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手向けと旅立ち
しおりを挟むネメシスはその宣言を聞いても、へぇ~としか思わない。
胸糞悪いことをした実行犯はすでに皆殺しにしているし、そのへんの事情は当人同士の問題だと思っているからだ。
「さて、そろそろこの場を離れなければな。」
ネメシスに目線を向けられたヒスイはゆっくりと頷く。
「だが、その前に…」
その発言とともにネメシスが地面を軽く蹴ると…
村の地面が盛り上がり…
そこから
美しい花々が次々と顔を出し始めたのだ。
のびのびと茎や葉を伸ばし、蕾をつけ…ゆっくりとそれが花開くさまは美しかった。
その花々は優しく、けれどしっかりと村を覆っていった。
ヒスイは美しく咲き乱れる花々に心を奪われていた。
アグニールは純粋にきれいだなと喉を鳴らした。
シーヴァルはただうっとりと、花ではなくネメシスを見つめていた。
ヒスイが話しかけたのは…数分後のことだった。
「なぁ、あれ、魔王様がやったんだよな?」
「あぁ…美しい。他に誰がいるというのだ駄犬め!」
ネメシスを見てうっとりしながらもヒスイに刺々しく返す変態にイラッときたが自分ではかなわないことを理解しているのでなんとか表に出さなかった。
「あのままでは、あの者たちも辛いだろう?それに、お前たちはいずれここに帰省するだろうからな。」
お前たち以外はたどり着けない目くらましの魔法ついでに整えてやっただけだと彼女は言った。
ここにジ○リを見たものがいたらこう思っただろう…ト○ロだっ!!
シーヴァルとアグニールは気づいていた。
ネメシスは異世界にきて初めて出会ったゼファーに誓いを立てそれを果たした。
ここで死んだ者たちの心が安らぐように、踏みにじられた気持ちが少しでも救われるように…
そして二人がいつか訪れる帰省で幸せだった思い出を多く思い出せるように…。
なにより、ここを荒らされるのはネメシス個人としても面白くないからだ。
ヒスイはネメシスの心境を理解できたわけではないが、自分の中にある心の底からの恐怖心がスーと消え去っていくのが感じ取れた。
「さて、いい加減移動しなければな。」
ネメシスたちはその場から離れていく…短くとも濃い時間だったが退屈はしなかった。
ヒスイは一度だけ立ち止まり村を向いたが、すぐにネメシスたちの後に続いた。
コハクはシーヴァルがおぶって運んでいる。
ヒスイも怪我をしているためにネメシスがシーヴァルに命じていたのだ。
「なぁ魔王様、どこに向かうんだ?」
ヒスイは純粋に気になり問いかけてみたが…
「あっ…」
ネメシスはその時戸惑った声を漏らした。
それはそうだ、だって
ネメシスたちはこの世界に来たばかりで地理はまったく理解していなかった。
やばい…地理のこともあの騎士とか冒険者に聞いておけばよかった…。
「魔王様、この方角ですと数ヶ月ほど進むと魔王城がございます。」
二人はもともとこの世界の存在のため、シーヴァルとアグニールには多少の知識が与えられていた。
ネメシスはシーヴァルの察しの良さに感謝した。
「魔王をやるなら魔王城は手に入れないとな。」
「いや、魔王様なのに何言ってんだあんた。」
ヒスイは以外とツッコミの才能があるのかもしれない…ここにいる二人はYESマンなので非常に助かる。
「私はまだ魔王になったばかりのひよっこだからな…こういうものだ。」
「そういうものなのか?」
「そうだ。」
ネメシスに言い切られてヒスイは素直にそういうものなのだと信じる。
ツッコミの才能があってもそれを活かせない気がしてきた。
そんな中、ネメシスは歩きながらとても重大なことに気づいてしまった。
そう…その重大なこと…。
ネメシスたちはヒスイとコハク以外一文無しではないかと…。
ある程度歩いたあとヒスイに疲労が見えたため、ネメシスは鎖魔法で…
「それで運ばれるくらいなら、まだあの吸血鬼に雑に運ばれる方がマシだ。」
「何だ遠慮しなくてもいいんだぞ?」
「全力で拒否するしもう少し自力で歩ける。」
ネメシスは少し残念そうにしながらも、おとなしく鎖魔法を解除した。
夕暮れ時に差し掛かったとき、いい加減限界だろうと野宿の準備をした。
「私とアグニールは少し散歩してくるから、お前たちは見張りを頼むな。」
そう言いつつ何故か少し焦りながらその場をネメシスはアグニールを連れて去っていく。
吸血鬼と二人きりになったヒスイはめちゃくちゃ気まずかった。
正確には未だ眠っているコハクがいるが…彼は眠っているので戦力にならない。
あまりの気まずさに息が詰まりそうになり、前から気になっていたことを聞こうと思った。
「なぁ吸血鬼、お前なんで太陽の下堂々と歩いてるんだよ?」
「私が純粋な吸血鬼だからだな。」
「純粋な吸血鬼?」
「わざわざそれをお前に教えると思うか?」
鼻で笑われたヒスイはイラッときたが、戦ってもボコボコにされるだけなので我慢する。
始祖の吸血鬼は太陽も銀も効果はない。
聖水なら多少ダメージが入るが多少でしかない。
その程度のダメージなら自己治癒でどうとでもなるのだ。
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