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白亜の大聖堂
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聖堂の中も予想通り変わらず、白、白、白だった。
壁も廊下も飾られている花さえも白。
その花も、わざわざ白い陶器の花瓶から、ちょうど花弁のみが見えるように短く切られていた。
ここまで統一するってすごいな?
かろうじて人が居ることによって、肌や髪、瞳の色といった白以外の色が目に写るが、そうでなければここまで白一色に統一されると圧迫感が強い。
数刻で逃げ出したくなるな、と思うが、これが信仰心がある者ならば浸って居心地が良いのか?
理解できない。
「聖教から迎えの者が来るはずだけど、いないな?とりあえず、この辺りで待とう」
セシルの言葉に頷いた。
二人で入口近くの白い壁に並び立つ。
この大聖堂入口には次々と人が訪れるが、皆内部の祈りを捧げる祭壇へと足早に向かうため、二人が並び立ったままでいると目立つ。
そもそも、この辺りは見通しが良く、聖教側の人も気づきやすいだろう。
ちらりと横にいるセシルを盗み見る。
セシルは裕福ではない男爵家の三男で、魔力が少ないらしい。
そのため、寄宿学校に入ることも出来ず、それならば聖教に帰依しそこで地位を高めたいと望む、上昇志向が強い気質なのだとフォルクスから聞いていた。
そうなんだろうな、と思う。
今も平然と前を向いているが、その横顔には意志の強さが感じられる。
「あの、さ。俺たち、フォルクス、様のためにいろいろ情報をって言われてるだろ?セシルはいいのか?聖教で高い地位に就いてって最初は考えてたんだろ?」
セシルはちらりと俺を一瞥すると、呆れた顔をした。
「こんな所で話すことか?お前、見た目のまま馬鹿だな。それに、俺が決めたことをお前に説明する必要があるか?踏み込んでくるな、馴れ合うつもりはない」
また見た目について言われた!
まぁ、そうだよな。
知り合ったばかりの、目的が同じってだけの奴だからな。
でも、俺は同じ時間を過ごすなら、仲良くしたい。
まずは、俺の事を知ってもらおう。
「俺は……」
「お前のことは聞いている。俺と同じ男爵家で、魔力が高いだけが取り柄なんだろ?その魔力の高さで寄宿学校に入ったものの、高位貴族と問題起こして追い出された所をフォルクス様に拾われたらしいが、聖教側がその情報を知らないことを願っておけ。もし、知られていてここから追い出されたとしても、俺の事は漏らすなよ。そもそも、お前は見た目が平民っぽいから役に立つとは思えない。足を引っ張るな」
「……おぅ」
辛辣!
仲良くなりたいだけなんだけどな。
そもそも、一人でいいって言ったのに安全面のことで必要だって説得されて受け入れたから、なんとなくセシルには悪いことしたなって思ってた。
でも、セシルにとっては思ってもない好機、なんだろうな。
フォルクスの期待に応えて、中央に呼んでもらいたいだろうし。
そこに俺みたいなのが着いてきているから、目障りでもあり、成果を横取りされる危険もあり、って所か。
あー、仲良くするのは無理っぽいのかなぁ。
「遅くなってすまない。神官希望の見習いとして来たのは君たちかな?」
前方の聖堂内部から壮年の男性が小走りでこちらに駆け寄ってきた。
柔和そうな笑みを見せながらの問いかけの言葉に頷く。
「分かりやすい場所に居てくれて助かった。今日は人が多くてなかなか見つからないかと思っていたけど、やはり貴族のご子息は雰囲気が違うな」
きっとこの壮年の男性は平民なんだろう。
聖教の神官なのか、まだそこまでの地位にはないのか。
ただ、セシルにこれから聖教で自分よりも高位になる可能性を感じて、その言葉や態度に媚びが混じる。
俺の方は全く見ないが。
同じ男爵家の設定なのに。
「今日からお世話になります。セシルと申します。少しでもお力になれるように、学ばせて頂きます。すべて神の、そして神の代理人たる大神官様のお導きに感謝します」
セシルは無邪気さを全面に出した満面の笑みと声音で、その壮年の男性に頭を下げた。
ん?
別人みたいになったけど?
さっきまでの俺に対する冷めた対応はどこへ?
壮年の男性も破顔し、何度も頷いている。
笑顔を交わし合った二人の視線が俺に向けられる。
俺の番……ってことか?
