129 / 146
過渡期~シュルツ視点~
しおりを挟む
「まだ、ルカは……?」
「えぇ」
はぁっ、と二人ため息をつく。
オルレア公爵家からテオドールとクリフトと戻った日から、ルカは塞ぎこんでいる。
正直、バーンのことについては仕方がない……と言わざるをえない。
バーンが受け入れた以上、外野は見守ることしかできないのだから。
もちろん、転学届の申し出を拒否することもできず、私物もバーン本人ではなく家の者が片付け、あっさりとバーンの痕跡はこの寄宿学校から消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その後の消息も知れない。
他の寄宿学校に転学すれば人づてに知ることもできたがその様子もない。
このまま成人までオルレア家で過ごすのかもしれない。
オルレア家であれば、優秀な個人の教師を雇うこともでき、家督を継ぐバーンはわざわざ寄宿学校を出て中央を目指す必要もない。
そうなれば、木こりをやりたいと言っているルカと会うことは、もう、ない。
こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
目障りでしかなった。
どうしても前のルカの面影を追ってしまい、一歩踏み込めない我々に対し、ガキ共はどんどんルカに侵食していたから。
このまま、ルカの心の傷が落ち着くのを見守ればいいのだけれど……やはり塞ぎ込むルカを見ていられない。
「中央に、戻らなくて良いの?」
「かまわない。ここからでも、指示は送れる」
フォルクスはこのルーツ寄宿学校に滞在するようになった。
もちろん、ルカの側にいるために。
刹那的な関係を楽しんでいた私が一切の関係を断ち、夜会に行くこともなくなった。
国内の政のためだけに動き、外交すら最低限で済ませて執務室にこもっていたフォルクスが、視察のみの予定だったルーツ寄宿学校から中央に戻らない。
貴族間では、そんな私とフォルクスが深い仲になってるなんて噂があるみたいだけど、笑えもしない。
フォルクスのことも、ガキ共と同じく邪魔だとしか思っていない。
しかも、ルカが塞ぎ込む原因である今回のオルレラ家との一連も、このフォルクスが噛んでいる。
フォルクスがいなければ、ルカとエルンストは会えなかった。
私だったら……そもそもルカとエルンストを会わせたりなどしなかった。
エルンストのルカへの執着は、当時子供だった私も、気づいていた。
明らかに、ルカとその他では纏う雰囲気が違っていたから。
不遜で尊大でルカに私を紹介された時も視界の端に入れただけだった。
常にオルレラ家のためだけにその手腕をふるっていたから、必要ない者は歯牙にもかけない。
そんなエルンストが、ルカの前でだけ年相応の笑顔を見せていた。
本当にルカの周囲は厄介な相手ばかりだと、私はうんざりしていた。
ルカが消えたあの日以降に見たエルンストは、別人のようだった。
あぁ、私と同じようにルカの唯一になれなかった自分を許せないんだな、と憐れみすら感じた。
そして、ルカがあのルカだと知り、そんなエルンストの息子のバーンがルカに惹かれていると知った時は、ため息が出た。
親子揃って……。
目障りにもほどがある。
でも、ルカとエルンストが交わることはないと確信していた。
野心のある高位の貴族の典型のようなエルンストが、平民のルカと目を合わせることなどない。
バーンが毒物を、と連絡した時すら、命に問題ない以上割く時間はないと返答があった。
とうとうルカと接点をもつかと危惧していたから、良かったと胸を撫で下ろしたのに。
ここにきて、結局知られてしまった。
しかも、ルカ本人がエルンストに告げたと言う……それを許したフォルクスにも腹が立つ。
フォルクスからその話を聞いた時には、どういうつもりかと詰めよったが、ルカの望みは断れないなどと平然とした顔を……はぁ。
いけない。
思い返せば思い返すほど、エルンストにもフォルクスにもバーンにも殺意がわく。
私は、あの人の苦しむ姿など見たくない。
笑っていて欲しい。
それを邪魔する奴らを許さない。
……あぁ、もう、拐って閉じ込めてしまおうか。
そうすれば、悲しみからは遠ざけてあげられるけど、きっと笑ってはくれない。
同じようにルカを苦しめる存在にはなりたくない……はぁ。
何度目かのため息をつく。
私まで、塞ぎ込んでる場合じゃない。
やはり、本意ではないけれど、ルカのためにオルレラ家に探りを入れて……。
コンコン。
執務室の扉を叩く音。
鬱々と過ごす中で、政局は大きく変動しようとしていた。
「えぇ」
はぁっ、と二人ため息をつく。
