前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

文字の大きさ
上 下
109 / 146

覚悟~テオドール視点~

しおりを挟む
「テオドール」
医務室で休んでいるとフォルクス様に声をかけられる。
声が戻っていないため返事はできないけれど、寝台で寝ていた身体を起こす。

「休んでいる所、すまない。少し、お前の父親のことを話したい。いつルカが目覚めるか分からない医務室ではなく、別の部屋で話したいのだが、良いか?お前の自室でも?」
父上のことは確かにルカに聞かれたくはないな。
頷き、自室へと戻るため寝台を降りる。
医務室から出る際、まだ眠っているルカの顔をそっと見る。
側にはシュラ先生が控えていた。
まだ眠っているようだ。
僕の声を戻すためにクリフトとバーンがセリアン商会に交渉に行っている。
上手くいくだろうか……。

そのまま医務室を出て、自室へ戻る。
その間もフォルクス様は何も言わず後ろに付き添ってくれている。

自室を開け、フォルクス様を招き入れる。
フォルクス様に部屋の椅子をひき、座るように手で勧めると「ああ」と座られた。
僕には寝台に横になることを促されたが、さすがにその状態で話をする訳にもいかず、寝台の上で身体を起こしたままフォルクス様に向き合った。

「身体に障りはないか?」
フォルクス様に問いかけられ、頷く。
声が出ないことと精神的に追い詰められたせいか疲労は感じるくらいで、問題はない。
「そうか」
フォルクス様がふっと微笑まれる。
視察に来られた時よりも、なぜか穏やかな雰囲気をされていて驚く。
むしろ、宰相であるフォルクス様を巻き込む形になってしまったのに。

「ロレーヌ辺境伯についてだが」
フォルクス様の言葉にきゅっと唇を結ぶ。
「お前も驚いたであろう?転移先に父親がいた時は」
……我が目を疑った。
祝福はされていないと思っていた。
ルカはキラキラした瞳で、成長を喜んでくれると言っていたが、あの父がそんなはずはないと。
まさか、ルカを害しようとするなんて……自分が甘かったんだ。

「幸い、ルカは特に酷い外傷は見受けられない。一番の被害者は皮肉にもお前だ、テオドール。……どうする?今ならば、内々に済ませることも可能だ。大事にすれば……辺境伯の地位を失うかもしれない」
僕は首を横に振る。
ロレーヌを次代の僕が発展させようと思っていた。
父上の望む形ではなくても、そんな僕の姿をいつか認めてくれれば良いと。
だが、父上は犯罪に手を染めた。
そんな人物にこのままロレーヌを治める資格などない。

「厳罰を望む、と」
フォルクス様としっかり目を合わせ、頷く。
「……分かった。聖教が絡んでいるからこそ、辺境伯の証言も欲しい。任せてもらえるか?」
そうだ。
聖教は勢力を拡大し、問題視されている。
政治的な問題もはらむのか……すべてお任せしよう。
頷く。

「では、ここからは宰相としてではなく、フォルクスとして聞こう。ルカと出会ったことを後悔する日が来るのではないか?」
え?
どういうこと?
空気が一気にはりつめる。

「お前が辺境伯を許せないのは分かる。愛しい相手を害しようとした父を許せないだろう。為政者としても、だ。だが、このままいけば辺境伯はロレーヌを没収され、爵位も降格するだろう。それは、今後のお前の人生を大きく左右する。後ろ楯を失くすのだから。気がつけば、お前の側には誰もいない。その時に、ルカが側にいるとは限らないのだぞ?」

フォルクス様の言う通りだ。
僕が父上の権威を失くし、自分の実力のみでやっていけるだろうか?
中央に残る見込みもあるわけではない。
これから、いばらの道だろう。
ルカは本当にキキの村に帰って木こりになるのか、その実力から中央へと進むのかまだ分からない。
でも、きっとそのルカの周囲には僕よりも優秀な人達がいるんだろう。
その中に、ルカが愛を捧げる人がいるかもしれない。
側にいることさえ、できないかもしれない。

それでも。
僕は出会ったことを後悔なんてしない。

僕はしっかりとフォルクス様を見据え、首を横に振る。
何度も。

「……そうか。それならば、私が言うことはない。お前の決意を聞かせてくれたお礼に一つ愚かな男の話をしよう」
フォルクス様は先ほどの張りつめたような空気をとかれ、穏やかな顔で僕を見た。

「男は自分のことをとても優秀だと思っていた。しかし、本当の天才を前にした時、自分の愚鈍さに気づいた。その人は、誰しもが欲する人で、しかしあまりにも高みにいたために、誰も近づけなかった。もちろんその男も。その男はその人の隣に立つために必死で努力した。少しでも近づけたと思った時に、その人は消えた」

これは、もしかして……?

「あの人が守ったモノを自分も守ろうと愚かな男はそれからも必死だった。だが、月日が経つと、その愚かな男は後悔し始めた。こんなことなら、出会わなければ良かったと。それならば、こんな胸が焼けつくような感情は知らずに済んだと。目の前が真っ暗になった。何もかも投げ出して、いっそのこと、消えたあの人の元へ行こうか。今ならば、側に誰もいない……そんなことすら考えるようになった」
……やはり、フォルクス様と救国の騎士ルカのことだ。

「そんな時、愚かな男は気づかされる。今の自分を造り上げたのはあの人ではない。自分自身だ。すべての後悔をあの人に押し付けていた。あの人はいつも前を向いていたのに。そんな姿に惹かれていたのに……お前にそんな愚かな男になって欲しくなかった。だが、物言えぬお前のその表情だけで、覚悟は伝わった」
フォルクス様……。

「私の話は以上だ。辺境伯についてはまた経過は伝えよう。どうする?医務室に戻るか?」
クリフトとバーンが禁書を持ち帰ることができるのかどうか……医務室に戻れば経過が分かる。
でも、もし手に入らなければ……ルカと共にその報告を聞くのは辛い。
僕自身のことだから、最終的な段階になれば、誰か知らせに来るはず。
ここで、待とう。

フォルクス様に首を横に振り、ここに残ると伝える。
「分かった。シュラにそう伝えよう。心配するな、宰相の名にかけてお前の声は必ず戻す。休んでおけよ」
そう言い残し、フォルクス様は退室した。

フォルクス様……僕を自分に投影して、気にかけて下さったんだな。
僕に自分のような苦悩をさせたくないと。
でも、誰にんだろう?
短時間で本当に印象が変わられた。
……まさか。
いや、憶測で決めつけてはいけない。

今後のことも、禁書を二人が手に入れてくれれば良いけれど、フォルクス様の言い様では最終手段として聖教との交渉も考えているのだろう。
それだけは、嫌だ。
あの、白装束の男がルカを見る目……思い返してもぞっとする。

……まずは、二人の交渉がどうなるのか結果を待とう。

少し、このまま休もう。
いろいろなことが起きすぎた。


パタパタとした足音が近づく音で目が覚める。
どれくらい寝ていたんだろう?
頭が少しスッキリしていた。
自室の前でその足音が止まり、トントントンと早めに扉を叩く音。

二人の交渉の報告に来てくれたのかな?
立ち上がり、扉へ向かい開けようとしたほぼ同時くらいに、扉が開かれる。
「テオ!治るぞ!!」
満面の笑みでルカが部屋に飛び込んできた。

治る?
交渉が上手くいったんだ!
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

処理中です...