「あ、シュ、シュフォテ、オフトです。ええと、白一面の建物で驚いていて、別に他の色があってもいいんじゃないのかと思いまして、その、えー、頑張ります」
う、上手く言えなかったー。
さすがにこの挨拶はなかったな、と肩を落としていると、セシルは呆れた目で見るし、壮年の男性は俺の事をちらりとも見ない。
どうもコイツはダメだと見限ったようで、セシルだけを見ながら「歩きながら説明するからついてきて下さい」と歩き出した。
「はいっ」と元気よく答えたセシルの付き人のように、俺もとりあえずついて歩いた。
この大聖堂は入口から続く長い廊下の先に神に祈りを捧げる祭壇のような場があり、神官数人が取り仕切っているらしい。
そこで人々は祈りを捧げ、終わるとそのまま前方に続く廊下を抜け、出口に赴く形になっていて、つまりは、細長い一室ような形で建物自体は複雑でない。
祭壇の間も扉などはないが、間仕切りの壁の様なものがあり、ここからは見えない。
ただ、人が理路整然と並んでいる様子が見て取れた。
この祭壇はあくまで一般の信徒のためのもので、大聖堂の別棟に貴族や神官の為の祭壇があると聞き、俺は顔をしかめた。
なーにが神の下には平等だ。
ここでも貴族と区別してるじゃないか。
納得いかないし、神官とやらに問い詰めたいが、そんなことをやりにきたんじゃない。
とりあえず、その別棟に向かうためそのまま入口から出ると、白亜の聖堂がすぐ隣に在った。
え?こんな建物あったか?
セシルも訝しげにその聖堂を見ている。
「驚いただろう?認識齟齬の魔法がかけられているらしいよ。建物が在ると思って見ないと見えない仕組みらしくてね。だからあちらの信徒たちはこの建物のことが見えていない。間違えて貴族の方と平民の信徒が会うことがないように配慮されているんだよ。高貴な方によっては、平民と同じ建物内にいることすら不快に思う方もいるからね」
にこやかな笑顔で話す壮年の男性と同様に笑顔で頷くセシルを前に、俺は上手く笑えているだろうか?
くだらない。
貴族と平民の何が違う?
高貴なる血……幾度となく囁かれた言葉が頭を過ぎる。
俺の身体には、赤い血が流れているだけだ。
壮年の男性はそのままその建物に入ると歩きながら説明を始めた。
「ここは中央に祭壇があり、主に貴族の方や神官が祈りを捧げる時に使う。君たちもこれからそこで祈りなさい。奥には神官や補助神官、神官見習いなどの居室、炊事や洗濯の場、風呂などがある。君たちに割り当てられた部屋にこれから案内する。二人部屋だよ」
「はいっ。よろしくお願いします」
元気なセシルの声に圧倒されて俺は会釈しかできない。
おかしい……俺は元気だけが取り柄なのに……。
真っ直ぐ前を向いて歩くセシルとは違って、とりあえずキョロキョロしながらもついて行く。
この建物は向こうの大神殿と同じような大きさではあるが、造りが豪奢だ。
もちろん白で統一されていることは同じだが、使われている材質や装飾が違う。
そんなことも気に入らないと思いつつも、あまり人の気配がしない。
そもそも、この大聖堂横の建物に住める高位の神官が少ないってことなんだろうな。
「ここだよ。俗世で使っていた物は持ち込めないから、すべて部屋に用意されてある物をこれから使うように」
白い扉を指さされ、入った俺たちの自室とやらは寄宿学校の二人部屋よりも広かった。
それぞれの寝台に袋が置かれていて、そこに服など日用品が入っているんだろう。
しかし、俗世って……結局その袋やその中身を作っているのも、日々口に入れる食べ物を育てているのも、その俗世の平民だけどな?
「で、この部屋の右隣が今回君たちがお世話してもらうことになる、大貴族のご子息の部屋だ」
!
会話の内容に嫌気が差している場合じゃない。
隣がバーンの部屋か。
こんなに、早く会えるなんて。
ぐっと手を握りしめる。
とりあえず、暴れない。
ちゃんと信頼関係を……。
「そのご子息はどれくらいこちらに?」
「あぁ、もう大神官様から帰属の許可は得ているから、居て数日だろう」
えっ、そんなに短いのか!?
