者に何も感じていない。
平和な国で、死ぬ直前までは平凡な日常を過ごしていたのに…彼女はその世界で生まれ落ちたにもかかわらず、どこかおかしかった。
何が?と聞かれると本人もうまく言えないため、困る。
なんとか言葉にするならば、最初から人として必要な何かがかけているような?そんな感じ…こちらの世界に来る以前の話なので、そのことに神は関与していないだろう。
不安要素はある…だからといって何もしないという選択肢は彼女にはなかった。
前世は普通の社畜に過ぎなかった自分に神によって新たな人生を歩むことになった。いや、前世の記憶を覚えているのだから…一人の一生の延長と言えるだろう。
他者に対する“心”の欠落という大きな不安があるが、彼女はどこかワクワクもしている。
せっかくの新たな世界と生…
それに…神が魔王にしたのだ、間引くなり滅ぼすなりの指示以外は好きにしていいと…
彼女はどこかスッキリしたように答えを出す。”偽ること“をやめよう。
「なら、好きに自分勝手に…最低災厄な魔王になろうじゃないか。」
立ち上がり、両手を星空に向けて大きく広げ…薄っすらと桃色に色づいている美しく整った口元を子供の姿でありながらどこか妖艶に微笑む…
1
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
アルカナセイド【ARCANUM;SEDO】
臂りき
ファンタジー
現代日本から転生した人々の手により捻じ曲げられた異世界『アルカナ』。
転生者たちはアルカナの世界にて前世での鬱憤を晴らすかのように他種族の排除、支配を繰り返し続けた。
果ては世界そのものを意のままにするため、彼らは浮遊島を生み出し大地はおろか空の安寧をも脅かした。
幾千年もの後、前世で不遇の死を遂げた若者たちの中から強大な力を持つ者<権能者>が現れ始めた。
権能者たちは各々に前世での時代背景は違えど、人が人を支配する世界の在り方に強い不安や怒りを抱いていた。
やがて権能者の内の一人、後に「大賢者」と呼ばれることとなる少女と仲間たちの手によって浮遊島は崩落した。
大賢者は再び世界に悲しみが訪れぬよう崩落の難を免れた地上の人々に教えを説いた。
彼女の教えは数百年もの時を重ね『魔術信奉書』として編纂されるに至った。
しかし人と人との争いが尽きることはなかった。
故に権能者たちは、かつて世界に存在しなかった<魔物>を生み出し、人々の統制を図った。
大賢者と最も親交の深かった権能者の少女は自らを<魔王>と名乗り、魔の軍勢を率いて人々に対抗した。
権能者やその意志を継ぐ者たちはアルカナの世界に留まらず、やがて異世界にまで影響を与える存在<ネクロシグネチャー>として世界の安寧を求め続けた。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる