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いけ好かない奴~フォルクス視点~

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「久しぶりだな、エルンスト」
「は……?」
得体が知れない者を見る目で、エルンストがルカを見た。

まぁ、それはそうだろう。
ルカは見目も平凡な容姿であり、まさしく平民そのものの身なりだ。
そんなルカが、侯爵という地位の中でも飛び抜けて影響力のあるオルレラ家の現当主の名を呼び捨てるのだから。

そもそも、私がルカを同等に扱えと言った時に、家令のクレインは何かあると思っていたはず。
もちろん、エルンストにも報告済みだろう。
私が酔狂でこの場に愛する者を伴うなどとは端から思っていない。

正直、ルカがエルンストに会わせてくれと言った時、どう考えてもエルンストがこのルカに何かを語ることはないと思っていた。
侯爵家前に転移し、門戸を叩く前に何か策があるのか?と聞くと、自分がルカだとエルンストに告げると言う。
信じてもらえないかもしれないけどな、と自信無さげに言っていたが、これが自分の人生を揺るがすかもしれない告白だと気づいているのだろうか?

シュルツに告げずに出てきて良かった。
絶対に、許さなかっただろう。
一瞬、止めようとしたが、我欲が勝った。

「あの、信じてもらえないかもしれないけど、俺、救国の騎士って言われてるルカなんだ。お前と前の姿で何度も会ってる」
「ルカ……」
さすがのエルンストも戸惑っているようだ。
しかし、すぐにいつもの悪顔に戻る。
「お前……なんでこんなみすぼらしい姿に……」
「みすぼらしいって失礼だろ、おい!……って、信じてくれるのか?」
ルカがまさか、といった表情でエルンストを見つめている。
エルンストはそんなルカに優しく微笑みかけた。

……面白くないな。

「とりあえず、経緯を説明しろ」
「あぁ。あのな……」
ルカが経緯を説明しているが、上手くまとめられなくて同じような話を何度もしたり、時系列がおかしくなっている。
ルカの説明はすごく分かりにくい。

でも、愛らしい。
なので、助け船を出すことなくルカにまかせた。

「……もういい。大体の経緯は分かった」
エルンストは少し頭を押さえながらルカの話を遮る。
理解が早い相手で良かったな、ルカ。

「伝わって良かった。しかし、よく俺がルカだって言っただけで信じたな?」
「お前は誰と一緒に来たと思ってる?この国の宰相だ。この腹黒宰相はいけ好かない奴だが、俺の所に連れてきたからにはお前がルカだと確証があるんだろう。コイツの能力だけは信用してる。お前みたいな貧相なガキが一人のこのこ現れてたら、即始末してたな」
「おい!」

まぁ、妥当だな。
しかし……腹黒宰相だと?
お前にだけは腹黒などと言われたくない。
それに、お前こそいけ好かない奴だが?

「お前がルカだと言うことは分かったが、昔話とは何だ?聖教と関係があるのか?」
「いや、俺がお前に聞きたいのは、バーンの母さんのことだ」
「エレノア?なぜ……って、待て。お前、バーンと知り合いか?年齢的にバーンと同じくらいだろうが……まさか、お前が聖教に拉致されていた平民か!」
「そうだ。バーンに助けてもらった」
エルンストは虚をつかれたような顔をした後、喉奥で笑う。

「なるほどなぁ。あのバーンが平民を友だとか助けるために信条を曲げるなどと言い出したからクレインに調べさせたが、何も出なかった。ルカなんて名前もいくらでもいるから気にしてなかったが、お前本人か……それはそれは」
エルンストは、ちらりと私を見る。
お前の息子ごときが、わたしの相手になると?
平然と見返す。

「で?バーンが望まない婚約をするから潰しにきたのか?」
「いや。婚姻は貴族にとって家の問題だってことは分かってる。バーンが納得してるなら、それでいい。ただ、バーンはお前と母親の関係を噂で聞いて誤解している。なぜ、誤解させたままなんだ?俺がお前から聞いたのはそんな話じゃなかっただろう?お前たちは想い合ってたはずだ!」
「そうか……お前にだけエレノアのことを話したな」
エルンストは昔を懐かしむかのように遠い目をした。

「ルカ、お前は思い違いをしている」
「え?」
「確かに、バーンが聞いた噂は真実ではない。俺が意図的に流したものだ。だが、お前が思っている俺たちの関係も真実ではない」
「……どういうことだ?」
ルカは困惑気にエルンストを見返している。
エルンストがルカに虚偽の話をする必要はなかったはずだが?
真実ではないとは、どういうことだ?

「俺たちは想い合ってなどいない」
「え?でも……」
「エレノアは、俺のことなど愛していなかった」
「え……どういう……ことだ?」

エルンストは椅子に凭れながら、ゆっくりと昔話をし始めた。
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