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拷問の終わり☆☆☆☆
しおりを挟むざっと三時間ほどだろうか、ヒスイはようやくアグニールを捕らえて箱を取り返した。
実は言うとアグニールがその気になれば彼は永遠に捕まえることはできなかっただろう。
アグニールがおとなしく捕まった理由は簡単。
ネメシスに時間稼ぎを命じられていたから。
激しく息を切らせながらヒスイは一度地面に転がり、息を整えていく。
いろいろなことが次々と起こるせいで、思い出にふける暇がないのは彼にとって悪いことではないだろう…。
アグニールは何故ネメシスがここまで世話をやくのか理解はできなかったが、ヒスイと遊んだことで多少助けてやってもいいかとは思い始めていた。
キュル!キュルル♪
そろそろ戻ろう?とやっと少し息の整ってきたヒスイを小さな手で揺さぶる。
「おい、もともとお前が…て、まぁいいか。わかった、もどるか。」
キュルルンとした目線で何?なんか文句ある?とうったえられたら…さすがのヒスイにも何も言えなかった。
たくさん動いた二人はゆっくりと、ネメシスたちのもとへと戻っていく。
ネメシスたちの元へ戻ると…ヒスイはあまりの光景に後ずさり、尻餅をつき…声が出せなかった。
なぜならば…
そこにいる者は
首から下、すべての肉と言う肉を
削がれてもなお…生きていたからだ。
骨と、臓器と…血液と、脳みそ…首から上が存在しているだけ…。
そして、削がれた肉は本人の目の前に無造作に置かれている。
この状態で生きているなど異常以外の何ものでもない。
自分が冒険者を永遠と殴る行為など…足元にすら及ばない。
「ごべ、なざい…もゔ、ごろ、ごろぢでぇーーー」
首から上を残したのはおそらく、喋らせるため…どこまでも残酷なその光景にヒスイは心底恐怖した。
これは一体なんだ?
何をどうしたらこんなことになる?
恐怖心は身をこがすような怒りも永遠と湧き出る憎しみをも凌駕していた。
「ん、私物はもういいのか?」
この光景を生み出したであろうネメシスは平然としていた。
自分たちはひょっとしたら、関わってはいけない存在に救われてしまったのではないか…そんな心の底からの恐怖で震えが止まらなくなっている。
「こいつには呪いがかけられていて、たいした情報は吐かなかった。」
「あぁ…し、カヒュッ…」
騎士だった男が、何かを言おうとした瞬間…丸裸にされていた心臓が突如として破裂した。
「あ~、ようやく気がついたようですね。」
その言葉に疑問を持ったのはヒスイだけだった。
ネメシスは理解していたし、アグニールは男のことなどどうでも良かった。
シーヴァルはそんなヒスイに説明する。
彼の呪いは特定の情報を言えないというもの、そして…彼はもう死にたがっていたがネメシスはヒスイにとどめを刺されるために生かしていたが…呪いが発動すれば死ねると気づいた男はそれを実行した。
「まぁいい、騎士には期待していたが残念だったな。せっかくヒスイのために生かしておいたのに自殺するし…。」
加減をすればよかった、などとは思っていないのだろう…ネメシスはたいして残念そうにしてはいなかった。
「お前も、いつまでビビっている?」
攻撃してこない限りはゼファーとの誓い通りにコハクが動けるようになるまでは庇護をするとネメシスは宣言した。
ヒスイはそれを信用することにした…やり方はどうあれ彼女たちは自分たちを救ってくれた恩人なのだ。
もしその気があるのならわざわざ助けることすらしないはずだから…
深く深呼吸を繰り返し、恐怖をしまい込む。
「さっきから気になってたんだが、なんで魔王様は血で汚れてないんだ?」
ヒスイの疑問に答えたのはシーヴァルだった。
「ネメシス様の美しい肌を汚物の血で汚すなど…千にきざんでも足らない万死だからだ。」
あぁ、この変態がやったのかとヒスイは納得した。
「村と、人々に別れはすませたか?」
ネメシスの問に走馬灯のように思い出を走らせたあと、ヒスイは覚悟と決意を目に宿して頷いた。
ネメシスはそれを見たあと、騎士から聞き出した情報をヒスイに伝える。
事の発端はヒスイたち兄弟を攫ってこいと命じたバーバリン王国の国王。
どうやらヒスイたちは他の獣人にはないものがあるようで、それはおそらく死の間際にゼファーが言っていた”神獣人“にあるのだろう。
ゼファーは二人が神獣人だと知っていてなお自分の子として深い愛情を注いでいた。
出会った当初から知っていたのではないかとネメシスは考えている。
「コハクが独り立ちしたらその件に関わったすべての奴らに復讐する…!」
脳筋、単細胞…などと言われている典型的な獣人ぽいヒスイであるが…実はそこそこ理性的だったりする。
すぐにでも飛びついて殺したい相手を前にネメシスとの約束を優先できる程度には…。
それは、兄だからというのもあるのだろう。
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