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変化~テオドール視点~

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「んー、よく分からないけど、俺、聖教に乗り込むわ」
そんなルカの一言に、その場にいた全員が即座に反応する。
「なぜだ!?」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「ダメ!」
僕もあまりに突拍子もないルカの発言に声を出してしまった。
ホント、ルカには振り回される。
その行動が予想外すぎるから。
バーンの一件で意気消沈していた時のルカは見ていられなかったから、いつものルカに戻ったと喜ぶべきなの、か、な……?
いや、それにしても。

「ふざけたこと言わないで!ルカが聖教に乗り込む?何のために?」
シュラ先生が掴みかからんばかりの形相でルカに詰め寄る。
その気持ちは痛いほど分かる。
何のために聖教に乗り込むのか僕も分からない。
バーンを助けに行く……いや、僕たちの時と違って捕らわれている訳ではない。
そもそも、バーンはルカのことを忘れている。
そのルカが聖教に乗り込んでバーンに会った所で意味がない。
会って一目で記憶が戻る……そんな甘いことを考えているのかな?
ルカが絶世の美少年で、その見目にバーンが惹かれたのならその可能性もあるけれど、残念ながらそうじゃない。

「バーンに会いたいんだ。聖教に乗り込めば会えるかもしれないだろ?だから、俺は行く」
「会いたいって、そんな感情で危険をおかすの?貴方は顔を見られている。何かあった時に、救出出来るとは限らないのよ!それに、バーンがいるかどうかも確定していない。そんな危険はおかせない。……おかさせないわ」
シュラ先生は語気を強めた。
「んー。でも、俺の顔を覚えているのはあの刺客の奴だけだ。あの刺客は聖教の影の部分だろう?そんな奴には会いたくても会えない。それに、二人が公爵の代行でバーンが聖教にって予想してるならほぼ間違いない。それなら、バーンは聖教にオルレラ公爵家が帰依していると周囲に知らしめるためにもけっこう公に出てくるはずだから、会えるかもしれない」
「それは……」

ルカが、まさかの真っ当な意見でシュラ先生を説き伏せてる!
本能のまま、行きたいんだ!で押してくるかと思ったのに……。
「もしも、があったらどうする?お前の言う通り、刺客は聖教の表舞台に出てくることはないだろう。だが、すべての事象に絶対はない。何があるか分からない。その可能性を分かりつつ、我々がお前を向かわせると思うか?バーンの記憶とお前の身の安全を我々が天秤にかけた時、答えは自ずと出る。それに……バーンの望みでもないだろう」
フォルクス様の言われる通りだ。
バーンの記憶が戻ることを僕も望む。
もちろん、邪魔者ではあったけれど、こんな展開は本意じゃない。
でも、それ以上にルカが大切だ。
ルカに危険が及ぶかもしれないような賭けには出られない。
これは、バーンも同じ意見なはずだ。
絶対に望んでいない。

「危険は承知の上だ。何かあっても、回避してみせる。バーンが公に出てくる機会なんて、きっとこれを逃すともうないかもしれない。あいつはそのままでいてくれたらいいって言った。でも、俺が何もしなくても出会えるなんてあり得ない。俺達は寄宿学校という特殊な環境だから出会えたんだ」
そうだね。
ルカの言う通りだ。
バーンはあれで乙女脳だから、自分とルカは運命で結ばれているはずだ!とか本気で思ってたかもしれないけど。
気持ち悪くて考えたくないけれど、バーンの相手が僕なら無理なく出会えて、無理なく戻れた。
それは同じ貴族だから。
平民のルカがこのまま木こりになるのだとしたら、バーンと出会う確率は限りなくゼロだ。
それを分かっているからこそ、ルカは行動しようとしている。

僕としては、当てが外れた。
今回のことで、ルカは中央を目指してくれるんじゃないかと思っていた。
ルカなら、その実力は十分にある。
きっと、シュラ先生も推薦してくれる。
木こりになんてならずに、このまま中央で国を支えていってくれるんじゃないか……僕の側にいてくれるんじゃないかって期待した。
でも、危険を承知でバーンに接触するために聖教に、なんて考えるなら、やっぱり木こりは諦めてないのか。
……まぁ、僕も諦めてないけど。

「ルカの気持ちは分かる。だが、それを認めるわけにはいかない。それは、先程も言ったようにお前のことが大切だからだ。お前に覚悟があったとしても……私は……少しの危険にもさらしたくはない」
フォルクス様がルカを優しく見つめながら諭す。