その間に、信頼関係……え、どうすれば??
壁も廊下も飾られている花さえも白。
その花も、わざわざ白い陶器の花瓶から、ちょうど花弁のみが見えるように短く切られていた。
ここまで統一するってすごいな?
かろうじて人が居ることによって、肌や髪、瞳の色といった白以外の色が目に写るが、そうでなければここまで白一色に統一されると圧迫感が強い。
数刻で逃げ出したくなるな、と思うが、これが信仰心がある者ならば浸って居心地が良いのか?
理解できない。
「聖教から迎えの者が来るはずだけど、いないな?とりあえず、この辺りで待とう」
セシルの言葉に頷いた。
二人で入口近くの白い壁に並び立つ。
この大聖堂入口には次々と人が訪れるが、皆内部の祈りを捧げる祭壇へと足早に向かうため、二人が並び立ったままでいると目立つ。
そもそも、この辺りは見通しが良く、聖教側の人も気づきやすいだろう。
ちらりと横にいるセシルを盗み見る。
セシルは裕福ではない男爵家の三男で、魔力が少ないらしい。
そのため、寄宿学校に入ることも出来ず、それならば聖教に帰依しそこで地位を高めたいと望む、上昇志向が強い気質なのだとフォルクスから聞いていた。
そうなんだろうな、と思う。
今も平然と前を向いているが、その横顔には意志の強さが感じられる。
「あの、さ。俺たち、フォルクス、様のためにいろいろ情報をって言われてるだろ?セシルはいいのか?聖教で高い地位に就いてって最初は考えてたんだろ?」
セシルはちらりと俺を一瞥すると、呆れた顔をした。
「こんな所で話すことか?お前、見た目のまま馬鹿だな。それに、俺が決めたことをお前に説明する必要があるか?踏み込んでくるな、馴れ合うつもりはない」
また見た目について言われた!
まぁ、そうだよな。
知り合ったばかりの、目的が同じってだけの奴だからな。
でも、俺は同じ時間を過ごすなら、仲良くしたい。
まずは、俺の事を知ってもらおう。
「俺は……」
「お前のことは聞いている。俺と同じ男爵家で、魔力が高いだけが取り柄なんだろ?その魔力の高さで寄宿学校に入ったものの、高位貴族と問題起こして追い出された所をフォルクス様に拾われたらしいが、聖教側がその情報を知らないことを願っておけ。もし、知られていてここから追い出されたとしても、俺の事は漏らすなよ。そもそも、お前は見た目が平民っぽいから役に立つとは思えない。足を引っ張るな」
「……おぅ」
辛辣!
仲良くなりたいだけなんだけどな。
そもそも、一人でいいって言ったのに安全面のことで必要だって説得されて受け入れたから、なんとなくセシルには悪いことしたなって思ってた。
でも、セシルにとっては思ってもない好機、なんだろうな。
フォルクスの期待に応えて、中央に呼んでもらいたいだろうし。
そこに俺みたいなのが着いてきているから、目障りでもあり、成果を横取りされる危険もあり、って所か。
あー、仲良くするのは無理っぽいのかなぁ。
「遅くなってすまない。神官希望の見習いとして来たのは君たちかな?」
前方の聖堂内部から壮年の男性が小走りでこちらに駆け寄ってきた。
柔和そうな笑みを見せながらの問いかけの言葉に頷く。
「分かりやすい場所に居てくれて助かった。今日は人が多くてなかなか見つからないかと思っていたけど、やはり貴族のご子息は雰囲気が違うな」
きっとこの壮年の男性は平民なんだろう。
聖教の神官なのか、まだそこまでの地位にはないのか。
ただ、セシルにこれから聖教で自分よりも高位になる可能性を感じて、その言葉や態度に媚びが混じる。
俺の方は全く見ないが。
同じ男爵家の設定なのに。
「今日からお世話になります。セシルと申します。少しでもお力になれるように、学ばせて頂きます。すべて神の、そして神の代理人たる大神官様のお導きに感謝します」
セシルは無邪気さを全面に出した満面の笑みと声音で、その壮年の男性に頭を下げた。
ん?
別人みたいになったけど?
さっきまでの俺に対する冷めた対応はどこへ?
壮年の男性も破顔し、何度も頷いている。
笑顔を交わし合った二人の視線が俺に向けられる。
俺の番……ってことか?
