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在るだけで
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扉を閉じ、その場にずるずると座り込んだ。
エルンストの怒りを目の当たりにし、また俺は間違えていたことに気づく。
勝手に自分で判断し、勝手に行動した。
良かれ、と思って、正しい選択だ、と思って。
あの時もそうだった。
迷いなどなく、最善の道だと信じて疑わなかった。
だが、それが自己犠牲の自己満足だと知る。
シュルツを、フォルクスを、そしてエルンストまでも苦しめる行為だと欠片も気づかなかったあの時の俺。
こうやって再び会って、話を聞いて、その思いと自分の間違いに気づいたと思っていたのに、エルンストに言われるまでバーンの気持ちなど考えてもいなかった。
『あいつは悪くないのに、苦しむことになる。俺が何とかしないと』
違う。
バーンは苦しむと分かっていてこの道を選んだんだ。
俺はその覚悟を簡単に踏みにじろうとしていた。
善意という剣を振りかざして、あいつの矜持をズタズタに切り裂こうとしていたんだ。
うつむき、膝を抱える。
バーンと話さないと。
もう一度誰かに転移を……そう思って立ち上がろうとしていた時に、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「ルカ!」
「バーン!テオにクリフトも……」
俺を追って転移してきたのか。
バーンを先頭に三人は俺を見つけるとホッとした表情をした。
「どうして扉の前に座ってるの?でも、良かった~。オルレラ公爵に無礼だって罰せられてないか心配だったんだよ」
「父上はそんな方では……」
「いえいえ。なかなかの激情型だとお聞きしています。とりあえず一安心ですね」
いつもと変わらない三人のやり取り。
もう、これが最後になるのか。
俺は立ち上がり、バーンと対峙した。
ちゃんと、気持ちを伝えないと。
「……公爵と話をした。俺の考えが間違ってた。バーンが決めたことだ。俺がそれに口を出すのは間違ってた……でも!でも、俺は……お前がいなくなるのは……想像するだけでこんなに苦しいっ」
思わず、自分の胸の辺りをぐっと握りしめた。
「ルカ……」
バーンは少し驚いた顔をして、俺の胸元を握りしめていた手にそっと触れる。
「私の想いはお前の側に置いておく。必ず、取りに戻るから。お前はそのまま、ただ在ってくれるだけでいい」
バーンは晴れやかに笑った。
あぁ、もう、バーンは揺るがない。
俺は、何もできない。してはいけない。
「必ず、だ」
「もちろん」
せめて笑顔で。
「ルカ、僕たちがいるだろう?大丈夫だよ。もしかしたら、すぐまた出会って、今日のことを思い出すかもしれないよ?」
テオがバーンの隣に並び立つ。
「そうです。その日はきっとすぐですよ」
クリフトも同じようにテオと反対側のバーンの隣に並び立った。
きっとみんな分かってる。
こうやって四人で笑い合える日は、かなり先になると。
もしかしたら、そんな日はもう来ないかもしれないと。
それでも。
俺たちはバーンを、バーンは俺たちを信じて。
「このまま、残るの?」
テオの声も少し震えている。
「あぁ。お前たちはもう寄宿学校へ帰れ。次に会う時まで……しばしの別れだ」
「わかっ、た」
一緒に帰りたいと叫びたかった。
それをぐっと堪え、笑顔で頷く。
そんな俺に笑顔を返してくれたバーンはくるりと後ろを向いた。
察知したテオが転移するために詠唱する。
「バーン!」
もう、会えないのか?
一緒に朝練をして、一緒に食堂で食べて、一緒に部屋で笑い合う日は、もう……。
いやだ!
いやだ!!
バーンは転移する瞬間も振り返ってはくれなかった。
エルンストの怒りを目の当たりにし、また俺は間違えていたことに気づく。
勝手に自分で判断し、勝手に行動した。
良かれ、と思って、正しい選択だ、と思って。
あの時もそうだった。
迷いなどなく、最善の道だと信じて疑わなかった。
だが、それが自己犠牲の自己満足だと知る。
シュルツを、フォルクスを、そしてエルンストまでも苦しめる行為だと欠片も気づかなかったあの時の俺。
こうやって再び会って、話を聞いて、その思いと自分の間違いに気づいたと思っていたのに、エルンストに言われるまでバーンの気持ちなど考えてもいなかった。
『あいつは悪くないのに、苦しむことになる。俺が何とかしないと』
違う。
バーンは苦しむと分かっていてこの道を選んだんだ。
俺はその覚悟を簡単に踏みにじろうとしていた。
善意という剣を振りかざして、あいつの矜持をズタズタに切り裂こうとしていたんだ。
うつむき、膝を抱える。
バーンと話さないと。
もう一度誰かに転移を……そう思って立ち上がろうとしていた時に、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「ルカ!」
「バーン!テオにクリフトも……」
俺を追って転移してきたのか。
バーンを先頭に三人は俺を見つけるとホッとした表情をした。
「どうして扉の前に座ってるの?でも、良かった~。オルレラ公爵に無礼だって罰せられてないか心配だったんだよ」
「父上はそんな方では……」
「いえいえ。なかなかの激情型だとお聞きしています。とりあえず一安心ですね」
いつもと変わらない三人のやり取り。
もう、これが最後になるのか。
俺は立ち上がり、バーンと対峙した。
ちゃんと、気持ちを伝えないと。
「……公爵と話をした。俺の考えが間違ってた。バーンが決めたことだ。俺がそれに口を出すのは間違ってた……でも!でも、俺は……お前がいなくなるのは……想像するだけでこんなに苦しいっ」
思わず、自分の胸の辺りをぐっと握りしめた。
「ルカ……」
バーンは少し驚いた顔をして、俺の胸元を握りしめていた手にそっと触れる。
「私の想いはお前の側に置いておく。必ず、取りに戻るから。お前はそのまま、ただ在ってくれるだけでいい」
バーンは晴れやかに笑った。
あぁ、もう、バーンは揺るがない。
俺は、何もできない。してはいけない。
「必ず、だ」
「もちろん」
せめて笑顔で。
「ルカ、僕たちがいるだろう?大丈夫だよ。もしかしたら、すぐまた出会って、今日のことを思い出すかもしれないよ?」
テオがバーンの隣に並び立つ。
「そうです。その日はきっとすぐですよ」
クリフトも同じようにテオと反対側のバーンの隣に並び立った。
きっとみんな分かってる。
こうやって四人で笑い合える日は、かなり先になると。
もしかしたら、そんな日はもう来ないかもしれないと。
それでも。
俺たちはバーンを、バーンは俺たちを信じて。
「このまま、残るの?」
テオの声も少し震えている。
「あぁ。お前たちはもう寄宿学校へ帰れ。次に会う時まで……しばしの別れだ」
「わかっ、た」
一緒に帰りたいと叫びたかった。
それをぐっと堪え、笑顔で頷く。
そんな俺に笑顔を返してくれたバーンはくるりと後ろを向いた。
察知したテオが転移するために詠唱する。
「バーン!」
もう、会えないのか?
一緒に朝練をして、一緒に食堂で食べて、一緒に部屋で笑い合う日は、もう……。
いやだ!
いやだ!!
バーンは転移する瞬間も振り返ってはくれなかった。
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