あー、絶対にフォルクス様も敵だ。
確定だ。
こんなに私情を挟む方ではない。
ルカが聖教に潜入し、バーンに記憶が戻れば、そのままオルレラ公爵家の代行としてバーンが聖教にとどまるはずがない。
聖教はルカを害しようとしたのだから。
そうなれば、聖教がこれ以上力を持つことを是としない宰相として、平民のルカなどいくらでも使い捨てるはずだ。
それを、しない。
できない。
平民だとか立場だとか、大切な存在の前には無意味だから。

「分かってる。俺のことをみんなが大切に思ってくれてるって。だから、話したんだ。俺は、いつも良いと思って行動してた。俺は自分が傷つくよりもお前達が傷つく方が嫌だ。だから、俺が……それが一番良いって。でも、違うんだよな?お前達も俺と同じように、俺に傷ついて欲しくないって思ってくれてる。だから、俺は自分が良いと思うことだけをしちゃダメなんだ。ちゃんと自分のことも大切にしないといけない。同じ過ちを繰り返してはいけない」
「なら……!」
シュラ先生がまるで幼子のようにルカにすがり付いた。
妖艶でいつも高みから見下ろすような雰囲気をもつシュラ先生が、なんとかルカを思い止まらせようと弱々しくルカの手に触れている。
振り払われることを恐れるように。

僕は、正直混乱した。
ルカのいつもの突拍子もない発言や行動ももちろんだけど、お二人の言動に。
ルカはずっとお二人に敬意を払った発言をしていない。
むしろ、僕やクリフトと同等の扱いだ。
お二人がルカのことを大切に思っていることを、ルカは当然のように捉えている。
ただの寄宿学生に対する思いではない、と。
でも、この部屋の空気はそれに異を唱えない。
クリフトは違和感を感じているかもしれないけど、少なくともお二人はがルカのことを大切に思っていることをが当然のように理解している。
なぜ?
ルカとお二人の関係性が本当に分からない。

ルカはシュラ先生を自嘲気味に笑いながら見つめ返す。 
「だから、言ってる。俺はバーンの記憶を取り戻したい。この機会を逃したくない。行っても、いいか?」
シュラ先生が、ハッとした顔でルカを見つめる。

そうか。
ルカは僕たちにちゃんとその行動の許可を取ろうとしてくれてるのか。
前のルカなら、きっと勝手に潜入してた。
誰にも知られないように、自分で乗り込んで危険な目に遭っても、それで自らが傷ついても、それが当然だと。
でも、その事で僕たちがルカ以上に傷つくことを知った。
だからこそ、変わろうとしてくれている。

「バーンが、俺は俺でただあってくれたらいいって言ってくれたけど、俺が俺であるなら、じっとなんてしていない。待ってるだけの俺なんて、俺じゃないだろう?でも、暴走はしない。俺のままでいるために、ちゃんとお前たちを説得してから乗り込む」
ルカが吹っ切れた顔で笑う。

ルカは僕たちのために変わろうとしてくれた。
でも、変わらないことも選んだ。
そんなルカを、そんなルカだからこそ僕たちは……。

「降参だ」
フォルクス様が両手をあげた。
「……俺もです。この国の宰相と一番の宰相候補に白旗あげさせるなんて、ルカは策士だ」
クリフトが穏やかな顔で何度も頷く。
「アタシは……認められない。これ以上、危険な所にはいかせなくないっ」
シュラ先生は一人固く目を閉じると、苦しそうにうめいた。
「シュルツ……俺はけっこう強い。ちゃんと俺自身を大切にする。お前を守るみたいに、自分のことも守るから」
ルカはシュラ先生の固く閉じた瞳をほぐすように目尻に優しく触れる。
「本当に?……約束、よ。ちゃんと、守って」 
「あぁ」
なんだろう……シュラ先生の方がずっと年上なのに、まるで幼子を諭すようだった。
それに、シュルツって……?
問う雰囲気ではないけど、気になる。

「テオは?」
ルカが不安げに僕を見る。
……可愛いなぁ。
そう思っちゃう時点で、 もう負けだ。
「止めたいけど、止めないよ。そこまで言うなら安全面のことはちゃんと考えてるんでしょ?」
僕は変わってくれたルカの作戦が楽しみにすらなってきた。
ここにはフォルクス様もクリフトもいる。
一番の宰相候補って言葉は生意気だけど、異論は無い。
ルカの考えてる作戦をより良く煮詰めれば……。

「え?作戦?普通に一番デカイ聖堂に乗り込むけど?」
相変わらずの行き当たりばったり!
そこは変わって!!
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