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記憶を失う魔法薬~バーン視点~

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「バーン……お前はルカへの気持ちが命をかけるほどだと言ったな?」
父上に諭されるまで、本当に死を受け入れるつもりだった。
この気持ちに、偽りはない。

「はい」
父上に即答する。
少しでも、この想いを分かって頂きたい。
「もう一度、そう思えるか?それならば認めてやろう」
もう一度、そう思えるか?
どういうことだ?
父上の言葉に理解が追い付かず、思わず眉間に皺を寄せる。
反対に、父上は問題が解決したかのように晴れやかな表情だ。
父上は笑顔すら浮かべながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ルカの記憶を消し、もう一度やり直すんだ。最初からな」

ルカの記憶を消す?
そんなことができるのか?
父上は唇の端を少し上げながら、鷹楊に言葉を続けた。

「何かその者にとって人生を揺るがすような出来事があった時に……特にそれが悲惨なものであると人は病む。そんな病んだ者のために魔法薬が作られたらしくてな。つい先日耳にしたばかりで、この俺には必要ないと思って捨て置いたが。まさか、役に立つとはな……。何か思い浮かべながらその薬を飲むと、その思い浮かべたモノに関する記憶を失うらしい。どうだ?その魔法薬をルカを思い浮かべながら、お前が飲め」

そんな魔法薬が……。
確かに、使い方によっては救済だ。
消したい忌まわしい記憶が苛み、日々の生活すらままならない者もいると聞く。
しかし、私は……。

「父上、私はルカを忘れることは……」
父上に再びこの想いを伝えるべく息巻いて発した言葉はすぐに打ち消される。
「お前の想いを示せ、といっている。その魔法薬はまだ完全ではないらしくてな。その消した記憶と再び同様の結びつきがあった時、戻るとか」
鋭い視線が投げ掛けられる。
「お前が本当にルカのことを心から愛しているのであれば、たとえ記憶を失い、新しく出会い直したとしても、また今と同様の結びつきまで心を昇華できるのではないか?」

消した記憶は戻るのか。

ようやく、父上の言われている意味を理解した。
父上は、俺の想いを試そうとしている。
ルカのことを愛おしいと想う記憶を消しても、また再び愛おしいと思えたら戻る魔法薬。
父上が、その魔法薬を用いて試そうとされているのであれば、私の今のこの記憶を消してしまえば、またルカを同様に愛することが出来ないと思っておられる。

……笑わせる。

何度記憶を消しても、どんな出会い方をしても、どんなに歳を重ねても、私はルカを愛する。

こんな簡単な方法があるか?

「父上は、それでよろしいのですか?まさか、記憶を消した後にルカを排するなどということは……」
「はっ!誰に言っている?もちろん、何もしない。だが、ルカの記憶を消せば、同時に関わってきた奴らの記憶も消える。ルカや他の奴らがお前の記憶を取り戻そうと働きかけることは許さない。……それでもいいのか?」
そうなれば、テオドールやクリフトの記憶も失うのか。
……ふっ、少し惜しいと思ったなどと奴らに知れれば、大笑いされそうだ。
ルカを奪い合う相手のはずが、共に過ごすうちに毒されたか。
あの二人は、むしろルカの記憶を失い、敵が減ったと喜ぶだろうか?
いや、あの二人ならば、勝手に戦線離脱するなと責めるかもしれない。
想像し、思わず笑みが漏れた。

そんな態度に眉をひそめていた父上に向き直り、改めて告げる。

「その魔法薬を飲みます。父上に私の想いを分かって頂きたい」

父上は満足そうに頷いた。
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