オルレア公爵家からテオドールとクリフトと戻った日から、ルカは塞ぎこんでいる。
正直、バーンのことについては仕方がない……と言わざるをえない。
バーンが受け入れた以上、外野は見守ることしかできないのだから。
もちろん、転学届の申し出を拒否することもできず、私物もバーン本人ではなく家の者が片付け、あっさりとバーンの痕跡はこの寄宿学校から消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その後の消息も知れない。
他の寄宿学校に転学すれば人づてに知ることもできたがその様子もない。
このまま成人までオルレア家で過ごすのかもしれない。
オルレア家であれば、優秀な個人の教師を雇うこともでき、家督を継ぐバーンはわざわざ寄宿学校を出て中央を目指す必要もない。
そうなれば、木こりをやりたいと言っているルカと会うことは、もう、ない。
こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
目障りでしかなった。
どうしても前のルカの面影を追ってしまい、一歩踏み込めない我々に対し、ガキ共はどんどんルカに侵食していたから。
このまま、ルカの心の傷が落ち着くのを見守ればいいのだけれど……やはり塞ぎ込むルカを見ていられない。
「中央に、戻らなくて良いの?」
「かまわない。ここからでも、指示は送れる」
フォルクスはこのルーツ寄宿学校に滞在するようになった。
もちろん、ルカの側にいるために。
刹那的な関係を楽しんでいた私が一切の関係を断ち、夜会に行くこともなくなった。
国内の政のためだけに動き、外交すら最低限で済ませて執務室にこもっていたフォルクスが、視察のみの予定だったルーツ寄宿学校から中央に戻らない。
貴族間では、そんな私とフォルクスが深い仲になってるなんて噂があるみたいだけど、笑えもしない。
フォルクスのことも、ガキ共と同じく邪魔だとしか思っていない。
しかも、ルカが塞ぎ込む原因である今回のオルレラ家との一連も、このフォルクスが噛んでいる。
フォルクスがいなければ、ルカとエルンストは会えなかった。
私だったら……そもそもルカとエルンストを会わせたりなどしなかった。
エルンストのルカへの執着は、当時子供だった私も、気づいていた。
明らかに、ルカとその他では纏う雰囲気が違っていたから。
不遜で尊大でルカに私を紹介された時も視界の端に入れただけだった。
常にオルレラ家のためだけにその手腕をふるっていたから、必要ない者は歯牙にもかけない。
そんなエルンストが、ルカの前でだけ年相応の笑顔を見せていた。
本当にルカの周囲は厄介な相手ばかりだと、私はうんざりしていた。
ルカが消えたあの日以降に見たエルンストは、別人のようだった。
あぁ、私と同じようにルカの唯一になれなかった自分を許せないんだな、と憐れみすら感じた。
そして、ルカがあのルカだと知り、そんなエルンストの息子のバーンがルカに惹かれていると知った時は、ため息が出た。
親子揃って……。
目障りにもほどがある。
でも、ルカとエルンストが交わることはないと確信していた。
野心のある高位の貴族の典型のようなエルンストが、平民のルカと目を合わせることなどない。
バーンが毒物を、と連絡した時すら、命に問題ない以上割く時間はないと返答があった。
とうとうルカと接点をもつかと危惧していたから、良かったと胸を撫で下ろしたのに。
ここにきて、結局知られてしまった。
しかも、ルカ本人がエルンストに告げたと言う……それを許したフォルクスにも腹が立つ。
フォルクスからその話を聞いた時には、どういうつもりかと詰めよったが、ルカの望みは断れないなどと平然とした顔を……はぁ。
いけない。
思い返せば思い返すほど、エルンストにもフォルクスにもバーンにも殺意がわく。
私は、あの人の苦しむ姿など見たくない。
笑っていて欲しい。
それを邪魔する奴らを許さない。
……あぁ、もう、拐って閉じ込めてしまおうか。
そうすれば、悲しみからは遠ざけてあげられるけど、きっと笑ってはくれない。
同じようにルカを苦しめる存在にはなりたくない……はぁ。
何度目かのため息をつく。
私まで、塞ぎ込んでる場合じゃない。
やはり、本意ではないけれど、ルカのためにオルレラ家に探りを入れて……。
コンコン。
執務室の扉を叩く音。
鬱々と過ごす中で、政局は大きく変動しようとしていた。
22
お気に入りに追加
3,817
あなたにおすすめの小説
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる