前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

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自己犠牲~エルンスト視点~

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「好きにしていい」
好きにしていい、ね。
バーンもルカも自己犠牲が相手のためになると思っている時点でどうしようもない。
そんな奴は付け入られるだけだ……俺のような悪い大人に。

「へぇ……バーンの代わりに、お前が俺に対価を、ね」
ありだたく、頂こうか。
バーンがこのことを知ったらどう思うか……それを想像すると笑えてくる。
記憶を失ってまでも守ろうとしたルカはこんなに簡単に手に入るというのに。

「そこの寝台に衣服をすべて脱いで横たわれ」
「分かった」
ルカは淡々としていた。
怯えも羞恥も何もないかのように、寝台の前まで歩み寄ると自らの手で衣服を緩める。
上着を脱ぎ、少し置く場所に逡巡しながらも、寝台のすぐ側に軽く畳んで置いた。
そこからも注視しているこちらの視線も気にせず、上衣も脱ぐと上着に重ねた。
特に何の変哲もない少年の上半身。
見ているこちらも何の感慨もないはずが、なぜか少し鼓動が高まる。
反してルカは何でもないかのように何一つ躊躇することもなく、脱いでいく。
結局、一度も手を止めることなく全裸になり、そのまま寝台に横たわる。

正直、拍子抜けだった。
下履きすら平然と。
少しでも戸惑う所を見せたなら、己の選択の浅はかさを嘲笑って叩き出すつもりだった。
それが、もう全裸で横たわり俺が抱くのを待っている。

思わず詰めていた息を吐く。
「おい、どういうつもりだ?本気で抱かれる気か?」
「当たり前だ。お前が言いだしたことだろ?」
「……お前、意味が分かってないのか?」
「分かっている。お前こそ怖じ気づいたのか?それとも、俺じゃあ勃たない?」
ルカが寝台の上で少し体を起こし、俺を見てにやりと笑った。
「はっ、良い度胸だ」

煽ってきたことを後悔させてやる。

上着を座っていた椅子の背もたれにかけ、ゆっくりと寝台に近づく。
全裸で横たわるルカに目をやると、やはり怯えは見えず平然としていた。
そのまま寝台に乗り上げる。
首もとを緩めながら、近距離でルカを見下ろす。
別人だ。
前のルカのような誰しもが心を奪われる容姿ではない。
いたって、平凡。

だが。

「ルカ……本当に抱くぞ?」
「あぁ、かまわない」
ルカは微動だにしない。
「お前……なぜ平然としている?」
「別にお前のことは知っているし、されることだって想像がつく。数刻俺が耐えればいいだけだろう?こんなことでバーンが記憶を奪われて苦しい思いをするくらいなら俺が……」
「……っ!!」
思わず、ルカの顔の真横の寝台に拳を叩きつけた。
ルカは驚きのあまり目を大きく見開き、俺を見る。
顔の造作も瞳の色も変わっている。
だが、こいつはルカだ!

あの時と何も変わっていない。

「エルンスト……?」
困惑気味に呼び掛けるルカに、腹の底から怒りが沸々と湧く。
「なぜだ!?なぜっ!!」
「えっ」
全裸のルカに馬乗りになる形で、その両肩に手を掛け、軽く揺さぶる。
「姿形は変わっても、お前はお前のままか?お前が俺に抱かれて、守られたバーンの気持ちを、お前は考えたか?守ってもらえて、あいつが泣いて喜ぶのか?」
「っ……」
ルカの顔色が変わる。
「お前が命をかけて護ったこの国でを喜んだのはお前のことを知らない奴らだ。シュルツが、フォルクスが、俺がっ……どんな気持ちで……。お前はさぞかし満足だろうよ。残された者の方がどれほどの絶望か……なぜ、あいつらを見たお前が、まだ分からない!」
「お、俺……」
ルカの身体が震えている。
「何度、繰り返す気だ?自己満足も大概にしろ。……服を着て、出ていけ。バーンの責はあいつにとらせる」

残される者の苦しみをお前が味わう番だ。

ルカの体から離れ、寝台を後にすると、元の椅子に戻り書類に目を落とす。
ルカは暫く身動ぎもしなかったが、やがてのろのろと動き衣服を身に付け出した。
上着を手に持ち、扉の前まで行くと俺を振り返る。
「俺さ……本当にダメだな。あいつらを見て、変わろうって思ったのにな……」
ルカは自嘲気味に微笑む。
「バーンと話す。今度こそ、間違えないために」
そのまま扉の外に出ていくルカを何も言わず見送った。


……あのまま、抱いてしまえば良かった。
そう思ってしまった自分に呆れ、背もたれに体を預け、天を仰ぐ。
あいつが自己犠牲の提案をしてきた時、その後煽ってきた時には、本当に抱いてやろうかとも思っていた。
だが、それよりも怒りが勝った。
あいつが自らを犠牲にし、この国を護った後の惨状を知らないあいつに腹が立った。
シュルツもフォルクスも、死人のように淡々と日々を過ごし、とっとと忘れてしまえば良いのにと嘲笑っていた俺も、結局あいつの変わらない姿勢を見て一瞬であの時の感情に引き戻された。

なぜだ!?

思わず、あの時と同じように叫んでしまった。
もう二度と、あんな感情に浸りたくなどない。
あいつが前のルカと同じならば、これから先に必ずまた同じ道を辿る。

だが、あいつは変わろうと前を向いている。
ここから、か。

「降りるなんて、言うんじゃなかったか?」
フッと息を吐くように苦笑し、あいつの肩を掴んでいた手を握りしめた。
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