前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

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挿話~一番欲しいもの~

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「アクラム様、面会の許可をと……」
「うるさい、うるさいっ。僕は誰にも会わないっ」
おどおどと言葉を発した侍女に、遮るように怒声を浴びせ、豪華な天蓋付きの寝台に勢いよく飛び込む。

朝からずっと、イライラしていた。
僕のことを腫れ物のように扱う父上にも、困ったように微笑むだけの兄上にも、利用しようとギラついた瞳で寄ってくる貴族連中にも、もううんざりしていた。

ここの空気は淀んでいる。
人の欲望や悪意で満ちていて、上手く息ができない。

「まぁた、問題起こしたって?」
「ルカ!」
涼やかな声に飛び起きる。
扉には長い銀糸の髪を無造作に掻き上げながら、僕のことを胡乱うろんな目で見ているルカが立っていた。

「も、申し訳ありませんっ。あのっ」
「あー、いい、いい。ちゃーんと俺が言っておくから心配するな」
許可なくルカを通してしまったことを謝罪するために、顔面蒼白な侍女が何度も頭を下げているが、興味なんかない。
むしろ、ルカが慰める様に優しく接していることが腹立たしい。

……この女、どうしてやろうかな。

そんな僕の心を読んだかのように、ルカの鋭い視線が向けられた。
「アクラム、俺の勝手な行動でこの子に何かするなら、俺は二度とお前の前に姿は見せないぞ」
「……何もしない。下がれ」
ここまで言われたら、僕には何もできない。
隠蔽したとしても、何かで露呈してしまった時には、本当に二度と会ってくれないだろう。
こんな女のために、絶対嫌だ。
侍女はルカに何度も頭を下げながら、小走りで退室した。

「で?今回は何をしたんだ?」
ルカはあきれたようにため息をつきながら、寝台に座り直した僕の前に仁王立ちする。
「……言いたくない」
「言いたくないようなことするなよ……」
あきれながら、目の前の僕の頭を両手でぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

自分で、伸ばしていた髪を肩まで切り落としてから、ルカはよく僕の髪をこうしてぐしゃぐしゃにする。
自分で乱雑に切って長さもバラバラだった髪を今のように切り揃えてくれたのもルカだ。
ルカが切ってくれないなら、このままでいると言った僕に我が儘だと最初は断られたが、父上に何度も説得されてめんどくさいと言いながら切ってくれた。
皆に美しいと褒めそやされているこの黄金の髪に触れさせるのはルカだけだ。

「お前はお前だ。誰が何と言おうと、好きに生きればいい。何かあれば、俺が助けてやる」
「ルカ……」
ほら、また僕の欲しい言葉をくれる。
きっと、何があったか聞いてるんだろう。
僕の好きになんか、生きられない。
ルカだって、分かっているはずなのに。
でも、僕が本当に助けを求めたら、きっとルカはどんなことをしても助けてくれるんだろうな。
あの時だって、ルカだけだった。
僕の心の傷に気づいてくれたのは。

唇をきゅっと噛み、努めて明るい声を出す。
「わざわざ、僕に説教するためだけに、来たの?」
「ちげーよ。フォルクスが古代語の魔法書くれるって言うから来ただけ。そのついでだ」
いいな。
ルカの隣に並び立つフォルクスの姿を見ると、いつも歯痒はがゆい気持ちにさせられる。
もう少し早く生まれていれば、こんなに子供扱いもされなかったのに。

「あぁ、そうだ、弟子ができたんだよ。なかなか面白い奴だから、また今度連れてきたら仲良く……」
「はぁ!?なんで!僕のことは断ったのに!」
「いやいや、お前には俺よりも素晴らしい教育係たちがいるだろ?」
「いないよ!ルカに比べたらあんな……」
「こらこら。俺は剣術も我流だし、魔法も転移なんかひどいもんだ。歴史も知らんし、知識もない。お前には教えられん」
「僕は……ルカが、良かった」
誰も僕の成長なんて、喜んでくれない。
ある程度、が一番なんだろう?

ルカの弟子の話を聞いて、あからさまに落ち込んだ僕を見て、困り顔のルカが、今度は優しく手櫛で髪を整える。
「そんなこと言うな。たまには俺に教えられることなら相手してやるから」
「ルカは……僕が可哀想?自分、みたいだから?」
「アクラム」
っ!!
僕は、なんてことを……。
ルカに、そんなことを言うつもりじゃなかったのに!!
弟子の話が悔しくて、それでっ……。
「ごめ……ごめんなさいっ……僕……」
「ばぁか。お前みたいな我が儘なガキのどこが可哀想なんだ?」
罪悪感で震えながら謝罪する僕を、ルカは天真爛漫な顔で一笑に付す。

「この後は何の予定だ?」
「……ダンス」
「ダンスかぁ……まっ、いっか!よっし、フォルクス巻き込んで属性魔法の実地だ!謝罪はあいつに任せよ~っと。中庭でやるぞっ」
まだ自分の失態に落ち込み暗い顔で寝台に座り込む僕に、ルカはにかっと笑いかけると、手を引き立たせる。
「まずは、フォルクス確保だ!あいつの執務室行こうっ」
僕の手を引いたまま、宰相補佐室に突撃すべく早足で向かう。

「……お前は俺とは違う」
道すがら小さく呟いたルカの声に胸が押し潰されそうになりながら、僕は聞こえないふりをした。
ルカがそう望んでいる気がしたから。


ねぇ、ルカ。
ルカのことを、僕が一番解ってあげられるよ。
どんなに望んだって、どんなに努力したって、本当に欲しいものなんか手に入らないことを知った日から、僕の世界は真っ暗だ。
でも、ルカが照らしてくれたんだ。
ルカだけが、僕を僕だと認めてくれる。
ルカだけが、本当の僕を見てくれる。
ルカが欲しい。
ルカだけでいい。
もう他に何も望まない。

ねぇ……ちょうだい?
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