運命だけはいらない

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俺の名前は西宮心にしみやこころ
「ココロ」よりも「シン」って呼ばれることが多い。
なぜかって、俺は「ココロ」顔じゃないらしい。
俺の顔は瞳ははっきりとした二重でありながら少しつり目のせいか眼光が鋭く、高めの鼻梁とすっきりとした眉に薄い唇。
髪は染めていないが色素が薄い。
髪はおまかせで切ってもらっているが、よくある普通の男子高校生の髪型だ。
それが中学のいつからか「ココロ」よりも「シン」の方がピッタリ!と誰かが言い出してから、ずっとそう呼ばれるようになった。
……まぁ、どうでもいい奴らにどう呼ばれようが別に興味はない。

正直、自分の顔は好きじゃない。
もっと普通の顔が良かった。
特にスポーツもやっていないのに、なぜか伸びた身長もそう。
ムダに目立つ。
俺の理想はどこにでも溶け込む人畜無害なモブ顔と言われるやつだ。
そう言うと、「俺のことか?」といつも俺の母親である人に小突かれる。

俺の母親は男のΩで名前はかなで
職業はイラストレーターで、ほぼ家にいる。
幼少期から、ずっと二人で過ごしてきた。
ママとかお母さんって呼ばれると照れるらしく、小さい頃から「奏」と読んでた。

俺の父親は男のαで名前はあお
職業は人気俳優で、家にいないことが多い。
もちろん、奏曰く毎日家には帰ってきているらしいけど、小さい頃はあまり顔を見た記憶はない。
子供が寝た後に帰宅して、起きる頃には寝ているからだ。
もちろん記憶にはないが、俺の生まれたばかりの頃は奏のサポートをするために仕事をセーブしてめちゃめちゃ子育てをしてくれていたらしい。
ある程度子育ても落ち着き仕事を再開すると、その反動もあったのか、映画にドラマにオファーが殺到し、朧気な記憶の中ではもうテレビの中の人だった。
それでも、節目節目や誕生日などは必ず休みを取り、俺を喜ばすというよりは奏が喜んでるのを見て満足していたように思う。

だから、必然的に俺の世界のすべては奏だった。
奏がいてくれるだけで幸せだったし、奏の微笑みが何より美しいと思っていた。

そんな俺の世界が変わったのが幼稚園の時だった。
奏と離れたくなくて泣きじゃくったのを何となく覚えている。
この世の終わりのような気持ちで踏み入れた世界で、俺は瞬く間に人気者になった。
皆が俺の隣を奪い合い、一緒に遊びたいと泣いた。
あぁ、俺は奏以外にも必要とされるんだな、と思い純粋に嬉しかった。

でも、その気持ちは長く続かない。
子供ながらに、必要とされているのは自分の中身ではなく外側だと気づいたからだ。
何を言っても許される。
我が儘もどんな理不尽な態度も、この顔なら許されるらしい。

なんだそれ。

でも、俺はそれが許されるのは外の世界だけだと分かってる。
奏の前では我が儘も理不尽な態度もとてもじゃないが許して貰えない。

奏は結構、厳しいんだ。

だからこそ、外の世界の異様さを感じていた。

小学、中学と上がり、成長と共にますますその傾向は高まった。
奏にそのことを話すと、笑いながら蒼もそんな感じだったよ、と言う。
そう。
俺のもう一つの付加価値。

「人気俳優・蒼の息子」

父親に似ていると、どれほど言われたか。
うんざりしていた。
似ているのは雰囲気だけだ。
奏に似てくれれば良かったのに。

奏に似なかったのは顔だけではない。

周りが自分の外側だけしか見てくれない!どうしたら中身を見てくれるんだ!と、悩んだことなど一度もない。
勝手にちやほやして、忖度して、俺が望むままに動く周囲の奴らを見下し、利用する。
俺の中身を見てくれるのは奏だけ、その他の奴らは外側に興味があるだけだと勝手に線引きした。

身長も180センチを越え、雰囲気も大人びていた俺は、高校の入学式にはすでに童貞を捨てていた。
街をうろついていると、名前も知らないOLにマンションに連れ込まれ、特に何の感慨もなく終わった。
まぁ「君、大学生なのに上手だね」と事後に煙草を燻らせる女に「まだ入学前だけどね?」と言うと、驚きのあまりその煙草を布団に落として慌ててた姿は滑稽で笑えたけど。

でも、奏の前では年相応の少年のままだ。
奏は俺が自慰すら知らないと思ってるかも。
実際は、自慰する間もなく誰かしらと性欲処理をしているが。
薄々感づいている親父は、奏の前でいい子ぶる俺を白い目で見つつ、奏を傷つけないようにやれと言われた。

言われなくても。

そんな俺の運命が変わる日は、もうすぐだ。
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