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魔に落ちる
しおりを挟むそれは、ヒスイを寝かせてからほんの数時間後に起こった。
最初は包帯で気づかなかったが、コハクの耳が半分染まった頃に気がついた。
その色は…黒。
黒い何かがコハクを染め上げようとしているのを見て、ネメシスはすぐさま第三の目でそれを確認する。
それでも何か良くないことが起こっているというぐらいしかわからなかった。
時空の歪みが発生しそちらにも意識を向けると…それはネメシスおなじみのスマホだった。
『大事だから伝えとくね。』
聖に属するものには魔に落ちるという現象がおこる。
魔に落ちるとは、邪に属するということ…神獣が魔に落ちれば一発でその資格を失う。
聖と邪は表裏一体であるからこそ、影響しやすいのだとか。
『魔に落ち始めたら僕の知る限り止める手立てはないよ。』
『魔に落ちたとしても理性を持ち合わせて過ごしているものもいるから』
最初は暴れるだろうけど理性さえ取り戻せればただ属するものが変わっただけ。
『魔に落ちる現象はとっても珍しいんだ。』
落ちやすいからこそそういう耐性があるのが基本なので…耐性を突破すること自体が珍しいのだとか。
『てことで、魔落ちのことは伝えたし…神様情報局はとんずらします♪』
そのひとことでスマホは時空の歪みに消えていった。
神様が話している間にも魔落ちしていたため…耳や尻尾だけではなく銀の髪も染まり始めていた。
「拘束しておきますか?」
シーヴァルのその問にネメシスは否と答える。
暴走は理性を取り戻させるプロセスのはずだから。
暴走したコハクはネメシスが相手をする。
アグニールでは純粋に経験と実力不足、シーヴァルは手加減しないだろうからうっかり殺っちゃいました。なんてことになったら、ネメシスの責任問題になってしまう。
「お前たちはヒスイを起こして守れ。」
ネメシスの命に否と答えることは二人にはない。
髪が完全に黒く染まった頃…コハクは糸で繋がれた人形のように不自然に起き上がる…。
「コハクッ!!」
仲の良い兄弟であり、慕っている兄に名を呼ばれても今のコハクには届かなかった。
コハクは、虚ろになり光を失った目から黒い涙が頬をつたっていた。
その瞬間、猛吹雪が突如として四人を襲った。
ヒスイのみ耐えられなかったが、シーヴァルが守っているので無事だった。
「コハクッ!俺の声が聞こえないのか?なぁ!!」
必死でコハクに語りかけるヒスイの言葉は今はひとかけらも届きはしないのだ。
猛吹雪の中で視界を遮られていたがコハクのシルエットは捉えていた。
シルエットが突然苦しみだしたかのように見えたとき…その変化は唐突に訪れた。
獣人の中には獣化できるものもおりそのもの達は先祖返りと呼ばれている。
五感は鋭くなり…本能に抗えなくなり、理性も薄くなる。獣化した獣の特性を存分に活かすことができ、獣化によってはSランクに匹敵するもの出るだろう。
では、神獣人が獣化した場合その危険度はどうなるのか?
答えは現状を見れば明らかだ。
猛吹雪など生易しいもので…これはまさしく自然の災害、恐ろしい被害をもたらすもの白魔だ。
さすがにアグニールはその性質から耐えられなかったようで途中からシーヴァルに守られている。
その白魔の中で、一匹だけ…真っ黒な獣が存在していた。
すべての闇を閉じ込めたかのように光が存在しない純粋な黒い毛並み…琥珀のように綺麗なはずの瞳はひかりをうしない、その尻尾は通常一つのはずなのに…三つそんざいしている。
そして見上げるほどの巨体を白魔の中で晒している。
そんな中ネメシスは銀の毛並みの姿もきっと美しいのだろうなっと場違いな思いを抱いていた。
アグニールは相性が悪いため無理だが、シーヴァルでも手こずりはするだろう相手。
つまりシーヴァルと同格…のSSランク。
ネメシスはちょうどいいと白魔が猛威をふるう中でイメージで魔力を練り上げ、ある魔法を発動させる。
それは、日本昔ばなしに出てくるような龍の形をかたどった炎の化身。
ネメシスは属性魔法が使えないからといって…似たような現象を起こせないわけではない。
ネメシスの魔法は明確なイメージさえあれば使えないはずの属性魔法を模すことなど造作もないのだ。
その炎は他でもない、アグニールの骨すら燃やしつくす炎をイメージしていたので、猛威をふるう白魔といい勝負をしたが、本体のコハクに届く前に敗北してしまう。
ネメシスはもともと属性魔法を真似れるかの実験をしただけなので特に驚いてはいない。イメージしだいで可能であることは判明した。
「さて、まだ実験に付き合ってもらおう。」
今日まで歯ごたえのある敵がいなくて試すに試せなかった多くのことを…。
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