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自責
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目を覚ますと、ルーツ寄宿学校に帰ってきていた。
「目を覚ました?」
俺の寝台の横に座り、書類を見ていたシュルツが顔をあげ、声をかけてくれる。
俺の目にかかった前髪をそっとはらい、微笑む。
俺は軽く微笑み返しながら、ゆっくりと身体を起こした。
「無理、しないで。気を失う貴方を見るのは、もうこりごりよ」
「すまん。……シュルツ、テオの声は?」
シュルツは首を横に振る。
「テオドールの声を奪っているのは古代魔法なの。今、解呪が記された禁書の手がかりがあると、セリアン商会にクリフトとバーンが交渉に行ってる。その禁書が、手に入るかどうか……ね」
古代魔法!?
あの白装束の男は古代魔法の使い手か!
俺は古代語を読むことはできる。
もちろん、解呪が分かれば古代魔法を使うことも。
本さえ手に入れば、すぐにテオの声を治してやれるのに。
「気に病まないで。テオドールの声は、治すわ、絶対」
シュルツが俺を安心させようと頷く。
俺も解呪の簡単な方法は分かる。
あの白装束の男にさせればいい。
なぜか、俺に執着していた。
あいつと交渉は……許してもらえないだろうな。
でも、もしその禁書が手に入らなければ……。
「テオの、父さん、は?」
「ロレーヌ辺境伯は、あの屋敷にテオドールによって拘束されていたのを捕らえられた。フォルクスが尋問したけど、黙秘よ。貴方を襲った連中も同じく。テオドールは厳罰を望んでる。貴方は?」
「俺は……望まない」
「なぜ?」
シュルツの目が俺を咎めている。
昔もよく言われたな、甘いって。
「俺のやり方が悪かった。テオの父さん、中央に行くことが、すべてだと思ってるんだろ?行かせるためにテオに辛い思いをいろいろさせて、やっとって時に俺がテオを悪い道に引きずり込んだって思ったんだろうな。変わったテオを見て喜んでくれるって勝手に思ってた。もっと、二人に話をさせれば良かったんだ。いつも俺は人の気持ちを理解できないっ……」
前も今も。
俺は良かれと思ってしたことでも相手を傷つけたり、不快な気持ちにさせたりする。
それが、毒の件や今回の件のように、俺の周囲を巻き込んで傷つける。
「ルカ」
シュルツに名を呼ばれ、俯いていた顔を上げると、目の前に美しいシュルツの顔があった。
息がかかるような近距離。
「自分を責めないで。貴方は何も悪くない。絶対に」
「シュルツ……」
燃えるような紅い瞳が、俺を見つめる。
「前も今も、誰がなんと言おうと」
お前はいつも、そう言っていた。
前の俺が何をしても。
常に俺の味方でいてくれた。
そんなお前すら、俺は傷つけていたのに……!
変わらない、変われない自分を責めることだけで、心が染められていく。
唇が軽く触れる。
「へ……」
「口付けしても、いいんでしょう?その先も」
その先!?
「目を覚ました?」
俺の寝台の横に座り、書類を見ていたシュルツが顔をあげ、声をかけてくれる。
俺の目にかかった前髪をそっとはらい、微笑む。
俺は軽く微笑み返しながら、ゆっくりと身体を起こした。
「無理、しないで。気を失う貴方を見るのは、もうこりごりよ」
「すまん。……シュルツ、テオの声は?」
シュルツは首を横に振る。
「テオドールの声を奪っているのは古代魔法なの。今、解呪が記された禁書の手がかりがあると、セリアン商会にクリフトとバーンが交渉に行ってる。その禁書が、手に入るかどうか……ね」
古代魔法!?
あの白装束の男は古代魔法の使い手か!
俺は古代語を読むことはできる。
もちろん、解呪が分かれば古代魔法を使うことも。
本さえ手に入れば、すぐにテオの声を治してやれるのに。
「気に病まないで。テオドールの声は、治すわ、絶対」
シュルツが俺を安心させようと頷く。
俺も解呪の簡単な方法は分かる。
あの白装束の男にさせればいい。
なぜか、俺に執着していた。
あいつと交渉は……許してもらえないだろうな。
でも、もしその禁書が手に入らなければ……。
「テオの、父さん、は?」
「ロレーヌ辺境伯は、あの屋敷にテオドールによって拘束されていたのを捕らえられた。フォルクスが尋問したけど、黙秘よ。貴方を襲った連中も同じく。テオドールは厳罰を望んでる。貴方は?」
「俺は……望まない」
「なぜ?」
シュルツの目が俺を咎めている。
昔もよく言われたな、甘いって。
「俺のやり方が悪かった。テオの父さん、中央に行くことが、すべてだと思ってるんだろ?行かせるためにテオに辛い思いをいろいろさせて、やっとって時に俺がテオを悪い道に引きずり込んだって思ったんだろうな。変わったテオを見て喜んでくれるって勝手に思ってた。もっと、二人に話をさせれば良かったんだ。いつも俺は人の気持ちを理解できないっ……」
前も今も。
俺は良かれと思ってしたことでも相手を傷つけたり、不快な気持ちにさせたりする。
それが、毒の件や今回の件のように、俺の周囲を巻き込んで傷つける。
「ルカ」
シュルツに名を呼ばれ、俯いていた顔を上げると、目の前に美しいシュルツの顔があった。
息がかかるような近距離。
「自分を責めないで。貴方は何も悪くない。絶対に」
「シュルツ……」
燃えるような紅い瞳が、俺を見つめる。
「前も今も、誰がなんと言おうと」
お前はいつも、そう言っていた。
前の俺が何をしても。
常に俺の味方でいてくれた。
そんなお前すら、俺は傷つけていたのに……!
変わらない、変われない自分を責めることだけで、心が染められていく。
唇が軽く触れる。
「へ……」
「口付けしても、いいんでしょう?その先も」
その先!?
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