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誘惑~バーン視点~
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「セシルか……どうした」
張り詰めていた緊張を解く。
「バーン様、お疲れでしょう?お慰めしようと思いまして……」
セシルは囁くように言葉を紡ぐ。背後から少し寝台のきしむ音がした。
幼少期から、このような誘惑には慣れていた。私自身に好意を寄せてのものも、そうでないものも。そもそも、私自身に好意を寄せて、といっても、結局そこにはオルレラ侯爵家のバーンという背景が含まれている。
こういった類の誘惑は、徹底的に避けてきた。
父上に言わせれば、それすら利用してこそ、だそうだが、そんなものを利用してまで昇りつめたいとは思わない。父上が母上を愛していたと知った今でもそれは変わらない。
私は、唯一人でいい。
セシルがどういうつもりかは分からない。本人の意思なのか、聖教側に強要されてのことなのか。
どちらにせよ、事を荒立たせたくはない。
「セシル、私は……」
穏便に断ろうと寝台の上でゆっくりと振り返ると、思わず息を呑んだ。
寝台の上にぺたりと座り込んでいたセシルは何も纏っていなかった。月明かりに照らされたその白い身体は、まだ少年の、傷一つない滑らかな肌だ。セシルの瞳は潤み、薄く開かれた唇からは吐息が漏れる。明るい内に見たセシルは、整った顔立ちの快活な少年であったが、月明かりの下で見たセシルは蠱惑的ですらあった。
少年から青年への過渡期にある、限られた期間に醸す色香……私は無言で着ていた夜具を脱いだ。
「バーン様……」
セシルは色香に惑わされた獲物を見、妖艶に微笑むと、その白い肢体を晒したまま、寝台に手を付き四つん這いの状態でゆっくりと近づいた。そして、その白い手をゆっくりと獲物に伸ばす。
「許可なく触れるなと言ったはずだが?」
私の予想外の冷えきった声に、セシルは手を伸ばした状態で硬直した。
「……私はこういったやり方は好まない。お前だから、ということではない」
なるべくセシルの自尊心を傷つけぬよう配慮し、自分が脱いだ夜具をセシルにそっとかける。
セシルは自らの肩に掛けられた夜具を手で握り締め、諦観したように微笑んだ。年相応の笑みだった。
「シューから話を聞いて、焦ってしまいました。もう少し、バーン様の人となりを知ってからにしたかったんですけどね。……ご迷惑をおかけしました。部屋に戻ります」
セシルは私の夜具に袖を通すと、そのまま扉へと戻り、退室した。
ふぅ、と息をつく。
直ぐに引き下がってくれて良かった。即座に縋っても意味がないと判断した、セシルはやはり優秀なのだろう。明日顔を合わせても、何事もなかったかのように接してくるセシルが想像できる。
もう、寝よう。
セシルに夜具を渡したため下着のみの姿ではあるが、寒くもなく、灯りを点けて夜具を探すのも面倒だった。
そのまま寝具に潜り込み、眠りにつこうとしていた時、また背後から扉の開く音がした。
……先ほどの判断は間違っていたのか?セシルの愚行にうんざりした。
「セシル、もう……」
怒りをはらんだ声色で飛び起き振り返る。
「セシルじゃねーし」
そこには、シュフォテオフトが仁王立ちしていた。
張り詰めていた緊張を解く。
「バーン様、お疲れでしょう?お慰めしようと思いまして……」
セシルは囁くように言葉を紡ぐ。背後から少し寝台のきしむ音がした。
幼少期から、このような誘惑には慣れていた。私自身に好意を寄せてのものも、そうでないものも。そもそも、私自身に好意を寄せて、といっても、結局そこにはオルレラ侯爵家のバーンという背景が含まれている。
こういった類の誘惑は、徹底的に避けてきた。
父上に言わせれば、それすら利用してこそ、だそうだが、そんなものを利用してまで昇りつめたいとは思わない。父上が母上を愛していたと知った今でもそれは変わらない。
私は、唯一人でいい。
セシルがどういうつもりかは分からない。本人の意思なのか、聖教側に強要されてのことなのか。
どちらにせよ、事を荒立たせたくはない。
「セシル、私は……」
穏便に断ろうと寝台の上でゆっくりと振り返ると、思わず息を呑んだ。
寝台の上にぺたりと座り込んでいたセシルは何も纏っていなかった。月明かりに照らされたその白い身体は、まだ少年の、傷一つない滑らかな肌だ。セシルの瞳は潤み、薄く開かれた唇からは吐息が漏れる。明るい内に見たセシルは、整った顔立ちの快活な少年であったが、月明かりの下で見たセシルは蠱惑的ですらあった。
少年から青年への過渡期にある、限られた期間に醸す色香……私は無言で着ていた夜具を脱いだ。
「バーン様……」
セシルは色香に惑わされた獲物を見、妖艶に微笑むと、その白い肢体を晒したまま、寝台に手を付き四つん這いの状態でゆっくりと近づいた。そして、その白い手をゆっくりと獲物に伸ばす。
「許可なく触れるなと言ったはずだが?」
私の予想外の冷えきった声に、セシルは手を伸ばした状態で硬直した。
「……私はこういったやり方は好まない。お前だから、ということではない」
なるべくセシルの自尊心を傷つけぬよう配慮し、自分が脱いだ夜具をセシルにそっとかける。
セシルは自らの肩に掛けられた夜具を手で握り締め、諦観したように微笑んだ。年相応の笑みだった。
「シューから話を聞いて、焦ってしまいました。もう少し、バーン様の人となりを知ってからにしたかったんですけどね。……ご迷惑をおかけしました。部屋に戻ります」
セシルは私の夜具に袖を通すと、そのまま扉へと戻り、退室した。
ふぅ、と息をつく。
直ぐに引き下がってくれて良かった。即座に縋っても意味がないと判断した、セシルはやはり優秀なのだろう。明日顔を合わせても、何事もなかったかのように接してくるセシルが想像できる。
もう、寝よう。
セシルに夜具を渡したため下着のみの姿ではあるが、寒くもなく、灯りを点けて夜具を探すのも面倒だった。
そのまま寝具に潜り込み、眠りにつこうとしていた時、また背後から扉の開く音がした。
……先ほどの判断は間違っていたのか?セシルの愚行にうんざりした。
「セシル、もう……」
怒りをはらんだ声色で飛び起き振り返る。
「セシルじゃねーし」
そこには、シュフォテオフトが仁王立ちしていた。
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