「あ、シュ、シュフォテ、オフトです。ええと、白一面の建物で驚いていて、別に他の色があってもいいんじゃないのかと思いまして、その、えー、頑張ります」
う、上手く言えなかったー。
さすがにこの挨拶はなかったな、と肩を落としていると、セシルは呆れた目で見るし、壮年の男性は俺の事をちらりとも見ない。
どうもコイツはダメだと見限ったようで、セシルだけを見ながら「歩きながら説明するからついてきて下さい」と歩き出した。
「はいっ」と元気よく答えたセシルの付き人のように、俺もとりあえずついて歩いた。
この大聖堂は入口から続く長い廊下の先に神に祈りを捧げる祭壇のような場があり、神官数人が取り仕切っているらしい。
そこで人々は祈りを捧げ、終わるとそのまま前方に続く廊下を抜け、出口に赴く形になっていて、つまりは、細長い一室ような形で建物自体は複雑でない。
祭壇の間も扉などはないが、間仕切りの壁の様なものがあり、ここからは見えない。
ただ、人が理路整然と並んでいる様子が見て取れた。
この祭壇はあくまで一般の信徒のためのもので、大聖堂の別棟に貴族や神官の為の祭壇があると聞き、俺は顔をしかめた。
なーにが神の下には平等だ。
ここでも貴族と区別してるじゃないか。
納得いかないし、神官とやらに問い詰めたいが、そんなことをやりにきたんじゃない。
とりあえず、その別棟に向かうためそのまま入口から出ると、白亜の聖堂がすぐ隣に在った。
え?こんな建物あったか?
セシルも訝しげにその聖堂を見ている。
「驚いただろう?認識齟齬の魔法がかけられているらしいよ。建物が在ると思って見ないと見えない仕組みらしくてね。だからあちらの信徒たちはこの建物のことが見えていない。間違えて貴族の方と平民の信徒が会うことがないように配慮されているんだよ。高貴な方によっては、平民と同じ建物内にいることすら不快に思う方もいるからね」
にこやかな笑顔で話す壮年の男性と同様に笑顔で頷くセシルを前に、俺は上手く笑えているだろうか?
くだらない。
貴族と平民の何が違う?
高貴なる血……幾度となく囁かれた言葉が頭を過ぎる。
俺の身体には、赤い血が流れているだけだ。
壮年の男性はそのままその建物に入ると歩きながら説明を始めた。
「ここは中央に祭壇があり、主に貴族の方や神官が祈りを捧げる時に使う。君たちもこれからそこで祈りなさい。奥には神官や補助神官、神官見習いなどの居室、炊事や洗濯の場、風呂などがある。君たちに割り当てられた部屋にこれから案内する。二人部屋だよ」
「はいっ。よろしくお願いします」
元気なセシルの声に圧倒されて俺は会釈しかできない。
おかしい……俺は元気だけが取り柄なのに……。
真っ直ぐ前を向いて歩くセシルとは違って、とりあえずキョロキョロしながらもついて行く。
この建物は向こうの大神殿と同じような大きさではあるが、造りが豪奢だ。
もちろん白で統一されていることは同じだが、使われている材質や装飾が違う。
そんなことも気に入らないと思いつつも、あまり人の気配がしない。
そもそも、この大聖堂横の建物に住める高位の神官が少ないってことなんだろうな。
「ここだよ。俗世で使っていた物は持ち込めないから、すべて部屋に用意されてある物をこれから使うように」
白い扉を指さされ、入った俺たちの自室とやらは寄宿学校の二人部屋よりも広かった。
それぞれの寝台に袋が置かれていて、そこに服など日用品が入っているんだろう。
しかし、俗世って……結局その袋やその中身を作っているのも、日々口に入れる食べ物を育てているのも、その俗世の平民だけどな?
「で、この部屋の右隣が今回君たちがお世話してもらうことになる、大貴族のご子息の部屋だ」
!
会話の内容に嫌気が差している場合じゃない。
隣がバーンの部屋か。
こんなに、早く会えるなんて。
ぐっと手を握りしめる。
とりあえず、暴れない。
ちゃんと信頼関係を……。
「そのご子息はどれくらいこちらに?」
「あぁ、もう大神官様から帰属の許可は得ているから、居て数日だろう」
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