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初めての検問
しおりを挟む明日には街につくが、ネメシスたちはこのまま行くわけには行かない。
シーヴァル以外は人外の見た目だからだ…。
ヒスイとコハクはゼファーから耳を隠し人間に擬態する方法を学んでいたので、二人は耳と尻尾を引っ込める。
ネメシスの肉体は神様お手製ホムンクルスのため、問題なく人間の姿になれる…だが、問題はそう…
「アグニールなんだよな…」
テイマーという職業もあるが、それを通したとしてもアグニールは子ドラゴンだ。
余計な詮索やちょっかいをかけられることは目に見えている。
だからといってアグニールを一人で待たせるのも…と悩んでいると、
「クルキュルル!キュルル!キュル!!」
「いいのか?待たせるのは忍びないが…」
「キュルル!」
アグニールは、自分に構わず待ちに行ってくれと伝えた。
ネメシスの問にも問題ない!とドヤ顔で返してきた。
その可愛さにキュンと来たネメシスは時間の許す限り、アグニールと戯れたのだった。
翌日街が近づいてきた頃、アグニールは人がいないうちにネメシスたちから離れた。
寂しさはあるがネメシスがたくさんなでてくれたので彼は元気いっぱいのご機嫌だった。
アグニールと別れたあと街の門が近づくにつれ、ヒスイはそわそわしだした。
町に行くのは大人たちのみで子供は禁じられていたため、今日初めて町にはいるのだ。
ネメシスはもともと期待していなかったが、ヒスイに演技など絶対に無理だ…おのぼりさんだ…。
コハクは町よりネメシスに興味があるようでひたすら観察する目線を向けている。
二人にこれからやることを教えたりしない。シーヴァルは数日しか過ごしていないのにネメシスの考えを読むために伝えていない。
たとえ失敗したところで諦めるか、めんどくさいから町をまるごと無人に変えてしまえばいいと…魔王的思考をしていた。
神様が思考を覗けば親指を立てて賛辞していただろう。
「身分証をお願いします。」
その言葉にビクッと反応したのはヒスイだけだった。
ネメシスはゆっくり息を吐き…
「そ、の…私達は森で狩人をしていたお父さんと暮らしていたので、身分証がないんです。」
地面に目線を向け何かを耐えるように彼女は言葉をつまらせながら語りだす。
子供たちが幼い頃最愛の妻を亡くした父は男で一つで子供たちを育ててくれていた。
四人はそんな父を慕っていたがある時父は病にかかる。
子供たちはなんとか薬を買おうと町に行こうとしたが…危険なため父に止められた。
それでも行こうとしたが…
『お前たちにはわりぃと思ってるけどな…いい加減あいつのとこに行ってやらねぇと、あいつは寂しがりやだからな。』
それに狩りの仕方を教えた上の二人がいる限りやっていけるだろうと、父は言う。
子どもたちは悲しんでいた…それを見た父は申し訳なさそうにしながらもそれから数日後に息を引き取った。
その話に検問をしていた憲兵以外の憲兵たちや町に出入りしようとしていた者たちが聞き入り同情の目線を向けている。
ネメシスは涙を流さないように下を向いて手で顔を覆っているが、一雫…流れ出ているのを憲兵は見逃さなかった。
ヒスイはゼファーのことを思い出し、楽しかったあの頃にふけっていた。
コハクは両手を握りしめ父がなくなった無念に…。
シーヴァルは設定上長男的な立ち位置なので、そんな三人の背をそっと支えている。
父の死を悲しみつつも支え合う彼らに心を打たれもらい泣きをしている憲兵が、彼らを怪しむなど…ありえないことで。
「ずびっ…身分証は冒険者になれば取れる。身分証がない場合は…一人銀貨一枚だがあるか?」
もしなければ憲兵は本気で自分の責任で変わりに支払うつもりでいた。
謹慎だろうが給料を下げられようが構わない…彼は哀れな子供たちを救うことを決めた。
周囲はそんな彼の優しさに気づいており、憲兵たちは目線をそらし俺達は何も見ていません!とアピールした。
そんな憲兵の優しさに更にネメシスがダメ押しでホロリと再び雫を落とす。
ヒスイもそんな彼女に心を打たれたかのように涙をこらえているが…騙されてはいけない。
彼女は成功しなければ諦めるか町を無人にするつもりなのだ。
そんな彼女が人の好意に涙を流すなどありえない…内心は、憲兵たちがちょろいとおもっているのだから…。
それに払ってくれるならもらおう、とも思っている。
節約は大事だ。
それでここにいる憲兵が処罰されようが、彼女には関係ないし騙される方が悪い。
ということでちゃっかり憲兵に銀貨四枚を払ってもらい…
世話焼きの憲兵はギルドと心優しい宿主がいる宿まで教えてくれた。
事情を話せばきっと安く泊まらせてくれるはずだ!と…。
もう一度言おう、騙されてはいけない。
彼女たちはそんな心優しき憲兵に何度も感謝しながら町中へとはいる。
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