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ルカとの時間~フォルクス視点~

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今回のルカを狙った一連の流れ……なんとか聖教の尻尾をここで掴みたい。
いつも証拠など何一つ残さないまま行われてきた犯罪行為が、今回はロレーヌ辺境伯という大きな証拠が残されている。
テオドールの声も戻った。
なんとか揺さぶりをかけて、聖教の悪事について証拠を得たい。

ロレーヌ辺境伯の尋問を中断し、中央との連絡のためにシュルツの執務室に戻ろうとしている途中で廊下を歩いているルカを見つける。
その後ろ姿に声をかけると、笑顔で振り向いてくれた。

「フォルクス!丁度お前に会いに執務室へ行く所だったんだ。これから戻るんだろ?一緒にいいか?」
執務室にはシュルツもいる。
どうせなら、二人きりがいい。
「少し、休憩がしたいと思っていた所だった。中庭ででも話さないか?」
「そうかー、休んでるトコ悪い。ちょっと俺に付き合ってくれよな」
ルカになら、いくらでも付き合おう。

二人で中庭の東屋に座る。 
ふと、横に座ったルカを見る。
銀糸のような美しい銀髪が雑に切られた黒髪に変わり、彫刻のような整った顔立ちは今は平凡だ。
それなのに、この胸は高鳴る。
おもわず、その黒髪をそっと鋤く。
「なんだ?何か付いてたか?」
はにかみながら自らの髪を乱雑に手櫛でとかす。
「髪は、伸ばさないのか?」
「んー、もう魔法士として生きる訳じゃないし、長いと手入れしないとだからなー。短くて楽でいい」
まぁ、昔のお前も手入れせずによくシュルツに怒られていたがな?

「で?」
「あ、忙しいのにな。あの、エルンストのことを知っているか?」
オルレラ侯爵エルンストか。
バーンの父親だ。
「もちろん。何が知りたい?」
前のルカとエルンストは同世代ではあったが、そこまで親しかった記憶はない。
私自身もそこまで親しい訳ではないが、ルカよりは知っていることが多いだろう。

「あの、バーンの母さんとのことで……」
「あぁ。知っている。エルンストが無理矢理侍女に手を出した話だろう?」
「違う!」
ルカは即座に否定した。
「俺の知っている話は……無理矢理なんかじゃなかったんだ。なぜ、こんな話になっているか、知りたくて……」
「そうだろうな」
事の詳細は知らないが、その話を聞いた時は何の企みがあるんだろうか?といぶかしんだものだ。
ルカは私の返答に首を傾げている。
相変わらず、察しが悪い。
……そんな所がまた愛らしいのだが。

「フォルクス?」
「すまない。エルンストのその噂のことだったな」
お前に見惚れていた。
「その話の真実は知らないが、オルレラ侯爵家にとって、エルンストにとって、良いものではないだろう?そんな話が、ここまで広まることがおかしいんだ」
「いや、だって、噂ってそんな醜聞が広まるものなんじゃあ……?」
「力のない貴族ならばな」

ルカはここまで言ってもまだ分からないのか、小首を傾げている。 
その姿がまたより愛らしく、ついつい顔がほころぶ。
ルカから目が離せない。
その瞳を覗き込み、見つめる。
ルカが困惑気味に目をそらそうとするのを許さず、両手でその頬を包む。
「フォルクス?」
少しづつ、ルカとの距離を縮める。
あんなに手が届かないと思っていた人が、今はこんなに近い。
「ちょ、おい、まっ……フォルクス!!」
「つっ……」
鼻先まで近づいた所で、ルカに頭突きされる。
「おまっ、何やってんだよ!真剣な話してるのにっ」

怒られてしまった。
宰相の私が。
いや、怒られるようなことをしたのだが。

「何、エロい雰囲気出してんだ!お前、誰にでもそんなことしてるのか?」
「いや、お前だけだ」
「はぁ!?」
「すまない」
「いや、その、謝られてもって言うか……お前、疲れてるのか?」
様子がおかしいと思われてしまった。
今はそんな雰囲気ではないな。
続きはまたにしよう。

「大事な話だったな。エルンストのことだが、あの男は野心家だ。そして、それに見合う才能も権力もある。その男が、自分にとって醜聞となるそんな噂を放置しておくわけがない。すぐに耳に入るし、その時点で手を打つだろう。情報操作など、エルンストにとって容易だ」
「えっ、でも、実際に噂が……」
あぁ、本当にルカは政治に向いてない。
純粋すぎるんだろうな。

「私はエルンストが自分でこの噂を流したのではないかと思っている」
「自分で?」
「なぜ、そんなことをしたのかまでは分からないが、その醜聞を握りつぶすことができたのにしなかったのだから、そう思うのが妥当だろう?それに……あいつは侍女の女に無理矢理手を出すほど、女に困っていない」
「あー……」

やっと理解できたか。
私の言葉を聞いて、思案しているようだ。
思案顔も愛らしい。

……ふっ。
この私の思考に、私が一番驚いている。
この国のために考えなければならぬこと、やらねばならぬことは山積みなのに、ルカを見ていると思考がすべて、ルカに染まる。
色に狂い、国を傾かせる王の伝記はいくつも目にしたが全く理解できなかった。
だが、今なら分かる。
隣に侍らし、片時も離したくない。
政治についてなど、考える隙もないほどに。

「フォルクス、頼みがある!エルンストに会わせてくれないか?バーンに頼めばいいんだろうけど、あいつのために確かめたいから……」
ルカ……お前のためなら何でもしてやろう。
だが、他の男のためか……。
宰相相手の要求は……どれだけ高くつくかな?
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