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真実の行方

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「どういうことだ?」

俺は混乱していた。
やはり、バーンが抱えていた噂話は間違っていた。
フォルクスが言っていた通り、エルンスト自身が流したものだった。

だが、俺がエルンストから相談され、想像した二人が想い合っていた関係ではない。

まるで……共犯者のようだった。

「今の話が真実だぞ?お前が聞きたいと言うから特別に話してやったのに、不満そうだな?」
エルンストは優雅に足を組み換え、微笑む。
俺は、納得がいかない。

「俺に相談したのは何だったんだ?今の話と違う。あの時、俺に嘘をつく必要はなかったはずだ。今の話は本当なのか?」
「残念ながら、本当だ」
エルンストはまっすぐに俺の目を見据えた。
「お前に真実を話す必要はないだろう?ちょっと脚色して聞かせてやっただけだ。お前の反応が見たくてな」
本当に?
そんな風には思えない。

「で?エレノアとの話はアレが全てだ。バーンに話すか?」
……この話のエレノアはバーンの中の母親像とは大きく異なる。
バーンの中での母親は、病弱で、いつもエルンストの愛を胸に生き、汚れのない聖母のような存在。
だが、実際はそうではない。
バーンが憎むエルンストと、とても近しい存在だ。

俺は、バーンに真実を知ってもらいたいと思っていた。
だが、真実を知ることが、幸福とは限らない。

「やめておけ」
頭の中で自問自答を繰り返していた俺をエルンストは鼻で笑う。
「悪者は俺一人でいい」
エルンストはすべてを背負っていくつもりだ。
本当に、それでいいのか?

「嘘は、真実を織り混ぜるとより真実味を増す。あの噂話にも、真実があった。エレノアがバーンを愛していたということだ。バーンのために命をかけて産み、死んだ。そのことをあいつが分かっていればいい」
「でも、お前はさっきエレノアはお前のことを愛してなかったって言ったが、最期の言葉はお前のことだった。エルンストも、お前なりにエレノアを愛していたんだろ?」
「さぁな」
エルンストは不適に笑う。

ごめん、バーン。
この選択はお前をきっと苦しめる。

「バーンに真実を話そう」

沈黙の後、エルンストは、はぁーっと長いため息を吐いた。
「まぁ、お前ならそう言うと思っていたけどな。苦しめるぞ、あいつを」
「分かってる。でも、嘘の話で苦しむくらいなら、真実で苦しんだ方がいい。バーンは乗り越えられる」
「お前を、恨むかもしれない。こんな真実など知りたくなかったと」
「それでも、いい。もう俺のことを友達だと思わなくなっても……それでも俺は……バーンに自分が産まれなければ良かったなんて、思って欲しくないんだ」
俺は必死で笑顔を作った。

「……分かった。お前にここまで言わせた愚息には、俺から話そう。ルカ、連れてきてくれ。その間にフォルクスとは聖教について話そう」
「分かった。あ、の、でも、俺は転移が……できなくてだな……」
「はぁ!?」
エルンストは驚きの声を上げる。
「ふっ、あのルカが……転移ができないのか。お前、見た目だけじゃなくて魔力も落ちぶれたのか?」
「失礼だな!魔力は、ある、けど、上手く制御できないんだよっ。前の俺じゃないっ」
不貞腐れて目をそらした俺は、エルンストの俺を見る柔らかな瞳を見逃していた。
「そうだな……前のお前じゃない。……クレイン、ルカをルーツ寄宿学校へ転移させてやれ」
「御意」
クレインさんが扉からすっと現れる。
す、すごい家令だな……気配も何もない。

「じゃあ、バーンを連れてくる」
クレインさんに転移させてもらう。
ふっと景色が変わると、転移先はまさかのバーンの部屋の前だった。
「え?こんなに正確な転移が?」
「バーン様の部屋だけですよ。有事の際はすぐさま駆けつけるために印を。ちゃんと許可は得てますので。では、わたくしはこれで失礼します。当家へはバーン様に転移をお願い下さい」
スッと頭を垂れると、転移した。
いや、よく使う転移先に自らの魔力を込めた印をつけることはあるが、範囲がここまで限定されない。
あの人、何者?
オルレラ家……改めてすごいな。

バーンの部屋の前で、何度か深呼吸する。
決めたんだ、もう迷わない。

扉を数回叩く。
「バーン、俺だ。話が、したい」
「……入れ」
そっと、扉を開く。
バーンは窓際に腰掛け、外を眺めていた。
その視線を俺へ向ける。
とても、哀しそうな顔をしていた。
「ルカ、先ほどはあんな話を聞かせてしまい……」
「バーン!」
謝罪の言葉は聞きたくない。
きっと、エレノアとのことを思い出していたんだろう?
「俺と一緒に、オルレラ家に行こう」
「?」
バーンが訝しむ。
「真実をお前に知ってほしい」
「真実?」
「俺と一緒に行こう」
「待ってくれ。真実とは何だ?全然、話が分からない」
早く転移しようとバーンを立たせ、せがむ俺の両肩を掴み、困惑気に目を覗き込む。

もう、こうして俺の顔を見てくれるのは最後かもしれない。
真実を知ったバーンは憎しみを込めた目で、俺を見るんだろう。
それでも、俺は。

バーンをぎゅっと抱き締める。
「ルカ!?」
バーンは、何も言わずに抱き締めたままでいる俺の両肩に置いていた手を離し、そっと包み込むように抱き締め返してくれた。

「分かった。一緒に、行こう」
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